ワンダリング2-1

 
合成有機人間
 
「キッチンに着いたら何を作ろう。まだビルドスの大公様からもらった野菜や穀物がいっぱいあるから、それでご飯にするか」

 リブサーナはキッチンに着くまで、今日の晩食の献立を考えていた。ワンダリングスは六人だけの雇われ兵団だ。戦闘だけでなく、日常面での料理担当や宇宙船の操縦といった役目も課せられる。ワンダリングスのような雇われ兵団は宇宙連合軍からの要請がない時は衛星の一ヶ所や途中休憩の惑星、宇宙空間に浮かぶ宇宙市場コスモマーケットで温和な時を過ごす。

 ウィッシューター号の中は操縦席、キッチン、食堂、トイレ、バスルーム、銃撃訓練室、武術訓練室、各人の個室、治療室、ブリックの研究室、巨獣層の下はエンジンルームや倉庫という風になっている。

 リブサーナがキッチンに向かう途中、ブリックの研究室の扉の向こうからかすかな音が聞こえてくるのを耳にした。

「……?」

 一体、何の音かとリブサーナはブリックの研究室に入る。研究室の中は棚に収められた特殊な立方体のクリアケースに収められた薬品が用途別に収納され、金属のテーブルにはフラスコやメスシリンダーなどの研究用具が置かれ、それらには全て磁石が付いている。宇宙船の震動で落ちないようにするためである。リブサーナが薬品の容器を一つ一つ手に取ってみるとそれは赤だったり青だったり、ラベルには「どこの惑星の何という動植物のエキス」などと書かれている。リブサーナには読めないがフアクトリウム文字で書かれている。

「ブリックってただ好きで研究やっているだけでなく、新しい目的地に合わせて治療薬や色んな薬作っていたんだなー……」

 リブサーナは呟く。薬棚と実験器具のある机の他には用具を洗うためのガラス窓付きの洗浄機やブリックが自分の部屋から持ってきたノートPC、掌に乗る程のデータディスクが数枚。これからの中に今まで作った薬品の製造法などが入っている。

 リブサーナはさっきから聞こえてくるかすかな音がこの研究室の奥から聞こえてくると察して。そこへ近づいた。研究室の奥には人間一人が入れる扉と覗き窓がある。覗き窓はリブサーナの顔と同じ大きさでそこから中の様子が見れる。リブサーナがそこを覗くと、長い銀髪を生やし、乳白色の肌を持つ合成有機人間レプリカントのブリックが暗銅色の寝台に横たわり、ほとんど裸体で腕や脚や胴体に様々な薬品のチューブやコードに繋がれている姿を目にしたのだった。

「……っ!」

 リブサーナは体にコードやチューブをつながれて寝ているブリックの姿を目にして、驚いた。しかし、不老長寿のレプリカントでも体を壊すことがあるのだろうか、とリブサーナは思った。

(レプリカントって確か、ヒューマン型の星人と違って体が丈夫で傷の回復力もある、って聞いたけど)

 リブサーナが覗き窓からブリックの寝ている姿を見つめていると、後ろから野太い声が飛んできた。

「おい」

 リブサーナはその声で小さな悲鳴を上げて驚き、振り返ると黄色の触角と赤い三白眼に赤茶色の体の巨漢、ジーザス星人ドリッドがリブサーナに声をかけた。

「お前、こんな所で何をやっているんだよ。今日の晩飯当番はお前だろ」

 ドリッドはリブサーナに訊ねる。ドリッドはいつも灰色やベージュの軍服を着ており、今日はモスグリーンの古い軍服を着ている。

「えっ、ああ。ブリックの研究室から聞きなれない音がしてきて、覗いてみたらブリックがここにいて……」

「ああ、こりゃメンテナンスだな」

「メンテナンス?」

 リブサーナがドリッドの発した台詞を聞いて訊ねる。

「ブリック達レプリカントは四〇日に一度、二十四時間はメンテナンスを受けなくちゃないからよ。レプリカントはヒューマン型星人に似ているけれど、ヒューマンとは違った成分を持っているからな。

 ヒューマン型星人は主に主に水や炭素、アンモニアや石灰、リンや塩分など自然成分だが、レプリカントは寿命延長成分エタナリウム、老化防止成分アングロイウムなどといったヒューマン型星人にはない成分を持っているからな。

 エタナリウムやアングロイウムは上手く扱わないと死にいたる化学成分だからな、ヒューマン型星人には」

 リブサーナはドリッドからレプリカントのメンテナンス必要理由を聞いて、沈黙したまま納得する。

「レプリカントは四〇日に一度だけ、メンテナンスをしておかないと本来の寿命より命が縮むからな。ブリックが艦長に拾われてレプリカントと知った時、知人のレプリカントの連合兵がいる連合軍部にウィッシューター号にメンテ室を造ってもらったんだぜ」

 ドリッドはブリックがワンダリングス艦長、グランタスに拾われた経験を話す。ブリックはかつてエプシロン星域のフアクトリウムって星の植民先の準惑星のエネルギー鉱山で働いていたがそこの爆発事故で仲間と散り散りになり、グランタス艦長に助けられてワンダリングスに入ったのだった。

「でも、どうしてブリックがレプリカントだってわかったの?」

「レプリカントには右足首に個人の識別番号のあざがあるんだ。外見でヒューマン型星人と見分けられる方法といってもいい」

「足首ねぇ…て」

 リブサーナは覗き窓からブリックの足首にある識別番号を確認しようとしたが、ブリックの胸から下は見えない。

「それよりリブサーナ、そろそろ晩飯作れよ。油売っていないで」

 ドリッドに言われてリブサーナはすっかり忘れていたのを思い出した。リブサーナとドリッドはブリックの研究室を出て、共にキッチンへと向かっていった。

 

 ブリックがいるレプリカントメンテナンス室は個室のベッドを一回り大きくしたような場所で寝台の他には壁や床に備え付けられたレプリカントに必要な薬品のカプセルが設置され、ブリックは黒いショートパンツの姿で寝そべっていた。コードやチューブの先は針でふくらはぎや太腿、胸や腹、上腕や手首に刺してある。

 両目を閉ざしたブリックは夢を見ていた。

 ブリックがかつてワンダリングスに入る前に働いていたフアクトリウム星の植民先の準惑星、そこは赤茶の乾いた大地と宇宙のチリで包まれた紫と灰色の混じった空、乾いた大地には大小の鉱山があり、高山近くの平地にはレプリカント達が済む白いドーム型施設が十棟あった。

 ドームにはレプリカントらが一つに五人が集まって住める居住区で、ブリックもソ寝起きしていた。とはいってもレプリカントは五日間寝なくても平気で、四〇日に一度のメンテナンス以外は一日二度の食事と五日に一度に休日だけで活かせるのだ。

 高山からは様々な気体、鉱石、金属、油分といった生活エネルギー源が採れ、ブリック達の主であるフアクトリウム人やフアクトリウム人からエネルギーを買う客らはにとってそれらは有害で、どんなに傷ついても回復力が早く、体力もあり、知性もたけていて三〇〇年生きられるレプリカントはこの場に最適な労働者であった。

 レプリカントらは個人によって働き場所が異なり、ブリックは四人の同場のレプリカントの男達と一緒に金属採掘を当てられていた。どのレプリカントも外見や性格、名前も識別番号は違うが、誰もかれもが美形で白い丈夫な素材の作業着が共通点であった。

 ブリックも鉱山から出る金属を掘り当て、レールを敷いたトロッコに乗せて、拳魔担当のレプリカントに渡していた。

 レプリカントでも有機生命体のように友情や恋愛感情は生まれるもので、ブリックにもセルヴァという恋人のレプリカントがいたのだ。

 セルヴァはブリックと同じレプリカント製造センターで造られ、二〇日遅れで完成した。

 セルヴァは小柄であどけなく、薄桃色のショートヘアと明るい水色の瞳が特徴で、セルヴァはセンターでの職業訓練で鉱山での仕事が向いておらず、居住区の賄い役として働いていた。ブリックは彼女と逢い引きをし、鉱山主によくセルヴァとの休暇をいただいていた。その時は二人で宇宙市場コスモマーケットへ行ったり、エプシロン星域内の一日中虹がある惑星に出かけていた。

 だがブリックがフアクトリウム植民準惑星で働いてから七〇数年、エネルギー資源採掘するための機械の故障に誰も気づかず、気体エネルギーに引火してしまい、ブリック達のいた場所が大爆破し、働いていたレプリカント達は宇宙各所へと流され散っていった。

 ブリックの瞼の裏に映ったのは、セルヴァの泣く姿であった。

「セルヴァ!!」

 ブリックが思わず叫んだところで、セルヴァの姿は消え、目に入ったのは象牙色アイボリーの天井からいくつもぶら下がった薬品のカプセルがあるレプリカントメンテ室だった。それだけでなく右手も上に伸ばしていた。

「ゆっ、夢か……」

 ブリックは夢というものは滅多に見ないもので四〇日に一度のレプリカントメンテナンスの時はよく夢を見る事が多い。それは主に後で本当になる〈予知夢〉や遠くの出来事がわかるものではなく、ワンダリングスでの仲間と楽しいひと時を過ごすもので、かつての植民惑星での仲間や恋人の夢なんて見た事がなかった。

「セルヴァ、みんな……」

 ブリックは爆破事故で宇宙各所に散っていった仲間の事は哀しくさびしく感じたが諦める事を受け入れたのは三、四ヶ月経ってからであった。レプリカントは簡単に死ぬ事はない。かつての仲間と永久に会えない事はあったとしても、別々の場所で生きていると思えば何だが苦しくない、そう思えてきたのだ。

 セルヴァと逢えないのは残念だが、他の男レプリカントがセルヴァを幸せにしてくれるのなら、ブリックは安堵できるのだった。

 ブリックは一粒の涙を零すと、起き上がって体についたコードやチューブを外した。瞬時に痛みを感じるが、紅い点は砂漠に垂らした水滴が日差しで乾くように消えてしまった。これがレプリカントの傷の回復力の速さである。ブリックは薬品の管を全部抜くと、傷跡が一つもないのを確かめると、蒼い全身スーツと白いブーツを身にまとい、自分の研究室から出たのであった。

 食道内では暗銅色の床から生えたテーブルと椅子に座り、リブサーナ達五人は今日の晩さんを終えたところであった。食器やフォークなどの道具を一つにまとめて、食堂テーブルのワープ装置を作動させる。食器類は黄色い光の粒子に包まれ、食堂からキッチンの食器洗浄機の近くへ転送させ、リブサーナは食器を機械の中へ入れるため、隣のキッチンへと駆けつけていった。

「じゃ、わしは操縦席へ行ってくる」

 食堂奥の上座に座っていた黒褐色の体に黄褐色の複眼と両眼と触角と肩の「<」の状の突起を持つインデス星人のグランタス艦長がみんなに言った。グランタス艦長は雇われ兵団ワンダリングスの官庁で、老兵だが歴戦の名高い戦士である。

「じゃあ、俺も訓練室に行って体を鍛えてくるわ」

 ドリッドも上座から見て左手前の席を立ち、食堂を去る。

「はいよ。お風呂は私が先に入っていい?」

 上座から右手前の席に座るアンズィット星人の女性兵、アジェンナがドリッドに訊ねる。アジェンナ達アンズィット星人はヒューマン型星人に水銀のような長い触角と背に透明銀の翅を持っている。アジェンナは長身に背中が隠れるほどの濃紺の髪と白真珠の肌と濃紫の瞳を持ち、紫のタンクトップとカーキ色のズボンと長い編み紐ブーツの姿である。

「ピリンもいっちょに入ってもいい?」

 アジェンナの隣に座るフェリアス星人の幼女ピリンが入浴の同伴につき合ってもいいか訊ねる。ピリンは若葉色の巻き毛と尖った耳、銀色の瞳と背に透明白の四枚翅に白いフリル付きドレス。一見ホジョ星人の六歳前後と同じように見えるが三十二歳。フェリアス星人は数百年も生きられるため、三〇や四〇は子供なのだ。

「あとは食器洗浄乾燥が終えれば今日の仕事は終わり、っと。デザート持ってきたよ~」

 リブサーナは小さな銀の匙と透明な逆さ円錐の容器に入った菓子を四つ持って食堂に入ってくる。容器の中は淡いピンク色の菓子が入っている。

「岩石イチゴのプリン、食べる?」

 リブサーナがプリンをアジェンナとピリンに差し出す。

「たべりゅ、たべりゅ!」

「済まないわね、じゃあ私も一つもらおうか」

 リブサーナが上座とは反対側の席に座り、三人でプリンを食べている時に、ブリックが食堂に現れた。

「ブ、ブリック!」

 ブリックがいきなり現れたので三人は驚いたが、リブサーナはプリンをブリックに差し出す。しかしブリックはむっつりした顔でプリンを見ても「くれ」とは言わず、機嫌悪そうな顔をしていた。

「あれっ? 要らないの?」

「今は空いておらん。それより水を一杯くれ」

「水? それだけでいいの?」

 リブサーナはブリックの顔を見て訊ね、ブリックは無言のままうなずく。リブサーナはキッチンからグラスにどこの惑星だか忘れたがその惑星産のミネラルウォーターを注いで持ってきた。ブリックはそれを飲むと、口の周りの水気を拭って食堂を出ていった。

「プリン本当にいいの?」

「いらん。私は自分の部屋に戻る」

 そう言ってブリックは自分の部屋へ行ったのだった。

「ブリック、どーしたの?」

「さぁ、一体何があったのやら……」

 ピリンやアジェンナも首をかしげ、リブサーナも沈黙していた。

  ワンダリングス一同の個室は皆同じ構造で壁に丸窓、ロフト式ベッド、壁に備え付けられた机とクローゼット、机には背もたれつきの回転椅子。ブリックの部屋には自分で備え付けた本棚には宇宙各所で手に入れた科学事典や科学図鑑、自分で紐とじで作った解毒剤や薬品の作り方の小冊子、数十のデータディスクが収められている。ディスクや小冊子の言語は他のワンダリングスが読めるように彼らの母星や母星の言葉に近い表現がされているものもある。

 ブリックは椅子の上に座ると、両ひじを机上につけて頭を抱え込んだ。丸窓からは小さな衛星群、閃く恒星や明星、赤く輝く流星が紫紺の宇宙空間に散りばめられていた。

「セルヴァ……」

 エネルギー鉱脈での爆破事故から早三年。レプリカントにしてはそんなに長くない時間なのに、ブリックにはあの事故が一〇〇年も昔に思える。流浪の雇われ兵団ワンダリングスに拾われたのは偶然にすぎないが、そこにいれば他のレプリカント達の情報も入ると思った。だがレプリカント達の情報は少なく、ましてやかつての仲間の事などは皆無だった。

「セルヴァ、君は今どこにいるんだ。一目でいいから逢いたい……」

 メンテナンス中に見た夢とはいえ、ブリックは鮮青の双眸から透明な涙を零した。

 構造が二段になっているワンダリングスの宇宙船ウィッシューター号の操縦席。下段はモニターとコックピット窓になる画面と四つの座席と様々な機械が装備された操縦部。上段はグランタス艦長が座る肘掛け付き椅子と立体映像が出る盤状コントロールパネル。グランタス艦長は一人司令官席に座り、画面を指で触って画像を変えるタブレット端末でミュー星域の連合軍新聞を読んでいた。文字と写真が並ぶ映像の中で、先日自分達が果たしたビルドス公国の救済とビルドスとザナスの友好決裂が掲載されていた。

『ザナス帝国はこのままだと政権交代あるいは王制廃止で共和制になるか』と表示されていた。

 グランタス艦長がタブレット端末で記事を読んでいると、コントロールパネルから連合軍からの呼び出し音が鳴り響いた。

「おや、こんな時に」

 艦長は席から立ち上がって、コントロールパネルのキーボードを操作し、コントロールパネルのモニターからワンダリングスに依頼してきた連合軍将校の姿が浮かび上がる。

『ワンダリングス聞こえるか? 私はミュー星域宇宙連合軍ヴォムフ中将だ。任務の依頼を要請する。応答願う』

 現れたのは半月前にワンダリングスにエクセター星域の内乱停戦を依頼してきたヴォムフ中将であった。大柄な体に黒がかった灰色の体毛に覆われ、目と鼻が大きい顔で、濃青の連合軍の制服の姿で。

「これはヴォムフ中将。一体何用で?」

 グランタス艦長は敬礼をとり、ヴォムフ中将に訊ねる。

『今回の依頼は被害レプリカントの救出とレプリカント権反故者の逮捕だ。

 首謀者はイオータ星域のデメイズ星人ファーリンと違法売春業経営者の同星域のクラナビックル星人ドモ・ゴラスの両者だ。因みにファーリンは奴隷商人だ』

 ヴォムフ中将はワンダリングスにレプリカントの権利を踏みにじる者達の捕縛を要請したのだった。

 人工生命体といえど、機械生物や超越生命体、新人種やレプリカントにも有機生命体や古参種、在来種と同様、彼らにも義務と権利が与えられている。

 例えば物を壊したり誰かを傷つけたりすれば罰金や懲役が科せられ、触手を選んだり決めたりする事もできるという具合に。

 彼らの存在や価値を見下したり否定したりする輩は権利を奪い、虐げたり蔑んだりするといった扱いをし、無理矢理人件費調整のために戦争に駆りだしたりなどの差別や迫害を何処の星域、どこの惑星、どこの時代でもやってきたのだ。

「レプリカントの娘さん達を使って娼館の大儲け……。これはけしからんですな。とっちめておかなければ」

 グランタス艦長は依頼を引き受け、ヴォムフ中将は更に首謀者の詳細を伝えた。

『そうだ。レプリカントはヒューマン型星人とは違い、三〇〇年も若さを保て、傷の回復も知能も体力も優れ、本来戦争に行く筈だった者達はレプリカントに押し付けて安全な場所に隠れていられるからな。

 ましてや女性レプリカントは子をなせない体から、だといって娼婦として働かされている。有機生命体にとって身売りは心身を削るから人工生命体ならいい、という考えが生まれたんだろう。

 これが首謀者の写真と被害レプリカントを乗せている輸送船の映像だ』

 モニターの画像はヴォムフ中将の顔から、二人のレプリカント権反故者の顔に変わる。

 奴隷商人のファーリンは両眼が飛び出した赤ら顔に顔や体にヒレや鱗だらけの亜人型エイリアンで、違法売春業者のドモ・ゴラスは肌が岩のような灰色でいかつい表情の男である。デメイズ星人はファーリンを見ての通り、クラナビックル星人は岩石のような地肌が特徴だという事がわかる。罪状はファーリンは三十五の惑星でも人身売買、ドモ・ゴラスはイオータ星域内でも七十二の違法売春を経営しているという。

 二人の首謀者の次に、レプリカントを乗せている輸送宇宙船の画像が映し出され、その船はアバラ模様の灰茶色の先端が三角状の大型宇宙船である。

「この輸送船を見つければよいのですな?」

『そうだ。尚、首謀者の逮捕とレプリカント救出のちの保護はイオータ星域の連合軍部に引き渡す。以上、健闘を祈る』

 ヴォムフ中将の姿と声は消え、艦長はコントロールパネルのキーを叩き、ワンダリングスのメンバーに渡した携帯端末を通じて伝える。

 ワンダリングス全員が持っている画面だけの小型端末に艦長からの呼び出し音が鳴る。

 私室にいるリブサーナとブリックに、トレーニング室のドリッドに、お風呂上がりのピリンとアジェンナに伝わる。一同は端末をつかむと、画面に表示された八つのアイコンの〈通信〉を指で触り、画面から艦長の立体映像が浮かび上がる。

『ミュー星域連合軍からの依頼が来た。その依頼内容を伝えるために、全員司令室に集合せよ』

 

 一同は艦長のいる司令室へ来て、艦長の依頼内容に耳を傾ける。

「先程、ミュー星域連合軍のヴォムフ中将から人命救助の依頼が来た。奴隷商人に捕らえられ、違法売春で働かされているレプリカントの娘さん達を救助してほしいの事だ」

「レプリカント……!」

 艦長の依頼内容を聞いて、無表情だったブリックの顔つきが変わった。そして艦長に申し出たのだ。

「艦長、今すぐ行きましょう! 一刻も早く罪人を捕らえて彼女達を助けに行きましょう!」

 いつもなら冷静で落ち着いている筈のブリックの感情的な態度を見て、リブサーナ達は驚いた。

「しかしな、まだ彼奴らの艦の位置が把握してなくて……」

「作戦立てている間に逃げられたらどうするんですか!? 彼女達にもしもの事が、誰が彼女達を助けてくれるんですか!!」

 ブリックが艦長の胸ぐらをつかもうとした時、ドリッドがブリックの手首をつかんで止めた。

「おい、落ちつけよ。いつもの冷静さはどうした? お前らしくないぞ」

 ドリッドに制されてブリックはハッとなった。艦長は顔をしかめ、女子達は引いている。周囲の雰囲気を見てブリックは大人しくなった。

「話を戻すぞ。首謀者はデメイズ星人のファーリンとクラナビックル星人のドモ・ゴラスの両者だ。そして二人の所有する大型船の映像だ」

 艦長は一同に説明しながらコントロールパネルのキーを操作して、首謀者の肖像と情報資料、レプリカント達を運ぶ輸送船の映像を見せる。

「でも、どこに向かっているかわからないですし……」

 リブサーナが顔を曇らせると、艦長が輸送船の着地先の計算データを出す。

「この輸送先は一九〇時間後にミュー星域座標八四一にある遊郭衛星プジョーヴに到着すると出た。だが、ウィッシューター号は中に入れんからな。二人ウィッシューター号に残って、四人が潜入するしかないな」

 大型の衛星は空洞になっている箇所が多く、監獄や遊郭、符号のエイリアンなんかは別荘にする事もある。違法売春業者のドモ・ゴラスは衛星を利用して、娼館を建てていたのだった。

「しっかし、四人潜入って誰が……。まあ、ピリンは幼女だから当然パスだし」

 ドリッドが横目でピリンを見る。

「となると、潜入するのは誰がいい、って事よね。私が遊郭の新入りとして入ればいいのかしら?」

「もしかして、わたしも……?」

 アジェンナが新人遊女として潜入するのなら、リブサーナも入るのかと自分を指差した。

「アジェンナとリブサーナにやってもらうしかないな。しかし、あとの二人はどうするか……」

 艦長が口ごもると、ブリックが申し出た。

「艦長、私にいい考えがあります。艦長は客として潜入してください。それからわたしがアジェンナとリブサーナのサポートをします」

「サポート? 設備の修理士として遊郭に入るのかよ」

 ドリッドがブリックに訊ねると、ブリックはこう言ったのだ。

「私が遊女に変装して、レプリカント達を救いだす方法だ」

「えっ、女装すんの!?  あんたが!?」

 ブリックの思案を聞いてアジェンナは吹き出し、リブサーナは仰天した。

「おいおいマジかよ。女のふりして、レプリカントを助けようなんて……」

 ドリッドも不安がり、ピリンも真顔になって何も言わない。

「いや、ブリックの考えた作戦、案外いいかもしれん」

 艦長が言った。こうして遊郭衛星プジョーヴの潜入作戦は決定し、一同はプジョーヴのある位置へウィッシューター号を動かした。リブサーナ達は操縦席に着き、衛星群からウィッシューター号を発進させる。

「システムオールグリーン、燃料異常なし、原動力部異常なし」

 衛星の一つに停泊させていた魚のような機体に四枚の内側に反った飛翼の明るい青の中型宇宙船ウィッシューター号は上昇して、赤や青や白などの煌めく星の海へと飛んでいき、プジョーヴへと向かった。

 その後は武術訓練や操縦席の交替、適度な睡眠や食事をとり、ウィッシューター号は青白い放物線を放ちながら、宇宙を翔けていく。

 リブサーナがプジョーヴのレプリカント救出依頼を受けて二度目の睡眠から覚めると、寝間着から緑色のダブルボタンのチュニックと白いキュロットに着替えると、ブリックのいる操縦席へと向かった。

「ブリック、交替しにきたよ」

「ああ、もうこんな時間か。ありがとう」

 ブリックは操縦席の一つから立ち上がり、リブサーナと替わる。ブリックはウィッシューター号のエンジン点検の後に操縦席にきたためか白いつなぎの姿である。

「ブリック、プジョーヴに行く事になった時、どうしてあんな素振りを起こしたのか、少し気になってるんだけど」

 リブサーナはブリックに訊ねた。リブサーナは初めてブリックの寛恕的になっている姿を目にしたのだから。

「……恋人がそこにいると思ってな」

 ブリックは答えた。

(ああ、そうか。ブリックは働いていた星で爆発事故のせいで、みんなとバラバラになっちゃったんだっけ……)

 リブサーナはワンダリングスに入った時、艦長から聞いたブリックの生い立ちを思い出す。

「あどけなくて、素直な子だったよ」

 ブリックはリブサーナにかつての恋人、セルヴァの事を話した。

「セルヴァと離れ離れになった時、私は他の男がセルヴァを幸せにしてくれれば、私も安堵できる。そう思えば、哀しさや寂しさは薄れるからな」

 そう言ってブリックは操縦席を去り、残ったリブサーナはブリックの背中を見て、彼なりの辛さを見つめたのだった。

 故郷の惑星ホジョで家族や友人を宇宙盗賊によって喪ったリブサーナだからか、同胞とはぐれたブリックの気持ちが理解したような気がしたのだった。