ワンダリング2-5

 

 脱走兵を捕らえよ


 澄んだ薄青の空に白い幹の木に七又の木の葉が成る木の森と白い山のあるニュー星域の辺境の惑星で、ウィッシューター号は停泊していた。
 この惑星の鳥は赤や青や緑の羽毛を持ち、茶色や灰色の地味な鳥はなく、獣は縞や斑などの模様を持ち、魚はどの魚も光沢を持つ無地の色つきの鱗を持っている。食糧が減ってきたため、ワンダリングスはこの星で食糧調達をする事になったのだ。
 艦長とドリッドは狩猟、ブリックとアジェンナは漁業、リブサーナとピリンは木の実や茸狩りという風に分担して。艦長とドリッドは二体の獣と四羽の赤い中型の鳥をかついで、ウィッシューター号を停めている森の近くの更地で解体した。皮や羽毛を剥いで食肉用の大きな包丁で肉を脚や胸肉などの部位に切り分け、内臓や骨はさっきの森で埋めた。切り分けた肉は食糧庫の真空梱包装置でラッピングし、食糧庫の中に入れた。艦長とドリッドが捕らえた鳥や鹿に似たひづめ獣をさばく時、ピリンはリブサーナの陰に隠れつつも、興味心身に見ていた。
 ブリックとアジェンナが獲った魚も内臓を取り除いて真空にした。リブサーナとピリンが集めた木の実や果物や山菜や茸も色といい形といい大きさといい様々で、手提げ籠いっぱいになった。
「これだけあれば、三ヶ月は持つな」
 食糧をウィッシューター号に乗せたドリッドが言った。
「ん~、でもレプリカントせいぞぉセンターでけんがくにいってから、かりしゅんのもどーかとおもう」
 ピリンがウィッシューター号に乗り込む時、ドリッドに言った。リブサーナとアジェンナはレプリカント製造センターでのレプリカントが造られていく様を思い出した。食糧を集められたので、ワンダリングスはこの星を去ろうとした。すると、司令室のコントロールパネルに艦員(クルー)全員が不在の時に照らされる記録ランプがオレンジ色になっていた。
「わしらが狩りに行っている間に誰から連絡が……?」
 艦長がコントロールパネルのキーを操作すると、盤上に連合軍の青い制服を着たヒューマン型星人の姿が立体映像として現れた。ヒューマン型星人の男は黒い角刈り頭に険しい顔に浅黒い肌と屈強な体格、左頬に×字傷がある。
『ワンダリングスに依頼。私はニュー星域連合軍中将、ラクレスだ。
 今から十時間前に我がニュー星域連合軍基地で騒ぎが起こり、一等兵がニュー星域連合軍少将を負傷させて脱走した。諸君らに脱走兵の逮捕の協力を願う。
 その脱走兵は基地内の偵察艇を一機奪い、ニュー星域内の惑星に逃げた』
 何とまあ、ワンダリングスが狩りをしている間に、ニュー星域の連合軍の兵士が将校にケガを負わせて逃げたというのだ。
『これがその脱走兵だ』
 ラクレス将校の姿から、例の脱走兵の映像に切り替わる。映像の男はスリムな長身、連合軍兵の青いジャケットと青い迷彩パンツ、黒いアーミーブーツ、短く刈った薄茶色の髪に切れ長の青緑の眼である。
『脱走兵の名はハインヒルド。連合軍歴十年。銃刀類の訓練を受けていて武器の所持の可能性あり。奪った偵察艇はニュー六〇一号。
 種族はレプリカント』
「!!」
 ラクレス将校の声で説明される脱走兵の種族を聞いて、ブリックは反応する。
『偵察艇に設置された発進中性子(パルス)によれば、ニュー星域座標一九三にある惑星ハーフズに向かっていったの事。我らニュー星域連合軍正体も随時派遣させる。以上、諸君らの健闘を祈る』
 ここでニュー星域連合軍部からの録画連絡が切れ、コントロールパネルの映像も消えた。
「レプリカントの脱走兵だとよ。どうする? お前は脱走兵逮捕には出ないで、艇に残るか?」
 ドリッドが立ちつくしているブリックに訊いた。アジェンナも横目で訊ねてくる。
「あんた、ただでさえレプリカントの女の人が働かされている遊郭衛星でも辛い目に遭ってきたから、やめておいた方がいいんじゃ……」
「しょしたらピリンがいくぉ。ピリン、このまえ、しゅちゅどーできなかったから」
 ピリンも言ってくる。リブサーナもおろおろしていて、何も言えない。しかしブリックはこう言ってきた。
「……行きましょう。ハーフズへ。あのハインヒルドという兵士だって、理由がある筈です、艦長。レプリカント同士で話し合えば、相手も理解してくれると思います」
 ブリックは少し不安も寄せながらも、連合軍のレプリカント脱走兵を探しに行くと同意した。
 一同はウィッシューター号を発進させ、食糧調達した惑星から宇宙空間へと突入していった。宇宙空間に入ると、一同は惑星ハーフズの情報をチェックした。コックピット画面に行き先の惑星の環境や文明、種族や言語などの情報が映し出される。
 惑星ハーフズは陸が七〇%、海が三〇%の惑星で、かつては海も陸も五〇%ずつだったが、近年に及ぶ海の減少で住民が他星へ移住したり出稼ぎに行ったりしている。
「海が減っているの? 長い間、日照りでも続いていたの? それで、水不足になっちゃったの?」
 リブサーナがハーフズの海減少の記録を見て疑問に思った。リブサーナの故郷、ホジョ星でも、リブサーナが二、三歳の時に日照りが二ヶ月も続いて、作物の多くが枯れてしまって、エヴィニー村とその周辺が飢饉に陥った事を村の大人たちから聞いた。その時、村人はホジョ星の王に三年の間、納税の作物を例年二倍払う代価として、ホジョ星の王がとある水の惑星から入手してきたという〈水(みず)生(う)みの種〉を受け取った。〈水(みず)生(う)みの種〉は青い半透明の形をした丸芋大の種で、エヴィニー村の人々がその種を村中に繋がる水路の中枢に埋めると、一瞬にして枯渇していた井戸や水路に水が満たされたのであった。
(あの時は、村のみんなが二倍の作物を育てる事によって水不足が解決した。代価が高かった分、村全体が助かった)
 リブサーナがみんなに、ハーフズの海減少は日照りのせいかと言ってきた時、艦長が首を振りながら返答する。
「いや、ハーフズは日照りなど起きる事はなかった。人類の文明が出来るずっと前からな。というのも、ハーフズは常に厚い雲に覆われており、日は差してくる事もなく、大地も乾かず、水辺の枯渇もなかった。主に一週間のうちの三分の二が雨の日が多いから、日照りに悩まされる事はなかった。むしろ、嵐による増水や浸水、地崩れが多いがな」
 リブサーナはますますハーフズの海減少の理由がわからなくなってきた。
「ハーフズの住民はリブサーナと同じヒューマン型の星人で、農業・商業・工業に
合わせて土地を分散していて、農業者は水の多い地域に住んでいる、ってさ」
 アジェンナがハーフズ星人の文化を教える。
「で、農業区が川や池などの近くに造られ、工業区は山地の荒れ地に造られ、その二つに挟まれるように商業区があるんだ」
 ドリッドが更に詳しいハーフズの生活事情を教えてくれた。
「それなら尚更おかしいよ。水の近くを農業区にしているのなら、海が減る訳でもないのに。作物を育ててるけど、海が減るほど……」
「リブサーナ!」
 艦長が叫んだので、リブサーナは黙った。
「今はハーフズ星の環境より、脱走兵を見つけるのが先だ。ハーフズ星の環境問題は、住民に任せる」
「……はい。すみませんでした」
 その後、ウィッシューター号は目標をハーフズ星に向け、到着までの五十六時間は戦闘訓練や操縦室の交替などで過ごした。
 リブサーナが操縦室の番をする事になると、リブサーナは再びハーフズ星の海減少について調べた。コントロールパネルを起動させ、ハーフズの生活状況を検索する。コントロールパネルに、ハーフズの人口や身分制度、習慣や名産などが映し出される。
「うーむ」
 リブサーナがハーフズのデータを調べていると、コツコツと音がして、リブサーナは慌ててコントロールパネルを切った。
 扉が横に開いて、ピリンが操縦室に入ってきた。
「ピリンちゃん、何か用?」
「うん。ドリッドとアジェンナが、まえにいったほしでくんせいをちゅくってくれたぉ。サァーナもどうじょ」
 ピリンは銀色のトレイの上に白い平皿に乗せたくんせいをリブサーナに差し出す。茶色くなった獣肉も魚も塩の匂いがし、皿の隣にはリブサーナとピリンが摘んだ香草の茶がマグカップに入れられて、赤い半透明の駅から湯気と甘酸っぱい匂いを立てていた。くんせいを作る時は煙でいぶすので野外で鉄の容器に入れていぶすのが普通だけれど、ウィッシューター号の台所の調理機にはくんせいモードも可能なので、いつでも作れるのだ。リブサーナはプラスチックの串でくんせい肉を刺して口に入れる。
「旨っ!!」
 リブサーナはくんせい肉を食べて思わず声を上げる。
「あの、山登(さんと)ヒツジのようなものを、こんなにおいしく調理できるなんて……。あとくんせいにしたのも正解だったね。それなら日もち出来て、物々交換する時にも便利だし」
 次にくんせい魚をかじり、艦長とドリッドが捕らえた獣の肉と鳥の羽を思い出す。
「でも、出発する時にあの獣の皮と鳥の羽を置いてきちゃったから、あれはもったいなかったな。売れたらそれなりのお金になったのに」
 宇宙市場あるいは着陸先の惑星の商家に毛皮と鳥の羽の山を渡せば、いい体裁になれた、とリブサーナは思った。
「きゅーだったから、しかたないぉ」
 リブサーナとピリンが操縦室にいる頃、実戦訓練室では、アジェンナとブリックが組み手を取っていた。
(連合軍に仕えるレプリカントは、軍に絶対命令の筈。そう易々と将校を襲って逃げるのは……)
 ブリックが考えながら組み合っていると、アジェンナが隙を見て、ブリックを投げた。ブリックはマットの上に叩きつけられて、アジェンナがブリックの顔を覗き見る。
「あんた今回はパスした方がいいんじゃないの? また同胞関わりの事件だし。相手は脱走兵といえど、戦闘のプロだし」
 ブリックは起き上がりながら、答える。
「いや、レプリカントはレプリカント同士の方が気を赦しやすい。あとこれは、私の憶測だが……ハインヒルドという一等兵がハーフズ星に逃げ込んだのは、偶然ではないような気がするんだ……」
 そう言ってブリックは起き上がり、実戦訓練室を出ていった。

 

 その四〇数時間後にウィッシューター号は惑星ハーフズに着いた。宇宙からハーフズ星は海に沿っている陸地の部分が緑色で、陸の内側が茶色や灰色で占められており、それが街や荒れ地で緑地が植物のある地帯というのがわかった。陸地とは対に星の表面の青い部分が海であり、陸より面積が狭い事がわかる。
「着陸先は経度三十五度、緯度四十二度で降ろすぞ。ここは無人地だからな」
 艦長がコントロールパネルで着陸の計算し、ウィッシューター号に大気圏突入バリアを張り、ワンダリングスは惑星ハーフズへ突入していった。
 ウィッシューター号は岩石と黒く乾いた土とぼうぼうの草地に着陸させた。ウィッシューター号のタラップを降り、六人は地上に足を着ける。ハーフズの空は白くて厚い雲に覆われ、太陽が蛍火のように照らされている。空気も湿気も冷気もなくて過ごしやすく、暑すぎでも寒すぎでもなかった。
 リブサーナは緑のチュニックに灰色のひざ丈フレアパンツと茶色い編み紐ブーツの服装の上からワンダリングスの防具の銀色の胸鎧と手甲と脛当てを着けており、ピリンを除く艦員(クルー)も銀色の鎧と防具を身に着けている。防具に付いている飾り石は個人によって色が異なっているが。
「ここって、まちからはなりぇて、どれくらいのばしょなの?」
 ピリンが艦長に訊ねる。
「えーと、ちょっと待ってね。今調べるから」
 アジェンナは艦員(クルー)全員が持つ携帯端末を出して調べる。艦員(クルー)は携帯端末の他に、個人の武器、ピリン以外が持つエネルギーパック式の携帯銃(ハンドライフル)、腰のポーチには非常食や救急キットなどの小物、それから宇宙で使えるお金・コズム貨幣を所持している。
 アジェンナが携帯端末から着陸先の地図を調べていると、映像が立体映像に映し出され、停泊させてある宇宙艇、岩山や木々、それを越えた場所に街があるのを把握した。
「ここから南へ四キロ行った先に都市があるそうです。街である程度、情報収集してから行った方がいいのでは?」
 アジェンナが艦長に訊ねる。
「そうだな。だが、街に行くのは二人だけにして、四人は脱走兵を探しにだ。誰か街に行くの者は……」
「あ、俺行きます」
「わたしも」
 ドリッドとリブサーナが自薦した。
「そうだな、お前達に任せる。わしらは脱走兵を探しに行って、見つける。わしはリーダーだし、レプリカントの脱走兵は同族であるブリックに頼めば尋問に答えてくれてるだろうし」
 こうしてドリッドとリブサーナは街へ、艦長ら四人は脱走兵を探しに行った。
 ドリッドとリブサーナは小型宇宙艇ミニーシュート号に乗って、街へ飛んでいった。ミニーシュート号から見た光景は、本艇のある荒れ地が草地と銀灰色の敷石が敷き詰められた道となり、やがて大小方円様々な建物の並ぶ商店区に入っていった。ドリッドは四角いテーブルを何段も重ねたような宇宙艇貸停泊所にミニーシュート号を停まらせた。宇宙艇貸停泊所は宇宙艇を停めた後、人や物が落ちないように下からシャッターが出る仕組みになっていた。
 リブサーナとドリッドは街に出て、その光景に目を見張る。半円状や四角状と言った様々な形の建物は薄い色合いのものが多く、道は人々が灰色の道を歩き、足でこぐアナログ自転車が走り、住民はリブサーナと同じヒューマン型だが、銀や色つきの光沢ある服を着ている。大人も子供も女も男もメタリックな服に対し、黒髪黒眼白い肌であった。
 街の人達はヒューマン型でないドリッドと糖蜜色の髪に深緑の眼のリブサーナを見て、面白そうな視線を向けている。
「何だよ、街の奴ら。そんなによその星人が珍しそうだからって、じろじろ見ていやがる」
「わたしもハーフズの人間じゃないから、何か目立っているような……」
 ドリッドとリブサーナはハーフズの人間の視線に違和感を感じる。
 ハーフズ星人は日が差さない環境のためか白磁器のような肌に、目も髪もつやのある漆黒である。背や体型にばらつきがあるものの、光沢のあるカラフルな上着に、ズボンやスカートを身に着け、エナメルのようにてかるブーツをはいている。
 ハーフズ星人に対し、ドリッドは自然と化学繊維の合成の灰色の軍服、リブサーナの服も宇宙市場(コスモマーケット)で買った某所の麻や木綿や樹木繊維の服で色を染めたものである。
 ハーフズ星人の他にも、街には屋根の軒下に住む鳥、ペットらしき犬や猫、街の花壇に止まる虫はどれも、二色や三色の模様を持ち、決して個体の模様や色が単色はいないのだ。もちろん、花壇や花屋の花もまだらや縞のものである。
「にしても、どうしよう。この街にいるのかしら。例の……あの人」
 リブサーナがドリッドに訊ねる。例の「脱走者」や「逃げた兵士」とあえて言わなかったのは、街の人達を動揺させないためで、「あの人」だけにした。
「尋ね人、ってったら、やっぱあそこだろ」
 ドリッドは街の中にあるビルやドーム型の建物の八分の一しかなさそうな四角い灰色の建物を指差す。そこの壁に走り書きのようなハーフズの文字で『ザトミ通り四十五番派出所』の暗鉄色の看板が書かれていた。
「ああ、駐在さんか……。で、アレがお巡りさん」
 その派出所の中にいる二人の男を見て、リブサーナが呟く。警官は街の人達と違って、オレンジの帽子をかぶり、黒い光沢の詰襟の服を着ていた。帽子と左胸に八方の光の紋が刻まれていた。
「すみません、ちょっとこの御人を探しているんですけど……」
 ドリッドは警官の男の一人を訊ねる。男は黒いひげを生やし、ドリッドを睨みつける。
「何だね、君は。見たところ、他星の者のようだが……」
「あ、すみませんでした。実は自分らはこういう者でして……」
と、ドリッドは懐から一枚の金属プレートを警官に差し出す。プレートはワンダリングスの携帯端末より小さな赤銅の板で、方面にはニュー星域の異星人ならわかる文字が刻まれていた。
『宇宙連合軍ニュー星域支部より許可を得し、独立兵団……。連合軍からのニュー星域内入星許可証か! これは失礼。てっきり、宇宙盗賊か宇宙ヤクザかと思いまして……。
 それで、探している人物というのは?」
 ドリッドが差し出したニュー星域内入星許可証を見た警官がドリッドに訊ねる。
「あ、この人です」
 リブサーナが懐から一枚の写真を警官に見せる。小さく丸めてあった写真には、短く刈った薄茶色の髪に切れ長の青緑の眼の男の写真である。全体図ではないものの、ぱっと見は特徴のある写真である。
「この人ですか? うーん、見かけませんでしたねぇ。この子のお兄さん? それとも恋人?」
「ええっ!? そ、そんなんじゃないです!!」
 警官がリブサーナと写真の男を見比べて訊ねてきたので、リブサーナは顔を赤らめて首を振る。
「いや、恋人や兄貴じゃないっすよ。何ていうか、その……」
 ドリッドは警官に何て言ったらいいか、戸惑う。本当の事を言ったらおおs泡着になるし、もっといい口実も用意していなかった。
「この人はわたし達の仲間のご友人で、一人旅行にいっていたら、予定日になっても帰ってこなくって、友人のご家族がわたし達を頼ってきて、ハーフズに探しに来たんです。この人のお父さんは心配し過ぎて熱を出して、お母さんは食事に喉が通らずやせていって、妹は毎日泣き続けて……」
 リブサーナがすかさず尋ね人の経歴を思いついて、警官に言った。いもしない家族は大げさだろ……とドリッドは心の中で突っ込んでいた。
「今、この数日間の中で、尋ね人の情報を調べますので、しばしお待ちください」
 派出所の奥に座るもう一人の若い男の警官がリブサーナとドリッドに言った。警官は大型ディスプレイとキーボードのコンピューターを操作して、尋ね人のデータを探した。ディスプレイには様々な人間の顔や身長などの特徴が瞬時に映し出され、最終的には「データなし」の文字が赤く映し出された。
「すみません。写真のお方はなかったようで……」
 若い警官が二人に言った。
「それはどうも。すみませんでした」
 リブサーナは警官に頭を下げ、派出所を去ろうとした時だった。
「そういえば、今から三日前に異星からの小型宇宙船が郊外に墜落したって情報が入っていたねぇ。カメラアイの映像によれば、機体は白と青で丸みを帯びていて……」
 若い警官が呟いて、リブサーナとドリッドは立ち止った。
「それ、本当ですか!?」
「青と白の機体で小型といえば……」
 宇宙連合軍のものに間違いない、とリブサーナとドリッドが顔を見合わせた。
「だけど、調べようとしたところ、機体が爆破されていてバラバラになってしまった。
破片の破損も激しくて、どこの星のものかわからずじまいだ」
 警官が一部始終を語り終えた時、レプリカントの兵士がハーフズ星に逃げたのは当たった、と二人は察した。ハーフズは連合軍入隊登録がされていないため、ハーフズの人間は連合軍の情報には疎いらしい。その惑星の住民が連合軍に加わるためには、星内の治安の悪さと軍事レベルで決まる。このハーフズは海は減少しているが、出稼ぎや移住しない住民は平穏に暮らしているものだ、とリブサーナは思っていた。
「そういや、ミニーシュート号の燃料が少なくなっていたから、エネルギー販売所に行って買いにいかねーと」
 ドリッドがリブサーナに言い、二人は街の中のエネルギー販売所へ。エネルギー販売所はありとあらゆるエネルギーが五〇センチの筒型ケースに入れられ、固体型、機体型、液体型などに売られている。よく見ると、透明な棚に置かれている品物は手薄で、客の出入りも少ない。
「何っ!? 四万コズムだとぉっ!!」
 ウィッシューター号やミニーシュート号に使用する三元素化合気体(トライエレメント)燃料が一ケースの値段を聞いて、ドリッドが思わず叫んだ。他の客もドリッドの声を聞いて、視線を向けている。
「すみませんね、お客さん。我が星のエネルギー不足で、この星の住人が過ごせるには、他星から仕入れたエネルギーで生活しているもので、値段も少々高いんですよ」
 エネルギー販売所の店主であるはげ頭に太鼓腹の中年男はドリッドにこう言った。
「だからって、これは高すぎじゃねーのか」
「いえいえ、ここではまだいい方に入るんですよ。大都市では、ここの三倍もしましてね」
「えっ」
 リブサーナはハーフズでは四万コズムの燃料が十二万コズムもすると知って、言葉を失う。
「大都市でも十二万コズムか……。それにしてもよ、ハーフズの生活エネルギーって何だ? 天然ガスでも自然油でもなさそうだが」
 ドリッドが店主に訊ねてきた。
「あ、はい。実はですね……」
 エネルギー販売所の店主の話を聞いて、リブサーナとドリッドは納得したのだった。

 

 一方、艦長ら四人はウィッシューター号の停泊地から北へ向かっていき、連合軍の脱走兵の手掛かりを探していた。それからしていくと、全体の高さも幹の太さも枝の太さも葉の形がそれぞれ違う雑木林が見えてきた。雑木林は葉や幹と同じ色の虫が多く、葉をかじっていたり、幹から出る樹液を舐めていた。
「かんちょお、これ!」
 ピリンが雑木林の中にある物を見つけて、みんなに言った。何と、雑木林の一部が円く空いて、木々や岩が砕けており、地面も凹んでいた。その周囲には誰も入ってこられぬよう、鎖で囲まれていた。
「艦長、これは……」
 アジェンナがこの光景を目にして、艦長に訊く。
「これは間違いなく、脱走兵の乗っていた宇宙艇が不時着して、宇宙艇が大破した場所だ。まぁ、派手に壊してくれたな」
 艦長が不時着跡を目にして呟く。宇宙艇は跡形なく大破しており、パーツが黒焦げて散らばっていた。
「こらぁ、滅茶苦茶だわ。あっ、十時の方角辺りに足跡がある」
 アジェンナが宇宙艇不時着跡にある足跡を目にした。かかととつま先が見えるハイカットブーツの跡である。
「これ、もしかしてハインヒルドって人のやつ? これを辿っていけば……」
 アジェンナが靴の跡を目にして喜ぶ。
「いや、森の中に入ったなら落ち葉などで埋まっている可能性がある。と、なると……」
 ブリックが状況を判断して、ピリンを見つめる。
「ピリン、鼻の効く妖獣を召喚できるか?」
「うん、よべるぉ。まっててね」
 ピリンは背中にしょっていた紅水晶の花と宇宙真珠で出来たプラチナの杖を出す。そして杖を振って呪文を唱える。
「エステ・パロマ・ダ・ロスワンデ~」
 白い煙と共に二つの頭を持つ仔犬が現れた。右の頭は紅い毛で、左の頭が黒く垂れ耳で、尾の先が二又になっている。上半分が赤く、下半分が黒い。
「ようじゅう、ワンちゃんだぁ」
 二つ頭の仔犬は尻尾を振るわせて、艦長とブリックとアジェンナに目を向けている。
「頭が二つで尻尾が分かれている……。なんか、気持ち悪い」
 アジェンナがワンちゃんことロスワンデを見て呟く。
「そんな事を言っている場合か。ロスワンデよ、この足跡の匂いを探っておくれ」
 艦長がロスワンデに命令し、ロスワンデは亮の頭とも地面の足跡をかいで匂いの続く方へと走り出した。
「あっちか」
 四人はロスワンデのいる方角へ走り、ロスワンデは五〇〇メートルおきに止まっては嗅ぎ、を繰り返した。
 ロスワンデが四回目の匂いを探っている時、艦長の携帯端末に連絡が来た。ドリッドからのメールである。艦長が端末の画面を触ってメールを調べると、文字が立体的に映し出された。
「何なに……。『現在ミニーシュート号でウィッシューター号の近くに停泊させ、メンバーの端末を頼りにして、こちらに向かう』か……。
 みんな、のちにリブサーナとドリッドが来る! わしは二人が来るまでここで待つ! お前達は先に行け!」
 艦長はリブサーナとドリッドと合流するために、ピリンら三人に命令した。