フューザー4-2

 

ダンケルカイザラントの挑戦


 惑星アルイヴィーナの地下数十ラヴァン(一ラヴァン=一.五キロ)に設けられた陰の国家組織ダンケルカイザラントの司令室。
 司令室は巨大な台形の形をしており、床は三段、最上段にスクリーンのような仕切りでシルエットしかわからないダンケルカイザラントの首領が無数のコードに繋がれた鋼鉄の椅子に座っていた。
 中段には三人の幹部。長い銀髪に中間肌、赤黒いバイザーで両眼を覆い、黒いショートジャケットと黒いロングスリッタ―、灰色のズボン、黒いブーツの青年、ユリアス。
 女は長いオレンジの髪、褐色のレオタードスーツ、黒いビキニ、長い褐色の袖、黒いニータイツ、褐色のブーツのガルヴェリア。
 そして二ジルクある背丈に筋肉質の体、ボルドーの髪を短く刈り、浅黒い肌、古代紫の袖なしジャケット、黒いズボン、茶色いブーツ、両腕に古代紫の腕カバーの巨漢マレゲール。ガルヴェリアとマレゲールもユリアスと同様、赤黒いバイザーを両眼に装着している。
「お前たち、以前エリヌセウス皇国のエルネシア地方の孤児院をダンケルカイザラントに連行し兵士としての教育を受けさせようとしたが、エリヌセウス皇国の融合闘士(フューザーソルジャー)の若僧四人に妨害されたという件についてだが――」
 上段の玉座に鎮座する首領がユリアス達に言った。冷たく重い声で。
「はっ、申し訳ありません。ですが奴らは経験の浅いひよっ子。我らの方が上手(うわて)ですよ」
 ユリアスは首領に言った。確かに戦闘レベルは高く、また肉体に障害のある部分を人工臓器や強化骨格、急速再生皮膚組織で補強されているユリアスら三幹部の方がジュナたち上級学校生より強かった。
「それと私がヴァンガルド・ゼヴァイアスと取引し、融合闘士強化の秘伝の情報を提供する代わりにあやつは自国の民をダンケルカイザラントに譲渡してくれたのですよ」
 ユリアスが三年に一度の融合闘士格闘大会(フューザーソルジャーコロッセオ)の優勝トロフィーの中に融合闘士強化の秘伝が入っていると小国の裏切り者に教えたことを話した。ただ今年の大会には以前自分らの邪魔をしたジュナたちエリヌセウスの少女たちも参加していたことには驚いたが、相手は知らない方がいいと判断して撤退したのだった。
「まあ不老長寿の民と遺伝子改造による生物強化、そしてダンケルカイザラントに忠誠を誓う融合闘士さえいれば、これから拡大化は望ましいかと」
 ガルヴェリアが首領に伝える。
「だが待て。今は弱き者でも経験を積めばいつかは強く成長し、お前たちを越えることもある。それに、一角有翼の融合闘士も調べる必要がある」
 首領が三人に言った。
「はぁ、あの一角有翼の融合闘士ですか。そもそも彼奴は浮浪者なのかそうでないのかわかりませぬ」
と、ユリアス。あまりしゃべらないマレゲールがジュナたち四人を助けた融合闘士のことを思い出して首領に伝える。
「あいつか、一角両翼の融合闘士……」
 壁に備え付けられた十八のモニター画面は地上のアルイヴィーナの様子が映し出されていた。氷雪と針葉樹の平原、様々な獣が木から木へと飛び移るジャングル、空と傾く日が緋色に染まる南国の海、火口から昇りたつ灰色の煙と赤いマグマが滴って海に落ちて冷え固まる海の火山……画面の一つがユリアスたちが言っていた例の一角有翼の融合闘士の画面に切り替わる。
 融合闘士は全体図の正面と側面と背面が映し出され、他に身長、体重、年齢、融合獣分類、属性が映し出された。
「データは推定だが、性能は中々のモノだな。一人でブレンダニマを弾き返せるほどの力を持っている」
「融合を解いたらイケメンなのかしらね」
 ユリアスがデータの羅列を眺めながら呟き、ガルヴェリアが一角有翼の融合闘士の素顔がどうなっているかと呟いた。
「そして、融合闘士格党大会でエリヌセウスの融合闘士たちは他国や他地域の融合闘士と交流を組んでいる可能性が高い。その融合闘士がダンケルカイザラントに反旗を翻すのは目に見えている」
 首領はそう伝えると三幹部に一つの提案を出してきた。
「大勢で反逆される前に反逆の始まりになる者たちを潰していく。つまりエリヌセウス皇国の融合闘士に毎回一人ずつ我がダンケルカイザラントの融合闘士を送る。我がダンケルカイザラント所属の融合闘士は普通の融合闘士五人分の強さを持つ」
 首領の案を聞いて三幹部も同感した。
「それは素晴らしい考えです」
「その方が面白そうでございます」
「左様」
 ダンケルカイザラントは手始めに自分らに反旗を翻したジュナたちエリヌセウス皇国の融合闘士の殲滅に出たのだった。

 エリヌセウス上級学院、新入生の入学式が終わり、二日経った今、二年生以上の生徒は普通授業を受け、一年生たちは校内オリエンテーリング中だった。エリヌセウス上級学院の一年生となった羅夢も他の自然学科の生徒と共に校内を科目教室、運動校舎、食堂と移動していた。
 さてジュナはというと、同じ普通科の生徒、ラヴィエ・ネックから宿題の内容を見せてもらっていた。授業に使うミニコンピューターのタブレット部分に宿題の問題を書き写してキーボードを叩いて入力していた。
「ジュナ、宿題のページ数を間違えるなんてシャレになってないわよ」
 ラヴィエが自分のミニコンピューターをジュナに見せながら呆れて言う。
「ごめんね。でも写すのは問題だけ。後はお昼ご飯を食べながらやるよ」
 ジュナは問題文を書き写しながらラヴィエに言った。他の生徒は休み時間中にトイレや水飲みに行ったり、次の授業の準備――担任のマードック先生の授業の数学である(ジュナは四時間目に提出するエリヌセウス古文の夏休みの宿題を書き写していた)。
「終わったぁー」
 ジュナがやり忘れた宿題問題の入力を全部終えると、教室に授業開始の音楽が流れ、中に背が高く体つきのいいマードック先生が入って来た。
「起立、礼、着席」
と、委員長の男子生徒が声を出して他の生徒がならって行動する。
「……ジュナ・メイヨー、フィオリーノ・シグニ、ナンナ・クライア……。よし、全員いるな。今日は教科書十三ページから十六ページを行う。教科書を開いて」
 エリヌセウス皇国の上級学校では学科ごとに配られる教科書が異なる。例えばジュナたち普通学科は国語も数学も理化も社会も保健も家庭科も七、八〇ページのものだが、他の学科では例えば商業学科なら経済学や経済理論を習い、その教科書が一四〇ページもあり、
国語や社会や理科といった普通学科の教科書の半分しかない。
(エルニオも羅夢もトリスティス先輩もそれぞれの学科でその学科特有の勉強をしているんだろうな)
 自分と同じ融合適応者であるエルニオは機工学科、トリスティスは工芸デザイン科で各々の学科で学んでいるんだとジュナは教壇の上の大画面に映し出された公式を書き写していた。


 全ての授業が終わり、エリヌセウス古文の宿題も全部書き写して提出できたジュナは軽い足取りで碧空の下カラフルな住宅街を歩いていた。
 羅夢もジュナと同じ学校に入り、宿題もやり終えることができ、そしてダンケルカイザラントの魔の手も出現することはこの二〇日間なかったのだ。
 ジュナは玄関の戸を開け、中に入り手洗いとうがいをしてから、自分の部屋に入った。
「ただいまー」
 ジュナは意気揚々と清潔な自室に入り、ジュナと母親がいないときは留守番をしている融合獣ラグドラグが部屋の中に座っていた。ジュナの部屋にある文学の本や漫画を取り出して読んでいたのだ。
「おう、お帰り。どうだったか?」
 ラグドラグは本を読みながら帰って来たジュナに訊ねる。
「ん、いつも通りだったよ」
 ジュナはデイパックから今日の宿題となる数学の教科書とミニコンピューターを出す。家のコンピューターで宿題を入力してから解き、そのデータをミニコンピューターに移すのだ。ジュナがコンピューターの電源を入れた時、電子メールの受信をチェックした。入っているのは大概が通信販売のダイレクトメールやサイバーネットのニュースぐらいだった。その時、一つのメールにジュナ宛ての謎のメールが入っていたのだ。
 ジュナが開けてみると、それはダンケルカイザラントからのものであった。


『ジュナ・メイヨーへ
 九月九日の木曜日、午前七時にエルネシア地方ザネン区五番街近くのザネン湖のほとりに来い。
 我がダンケルカイザラントの融合闘士と戦え。もし我々が勝ったら、ザネン区の科学者が所有している産業廃棄物燃料変換装置をいただく』


「ええええっ!?」
 ジュナはメールの内容を読んで思わず声を上げて、ラグドラグが駆け寄った。
「どうしたんだ、ジュナ!?」
「こ、こ、これ……」
 ジュナは声と人差し指を震わせながら、メールをラグドラグに見せた。
「何だこりゃ!? ダンケルカイザラントの融合闘士と戦えだと? しかもあっちが勝ったら産業廃棄物燃料装置をいただくだって!?」
「そういえば、テレビでザネン区で工業大学の教授が廃油やヘドロを燃料に変換させる機械を発明した、っていってたな……」
 ジュナはダンケルカイザラントが手に入れようとしている機械のことを思い出す。ザネン工業大学の教授が産業廃棄物の燃料化に成功したニュースを。
「でも、どうしてわたしなの……?」
「あえてジュナにしたんだよ。もし教授本人や政府に送れば、エリヌセウスはダンケルカイザラントと戦争をおっぱじめる。
 被害を少なくしたいのなら、一般国民で未成年、ダンケルカイザラントのことを知っているジュナにしたんだ」
 ラグドラグはダンケルカイザラントがジュナに挑戦状を送ってきた理由を語る。
「でもよ、ジュナ。お前にはやるべきことがある……」
「あ、そっか! 宿題宿題!」
 ジュナは机に座り、コンピューターの画面を切り替えて今日の宿題を始めた。
(……あとでエルニオたちにも伝えないとな。ジュナと俺たちだけじゃ難しいかもしれん)

 木曜日、ジュナはザネン区五番街近くのザネン湖のほとりに来ていた。空は薄い灰色に染まっており、湖は沈んだ青で湖の向こう側に小山の緑が見え、湖のほとりは灰色や茶色の石ころだらけで、ジュナのいる後ろ側には何ラヴァンも離れた先にはザネン区五番街の商店街と住宅街。
 ジュナの他には三日前にジュナが宿題の最中にラグドラグが携帯メールで呼び寄せたエルニオ&ツァリーナ、羅夢&ジュビルム、トリスティス&ソーダーズが来ていた。後ろには四組が乗ってきた臙脂色にクリーム色の小型機動船アウローラ号の機体。
「本当に来るのか?」
 エルニオが両手を組んで片足をパタパタ踏む。
「でも、ダンケルカイザラントの呼び出し状によると、ザネン区のザネン湖のほとりだっていうし」
 ジュナがみんなに言った。
「まぁな。ダンケルカイザラントがエリヌセウス皇国政府や産業廃棄物……の開発者に送ればどうなるか、だもんな」
と、ラグドラグ。
「よく考えればエリヌセウス国民全体が人質ですもんね。お父さんお母さんたちが知らないとはいえ……」
 羅夢が頭を抱えて言った。ダンケルカイザラントが世間に知られていないとはいえ、もし知られてしまえば全面戦争になって衣食住や通勤通学に支障が出るのは当然の如く、無関係な人まで生死にかかわる危険も高い。
「もうすぐ七時になるわ。十五、十四、十三、一二……」
 トリスティスが携帯電話の時計表示を見つめる。
「五、四、三、二、一……」
 エリヌセウス皇国午前七時になったと同時に空から白い稲光が落ちてきて、ジュナたちの前で激しく光った。
「うわっ!!」
「きゃあっ!!」
 バシン、という音と同時にジュナたち四組の前に一人の融合闘士が膝を曲げて着地していたのだ。
「みんな、大丈夫か!?」
 エルニオが稲光の落下で驚いて体を丸めたジュナたちに言った。
「ええ、何とか……」
 ジュナが顔を上げると、自分たちの前に現れた融合闘士に視線を変える。
「あなたがダンケルカイザラントから送り込まれた刺客なの?」
 ジュナが融合闘士に訊ねると、融合闘士は「ああ、そうだ」と低温で語尾の高い声で言った。
 融合闘士は耳と牙と尾と爪を持つ牙獣族の融合獣と融合しており、体の色は淡い黄色(サワーイエロー)に茶色の稲妻型の模様に強い黄緑(グラスグリーン)の眼、鳩尾辺りに眼の色と同じ色の契合石が付いていた。
「俺はダンケルカイザラントのユリアス様に仕えるトルモ二―だ」
「俺は融合獣のヴィエーライ」
 トルモ二ーという男の声とは違った融合闘士の口から声の高い男の声がした。
「……あえて融合獣と適応者として登場しないのには、何か理由でもあるんですか?」
 ジュナはトルモ二ーに訊ねる。
「何か……って、最初から集合していれば戦いやすいと思っていただけだ。それだけ」
 トルモ二ーは「あえて融合形態で現れてやったんだ。ありがたく思え」という風にジュナたちに言った。
「あとそれと、俺たちが勝てば廃棄物燃料変換装置はいただく。ちなみに俺たちは一組で普通の融合闘士五人分の強さだ」
「えっ……」
 羅夢がダンケルカイザラント所属の融合闘士のスペックに聞いて驚いた。
「ふん、どうせ付け焼刃だろう。俺らみたく一ヶ月二ヶ月かけて訓練した訳じゃねぇのに。行くぞ、ジュナ!!」
「うん!」
 するとトリスティスとソーダーズが後方へ下がる。
「あっ、私とソーダーズは水属性で雷に弱いから見学させてもらうわ」
「悪いけど、三組で頑張って下せぇ」
「わかりましたよ、三人でやりますよ!」
 羅夢が雷が苦手なトリスティスとソーダーズに言った。
「融合発動(フュージング)!!」
 三組が叫ぶと、ラグドラグとジュナは白い閃光、エルニオとツァリーナは翠の旋風に包まれ、羅夢とジュビルムが桃色の花弁に包まれ、それが弾けるとジュナ・エルニオ・羅夢はそれぞれの融合獣と融合した融合闘士に変化したのだった。
 ジュナは白竜の頭部と爪と尾と翼を持つ融合闘士となり胸に明紫の契合石が輝き、エルニオは緑鳥の頭部と翼と四肢の蹴爪と長い尾羽を持つ融合闘士となり喉に薄青い契合石が輝き、羅夢は跳兎(ジャニンヘン)の長い耳と尾と持つ薄桃色の融合闘士となり腹部に若葉色の契合石が輝く。

 

 融合闘士となったジュナ・エルニオ・羅夢はトルモ二ーの方へ駆け出していく。羅夢が跳兎特有の跳躍力で地面を強く蹴り、トルモ二ーにキックを向けてくる。だがトルモ二ーは掌から淡い黄色の雷撃を放ち、キックを仕向けた羅夢に当たった。
「きゃあっ!」
 羅夢は雷撃を受けるがエルニオが飛んで地面に叩きつけられずに済んだ。ジュナがトルモ二―に拳を向けて強く打ち付けるも、トルモ二ーは雷撃に覆われた拳をジュナに向けて鳩尾に入れたのだった。
「きゃああっ!!」
強く突き飛ばされたジュナはかなりの後方まで飛ばされ、川原に大きくえぐれた痕がついた。
「この人……強い……」
 ジュナが体を起こしながら立ち上がると、ラグドラグがジュナに言った。
「付け焼刃の強さだが、奴は体を改造しているんだ……。融合適応者の体に急速再生皮膚組織や筋力強化剤、硬骨格で常人より倍かそれ以上の体力を得て、更に融合獣と一体化することで十倍の強さを得ている」
 ラグドラグの人体強化の話を聞いてジュナは歯を食いしばって立ち上がる。
「やられてたまるか……。エリヌセウス全体に危機が迫る前に……」
 エルニオと羅夢は武器を契合石から取り出し、エルニオは緑鳥の頭が銃口になっている拳銃、羅夢は柄が薄桃色で植物の蔓を思わせる鞭を取り出してトルモ二ーに緑色の光弾を撃ち放ち、羅夢も鞭を振るってトルモ二ーの手足を拘束しようとしてきた。だがトルモ二ーはエルニオが撃ち放った光弾を左手から雷光のバリアを張って防ぎ、羅夢の振るった鞭も右手に巻きつくと大きく持ち上げて羅夢は空中を舞って投げつけられたのだった。
「きゃあっ!」
羅夢は石ころだらけの地面に叩きつけられ、戦いには参加しなかったトリスティスとソーダーズが駆け寄る。
「ちょ……大丈夫!?」
「気にしないでください……」
「ちょっと大変だけど……」
 羅夢とジュビルムが心配してきたトリスティスに言いながら立ち上がる。
(敵が雷属性じゃなかったら四人で束になれたのに……)
 トリスティスが自分の弱点に悩みながらも三人を見守るしかなかったのだ。
「豪風昇拳(テンぺスターブロークン)!!」
 エルニオが右手の拳に風をまとって溜めこんだ翠の竜巻を放出させた。
「梅花爆弁(ブルーメンボンバティエ)!!」
 羅夢も両掌から桃色の花びら状の爆弾を放ち、トルモ二ーに向けた。
「無駄だっつてんだろうが!!」
 トルモ二ーは両腕に雷撃をため込み、地面を強く叩いて雷撃が二人の方へ走るように向かってきたのだ。
「わああああ!!」
 トルモ二ーの雷撃を受けたエルニオと羅夢は叫びを上げた。そして火花を立てながら膝まづいたのだった。
「言ったろ、俺らは常人より強いって!」
 トルモ二ーがエルニオと羅夢に向かってあざけりながら笑った。その時だった。
「ハッ!?」
 それはジュナが白金の刃を持つ剣をトルモ二ーに向けてきたのだった。トルモ二ーは右手から雷撃を剣の形にして受け止めた。
「まだやるのか? どっちにしろ俺らの勝ちなんだから」
「……まだ決着はついていない」
 ジュナはトルモ二ーとつばぜり合いながら言う。
「改造もしていない融合期間も短いお前らが勝てる筈がねぇ!!」
 トルモ二ーは剣を振るってジュナを弾き飛ばした。ジュナは後方へ転がるがそれでも立ち上がった。
「確かに、わたしは融合期間が短いし改造なんてものもしていない。けれど、それはダンケルカイザラントの掟であって世間の掟じゃない」
 ジュナは剣に力を込める。すると剣が白く光りだし、ジュナの体にも白いオーラがまとう。
「な……何だ、この光は……?」
 トルモ二ーは後ずさりするものの、雷撃を込めた両掌をジュナに向けて放った。トルモ二ーの両掌から黄色い獣型の雷撃がジュナに向けられたのだ。
「雷獣咆哮(ガルバニックビースト)!!」
 エルニオ・羅夢・トリスティス・ソーダーズがトルモ二ーの放った技でやられると思って目を見開いた。だがジュナは剣を大きくふるって跳躍し、雷撃の獣を真っ二つにしたのだった。その刹那、じゅなたちのいる処だけ空が黄色くなったのだ。それだけでなく、トルモ二ーも倒れたのだった。
「創生竜斬刃(ティアマートインパルス)」
 ジュナは着地すると、倒れてうつ伏せのトルモ二ーに言ったのだ。
「わたしの方が速かった」
 ジュナの台詞を聞いて、エルニオ・羅夢・トリスティス・ソーダーズはきょとんとなった。
「どこらへんが速かったんだ……?」
 誰もがジュナの動きを見ていたけれど、よくつかめなかった。

 ジュナたちはトルモ二ーを倒した後、各々の家へと帰っていった。家族には適当な理由をつけて外出したから、いい気持ちでなかったが。
「あーあ、やっぱし何もないのが一番だよ」
 ジュナとラグドラグは家に帰って母親が作った昼食を食べた後、二階の自室でテレビドラマの再放送を視聴しようとテレビモニターの画面をつけると、たまたまそのチャンネルだったニュースを見て驚いたのだ。
『次のニュースです。今日未明、エルネシア地方ザネン区五番街のザネン湖無人地帯で謎の光が発生したのと、エリヌセウス工業大学環境学部ロジッサ教授の開発した産業廃棄物燃料変換装置を盗もうとした男とのその融合獣を逮捕したという情報です』
 すると画面は黄色い体に茶色の稲光模様の融合獣とやせ型に眼鏡の多人種(ノルマロイド)の男がエリヌセウスの警官によって連行されている映像に変わったのだ。
「なっ……。どういうことだ!? 俺らと戦っていたあいつが盗もうとしていた? どういうこった!?」
 ジュナたちはトルモ二ーに勝った後、後は彼の上司に連れ戻されると思ってそのままにしたのだった。それがいつの間にか産廃燃料化装置を盗もうとしたことになっていたのだ。たった一ノルクロ半(一時間半)の間に。
 その時、ジュナの携帯電話にエルニオからのメールが届いたのだった。ニュースでダンケルカイザラントの刺客が窃盗犯にされたことを。おそらく羅夢やトリスティスの気づいていると思われる。この疑問に。

 ダンケルカイザラントの司令室に向かう通路。通路は青みがかった金属で出来ており、一ゼタン半(三メートル)おきに水や炎などの侵入を防ぐシャッターが設置されている。その通路をユリアスと黒い毛並みに牙と爪と眼が赤くて鋭い融合獣ヴォルテガが歩いていたのだ。
「装置そのものは奪っていないが、装置の設計図のコピーはまんまと奪えた」
 ユリアスの掌の上の設計図の写しが入っている小さなデータチップを見てほくそ笑む。
「トルモ二ーとヴィエーライはガキどもと戦っている間に俺たちが設計図のコピーをいただいていたなんて、思ってもいないだろうな。
 開発者のいる大学に『装置を盗む』というデマを送り、奴らは警察を呼んで近くにいた怪しい奴を逮捕するように頼む……。ちょろいものだな」
 ヴォルテガも顔をにやつかせながらユリアスに言った。
「失敗は赦されない……が死んでもらうより、生きながら裁かれるだけでもありがたいと思え。トルモ二ーより有能な部下はたくさんいるからな、このダンケルカイザラントには」
 ユリアスとヴォルテガは笑いながら、本日の物品をボスに捧げにいった。