アシリカル1-9

 

新たな旅へ

 季節は巡り、チュプカントコタンは村人総員で復興に励んでいった。
 壊れた家を直し、田畑を耕し、一ヶ月で村の大体が元通りになっていた。もちろん、アシリカルも里の復興を手伝い、木材を運んだり、寝食以外は休みなしで働いたものである。
 アシリカルの家も修復され、一家は家が直っていない者たちを泊めてあげたり、アシリカルも一階に他の一家を泊め、二階で両親と共に身を寄せ合って寝た。家が先に直った一家から、家の修理が住んでいない一家を泊めてあげるのはどこの家でも行(おこな)っている。
 カントが仲間たちとともにカムイコロヌプリに帰ってから一ヶ月目の夕方、アシリカルは近くの草原とニセウ林を見て、二ヶ月前にカントと出会った事を思い出していた。
(――カント、どうしているかな)
 アシリカルは空が藍色と橙に染まっているのと、空に金色の太陽が沈むのと銀色の月が空に浮かんでいるのを見て、カントの羽と嘴と蹴爪と目の色を思い出して、衣の懐に入れてある羽と空を重ねてみて眺める。
「アシリカルー」
 後ろからランコの呼ぶ声がして。振り返った。
「今、行くー」
 アシリカルはそう言うと、羽をしまい、里の中に戻っていった。里ではみんな煮込み汁を分け合って食べ、空腹を満たした。
 またこの日も家が直っていない家族を一階に泊め、アシリカルと両親は二階の部屋で眠った。アシリカルは机の下の玉手箱と旅の記録帳を取り出して、二十日間の旅を思い出し、もし暇ができればまた旅に出ようかな、と思った。玉手箱の真珠や小金は里の人達に分けてあげたけど、まだ充分に残っていた。今度はそれを旅の資金にして旅に出ようと考えていた。瑠璃色にちりばめた金銀の星々がまたたき、月も満月で丸い銀色であった。
 その時、アシリカルは月の近くから鳥の影が飛んできてくるのを見た。フクロウではない。もっと大きな鳥――。そしてその鳥は里のはずれにあるニセウ林へと向かって行ったのを目撃したのだ。
(あ、あれは、もしかして……)
 アシリカルは思った。そして両親やお客さんが起きないように家から抜け出し、外套を羽織っただけの寝着の姿でニセウ林へと向かっていった。
(あの子が地上に戻ってきたんだ。お願いそうであって……)
 アシリカルはその思いでいっぱいいっぱいでニセウ林へと走っていった。ニセウ林に入っていくと、そこには一羽の青と橙の羽毛に銀の嘴と蹴爪、金色の目の鳥がいたのだ。そして以前よりも一回り大きい。
「カン……ト?」
 アシリカルはその鳥に訊いた。
「アシリカル、久しぶり」
 やはりカントであった。アシリカルはあまりの嬉しさにカントに抱きついた。
「カント、カント、会たかったよ! 元気でいるか、わたしと別れてさびしくないか、心配してたんだよ!」
「アシリカル、ぼくもアシリカルと別れてさびしかった。父さん(ミチ)や母さん(ハポ)たちが、ぼくを地上に送ってくれたんだ。地上に下りて、もうちょっとだけ、アシリカルとそばにいてもいい、って許してくれたんだよ」
 カントは以前よりも声が凛々しくなっており、地上に下りてきた理由を話した。
「もうちょっと、ってどれ位?」
「大人になるまで、いてもいい、って。また、旅ができるよ、アシリカル」
 アシリカルは大喜びして、カントの胸に抱きついた。

 それから一週間、アシリカルとカントは両親や村のみんなの承諾を得て、新たな旅をするために出発した。今度は二人ではない。
「カント、二人も連れて行ってもいい?」
 アシリカルは友達のランコとヤトロと一緒に旅をする事にしたのだった。アシリカルの旅の話を聞いて、ランコやヤトロも国の外を見てみたくなって、アシリカルにお願いしたのだった。
「うん、今度は四人で行こう。カムイシレペツの外へ連れてってあげるよ」
「カント、よろしく」
「よろしくな!」
 アシリカルとランコとヤトロはカントの背中に乗り、チュプカントコタン近くのニセウ林から青く澄んだ空へと飛びだっていった。
 空から見えたチュプカントコタンは全て元通りとなっていた。

(おわり)