逆恨み

 
 坂本(さかもと)育子(いくこ)は私立星影(ほしかげ)高等学校の二年生。
学年一の美人で、成績はいつも三十番以内、そのうえ年に何回か行われる校内美人コンテストのグランプリだった。
 彼氏の山下(やました)優(すぐる)も女子が主催するイケメンコンテストのトップだった。
 二学期の始まり、育子のクラスに転校生がやって来た。
「今日からこのクラスに入る美(み)島(しま)尚(なお)香(か)くんだ。みんな、仲良くするように」
 転校生の尚香は、お花ちゃんのようにかわいい女の子だった。
「宮城からやって来た、美島尚香です。よろすくお願いします」
 尚香は訛りのあるしゃべりで、みんなにあいさつした。
「うおーっ、かわいーっ‼」
 男子達は尚香を見て叫んだ。だが、育子は気分が悪い。
(ふん、何よ。あんな頭の悪そうな女なんて)
 休み時間では、男子達が尚香のところに集まっていた。
「前の学校では何していたの?」
「好きな食べ物は何?」
「なっちゃんって呼んでいい?」
 男子達からチヤホヤされている尚香を見て、育子は思った。
(チヤホヤされているのも今のうち。頭の悪い女なんて、すぐ無視されるのよ)
 そう考えていた育子だが、尚香が来たことにより、育子の生活が変わってゆく――。

 ある日のこと、放課後に彼氏の優に呼び出された育子。
「なぁに、話って?」
 すると優の口から、信じられない言葉が出てきた。
「俺と……別れてくれないか?」
「えっ!? どういうこと?」
「じ……実は、美島さんに告白されちゃって……。ついOKしちゃって……。すまないけど、俺と別れて!」
「そんな……。」
 優から別れ話を切り出されてしまった。
更には育子に追い討ちを追わせる出来事が‼


 校内美人コンテスト発表の日――。
「これ、どういうこと!?」
 コンテスト発表の欄には、育子は二位になっていたのだ。しかも一位は尚香だった。
(彼氏だけでなく、コンテスト一位の座まで奪うなんて……。許さない……。)
 そして育子は、恐ろしいことを始める……。

 一週間後――。学校の掲示板に人ごみが集まっていた。優と尚香が目にしたのは、とんでもないことであった。

『二年一組の美島尚香は、他人の彼氏を奪った悪女である』

 それは新聞の切抜きで貼られていた。
 パソコンの授業の時間では――。
「ん? 何だこれ!?」
 授業中にネットサーフィンしていた生徒が、怪しいサイトを見つけた。
「『美島尚香の秘密』? なんだこれ?」
 そのサイトを覗いてみると……。
『美島尚香 星影高校二年一組
 趣味 男漁り』
と、書いてあったのだ。
「嘘だろ? 美島さんが?」
 みんなは尚香を見た。尚香がそんなことをする筈はない。
「み、みんな、何でそんな顔をするの? わたすは別にそんなことは……」
 軽蔑するような眼差しだった。ただ一人ほくそ笑んでいる人物がいた。育子だった。
 そう。掲示板の中傷も、尚香のサイトも全て育子がやったことであった。
(人の彼氏を奪った報いよ……)
 それからサイトは更新され、サイトの日記には、「今日は○○くんと遊んでキスし
たのー❤」等と、尚香の身に覚えのないことが書かれていた。
 最初は尚香がかわいいと思っていたみんなもサイトの更新を信じ、尚香に冷たい眼を向けていた。
「かわいくて素直な子だと思っていたのに」
「男にだらしないのかよ」
「友達になれそうだと思っていたのに。サイテー」
「あんなの人間の恥だよな」
 人とすれ違うたびに冷たい眼を向けられ、教室ではヒソヒソと噂を立てられ、尚香は登校拒否に陥ってしまった。
 優も尚香が信じられず、育子とよりを戻すことにして、尚香と別れたのである。育子は自分のもとに優が戻ってきたのを喜んだ。
 尚香が学校に来なくなってから五日目のことだった。優と育子は廊下を歩いていた。
「育子、歴史のノートを貸してくれ。写し忘れたところがあったから」
「うん、いいよ」
 そう言って、育子は鞄からノートを取り出した。その時、ヒラリと何かが落ちた。
「何だこれ?」
 優が拾い上げると、とんでもないことが書かれていた。

「美島尚香を嫌われ者にする方法
① 私から優を奪ったことを学校のみんなにバラす
② 尚香の趣味を「男漁り」にすれば、みんな近寄らなくなる
 そうすれば優も私のところに戻ってくる」

 優は育子の計画を見て、怒りに震えた。
「育子! お前、自分が何やったかわかっているのか! これは立派な犯罪だぞ! お前の逆恨み一つで人一人が傷ついたんだぞ!」
 だが育子は、
「悪いのはあの子よ! 私の優を奪ったんだから!」
「失恋一つで人を傷つける方が悪いんだ!お前だってそんな事されたら嫌だろ?」
「……」
 優に怒鳴られて、育子は口をつぐんだ。目には涙がうっすら浮かんでいた。育子が反省したのを見て、優は言った。
「育子のしたことは、学校や家族やみんなには言わない。でも尚香には謝れよ」
 優に言われて、育子は涙の出ている顔で頷いた。
「一緒に尚香の家に行こう」
 育子は優に連れられて、尚香の家に向かった。尚香の家は学校から歩いて十分のところにあり、瓦屋根の平屋だった。チャイム
を押すと、尚香の母親が出てきた。
「尚香さんに会わせてくれないでしょうか?」
 優が言うと、母親は家に入れて、二人を尚香の家に案内した。部屋はカーテンで閉めて暗くなっており、部屋の隅に尚香が座っていた。
「何すに来たの?」
 尚香が暗い顔で二人を見て言った。
「ごめん、尚香。私、あなたにひどいことをした……。彼氏取られたのと美人コンテストの一位を取られたのが、悔しくて悔しくて……、バカな事をしちゃった……。ごめんなさい……」
 育子が泣きながら謝った。泣いている育子を見て、尚香が言った。
「もういいよ。自分が悪いって思ってるのなら、許すてあげる」
 こうして、育子と尚香は仲直りした。
 翌日、尚香は学校に来た。みんなの反応は変わっていた。尚香はやっぱり、そんなことをする筈がない、と信じていたからだ。
 そして、育子と尚香は親友同士となった。