ワンダリングス4-1

 

 紫紺の下地に赤や青や白の惑星や衛星、恒星などの星々を散りばめた広大な宇宙――。その宇宙空間の一つ、オミクロン星域を飛躍している宇宙艇が一機、後部から青白い放物線を放出して泳いでいた。
 薄青い機体、魚のひれのような飛翼に丸みを帯びた中型の宇宙艇は宇宙の雇われ流浪兵団、ワンダリングスのウィッシューター号である。そのウィッシューター号の艇員(クルー)は六人。その艇員(クルー)の一人の物語が始まる……。


 ピリンの見た夢

 ウィッシューター号の艇員(クルー)の個室は壁に備え付けられたカウンター机とクローゼット、出入り口の向こう壁に丸窓が一つあり、机の真上がロフト状のベッドとなっており、人造人間レプリカントの艇員(クルー)を除いて、他の艇員(クルー)は皆ベッドで眠っていたのである。その部屋の一つはフリルやレース付きのカーテンに床を敷くラグも黄色やピンクの薄めの暖色系で宇宙市場(コスモマーケット)で仕入れた白い棚には印字されたアナログ書物、データチップを端末に入れて読むデジタル書物の童話や絵本、耳や尾のある様々な星域の生物を模したぬいぐるみ、クローゼットに備え付けられた縦長楕円の鏡には花レース状の枠が施され、床には積み木や布人形のおもちゃ、部屋の持ち主ピリンはフリルやレース付きの枕や布団に囲まれて眠っていた。
「んんん~」
 エプシロン星域内の惑星の一つ、フェリアス星パリゼット族のピリンは一メートルそこそこの背丈に若葉色の巻き毛、人間型(ヒューマンがた)星人(エイリアン)で耳の先が尖っており、背に白い透明な四枚の細長の翅を持った幼女で、白いレース付きナイトキャップに白いフリルとリボン付きのネグリジェをまとっていた。
 ピリンは夢の中にいた。それはピリンがワンダリングスに入る前の出来事――。ピリンの故郷、エプシロン星域の南東部の一角、惑星フェリアスは香木のある木々の生えた惑星で、その住民は二〇〇年の寿命と若い期間が長いのが特徴で、住む場所によって翅が生えていたり体にひれを持っていたり、身の丈が五〇センチしかない種族などが多種多様であった。
 ピリンはフェリアス星の一角、北西部のパリゼット族の村の生まれだった。パリゼット族には女しかいないため、他の種族の男と結婚して子を宿す事によって誕生し、ピリンも母や村の女性やその子供達と一緒に暮らしていたのだった。
 パリゼット族の居住区をはじめ、フェリアス星の木々は五割が香木、三割が果実樹、家具や薪になる甘い果実もならず香りもない木は二割であった。フェリアス星の住民は民家を中をくり抜いた木の中に住み、階段や柱や棚になる部分は残し、果実や草の実、キノコや魚や鳥獣を採って食べ、稲や麦などの穀物類は木のない小高い丘の上で耕し、そして妖獣と呼ばれる生き物を番獣やペットにして暮らしていた。
 そんなフェリアス星人のパリゼット族領などのいくつかの民族は生き物の言葉がわかり、生き物を操るのが得意だった。
 ピリンもパリゼット族の集落で三〇年も母や村の女性達と暮らし、妖獣を操る修行や文字の読み書きや計算、歌舞を母から教わって暮らしていた。フェリアス星はいつも晴天だったけれど、何せ木々が一本でも一〇〇メートル近くあり、幹の周りも大人のフェリアス人、十五~二〇人が囲めるほどの広さのため、ほとんどのフェリアス人は空を飛ぶ事が出来て、翼のある妖獣に乗っても、太陽と晴れた空を見渡せられた者はごく稀であった。
 ピリン達パリゼット族は尖った耳に細長の四枚翅を持ち、皆容姿端麗で若い時期が長く、寿命が近づくと年老いていく種族だった。パリゼット族は教師や農婦、狩人や漁婦、家具職人などの様々な職に就き、自身や親や子や姉妹の糧を手に入れて生活していった。
 パリゼット族領の香木は主に薬品やお香、衣服などの布の繊維に使われ、香木製の衣や靴を身につけ、個人の好みに合わせて色付きや模様入り、花飾りや金銀細工や宝石入りの服は祭りや結婚式の祝い事だけの決まりで、何処の集落でも質素に慎ましく暮らしていた。
 ピリンの母もパリゼット族の一個人に生まれ、一人娘のピリンと暮らしていた。本当ならフィーリンなのだが、舌足らずのためフィーリンは自分の事をピリンと呼んでいた。
 ピリンの母はパリゼット族の一、二を競う妖獣使いで、小さな小鳥やチチュルモ(ねずみ)から大きなグラドラーゴ(大型の竜)を操ったという。妖獣使いの素質があるパリゼット族はチチュルモやリルゼダ(とかげ)のような小さい生き物を操る事から始め、次第に大きさを変えていき、最後には五つ星のウルトラ妖獣使いになれるのだが、ウルトラになれた者はピリンの母メイヴリンをはじめとするごく少数であった。他の者は四つ星のグレート辺りで終わる事が多かった。
 ピリンは物心のついた七、八年目から絵本や母や村の大人から読み聞かされている昔話や伝説を知ると、必ず出てくる父という存在が気になった。
「ねぇ、ママ」
「なぁに。今、新しいエプロンを縫っているから……」
 ピリンの母メイヴリンは流石に妖獣使いで稼ぐ訳にもいかず、ピリンが生まれてからは他家の洗濯や機織り、裁縫といった村内でも出来る仕事で稼ぐようになった。
 ピリンの母メイヴリンはピリンと同じ長い若葉緑の巻き毛に銀色の瞳、純白の肌に集落の主樹木パリゼットミルトのような細見の肢体に背には白い透明の細長の翅、そして慎み深いパリゼット族とは思えない雄々しさを持っていた。
「ピリンのパパってどんなひとなの?」
 女しかいないパリゼット族が子孫を残すには他の種族の男と結婚して子を宿す事だが、パリゼットの集落でも七世帯のうち二世帯は父親や兄弟と暮らしているパリゼット族もいた。父親が魚のひれを持つ人魚なら女の子はみんなパリゼット族で男の子はみんな人魚として生まれるのだ。
 ピリンの母メイヴリンはピリンが生まれる三〇数年前の生娘の頃、フェリアス星を出てエプシロン星域の各惑星を旅していた事があった。というのも、メイヴリンは母親(ピリンの祖母)と喧嘩して家出して、宇宙サーカスの飼育係として生活していたのだった。そして旅をしている間にピリンの父親に当たる青年と出会って十年ぶりにフェリアス星に戻って、ピリンの祖母である母と仲直りして、ピリンが生まれたのだった。祖母はピリンが五歳の時に亡くなってしまったが……。
「何処の星の人でどんな種族だったか忘れてしまったけれど、あなたのお父さんは優しくて動物が好きな人だったわ……」
 灯りをともすランタンの火が揺れて、真っ暗な部屋を照らすオレンジの明るみも歪んだ。
「あってみたいな……」
 ピリンが呟くと、母はため息をついた。
「でも、フィーリンのパパにあたる人はフェリアスの人よりも寿命が短いし、生きていたとしても他の女の人と結婚して、子供もいるだろうし……」
「めいわくなの?」
「ううん。多分お父さんとおぼしき人と出遭ったとしても……。絶対戸惑って動揺してしまうと思うのよ……。でもピリンにはママがいるし、近所の人や幼稚園のお友達も妖獣ちゃん達もいるでしょ? もう寝なさい。明日も幼稚園でしょ」
 それを境にピリンは母に自分の父の事を尋ねてくる事はなかった。
 ある年のパリゼット族領やその周辺の族領で十三年に一度、稀に起こる旋風(サイクロン)現象が起き、パリゼット族とその周辺の多族領を襲った。空は森の地上〇メートルからでも見える鈍色の空に染まり、枝一本なら軽く折れる強風が吹き、宙に木の葉や草や花びらがたくさん舞い、地上で茶色く濁った泥水が激流し、古いパリゼットミルトや若木やその他の木々が強風や土砂崩れで折れて流される様子が見られた。ピリンも母も住んでいる木に泥水が入り、どこもかしこも泥まみれ水浸しになり、ラグやマグカップなどが浮かび上がっていた。
「ママ……、しゃいくりょんおわりゅよね?」
 一番上の物置き部屋で小さなランタンの灯りを頼りにピリンは母と一緒に居た。物置部屋は狭くて使わなくなった家具や祖母の遺品入りの長持ちが置かれており、ピリンと母は二人が座れる隙間に丸く座っていた。
「大丈夫よ、フィーリン。きっと旋風(サイクロン)は去るわよ……」
 そう言った時だった。木の家がガクン、と大きく揺れて、ピリンも母も斜めに傾いた。
「ほわっ!?」
「地盤が濡れて木の家のバランスが崩れたか、それともこの木の根が腐ってしまって動いたんだわ」
 ピリンの母はピリンを強く抱きしめた。だが、大きく揺れたはずみでランタンが転がり、ランタンのロウソクの火が紫の布でかけられた絵に燃え移って大きくなったのだった。しかも、その絵は油絵で火力を増大させ、更にはほこりにも引火して物置き部屋はあっという間に火に包まれたのだった。
「うわああああん、ママぁっ!!」
「だ、大丈夫よ、フィーリン。今水を使う妖獣を呼ぶから……。エステ・パロマ・ダ……」
 母がいつも持っている宇宙真珠と紅水晶の花のついた杖を出したその時だった。濁流で木の家は更に傾き、ピリンは大きく投げだされて、階段から転げ落ち、濁流の中にはまったのだ。
「マ、ママ~!!」
「フィ、フィーリン!!」
 母は濁流に呑まれた娘を助けるために、ピリンを追いかけていった。うろたえる母t
と後ろの赤き炎、そして濁流の中の自分――。これがピリンの憶えている記憶の断片だった。

 気づけばピリンは見た事もない荒れ地の上にいた。泥とぬかるみと家や木々の残骸だらけの地に空は雲ひとつない白濁の空で太陽が真ん中に来ていた。ピリンは髪も肌も服も泥と切り傷だらけで服も茶色く汚れていて元の色がわからない状態で、近くにあってわかる物といえば、母が持っていた宇宙真珠と紅水晶の花で出来た杖であった。後は地を這う多足虫や小うるさい羽虫ぐらいであった。
「ママぁ、みんなぁ、どこぉ~!?」
 だたっ広い荒れ地の真ん中でピリンは叫んだが、どうにもならなかった。
「ママ、ママ~!!」
 ピリンは泣きながら荒れ地を歩きだし、ふらふらと足のおもむくまま杖を持ってさまよいだした。長い事、森で暮らしていたピリンには直接当たる日光がじりじりと焼きつけ、泥水だらけの髪や服はあ乾いて茶色い砂と土になってざらざらする。鳴き続けていたために、目の周りはヒリヒリとして赤くなり、喉も乾いて声も出せない状態になっていた。
「ママ……、ママ……」
 意識ももうろうとし、声もかすれてよれよれのピリンは考える事もまともに見る事も出来ず、ふらふらと雑草と幹の黒い木々のある老木しか生えていない地に停泊させていた宇宙船の中に入っていたのだった。そして意識が切れて、倒れたのだった。

「ん……」
 ピリンは目が覚めて、自分が透明な筒型の機械の中で寝かされていた事に気づいた。
「あれぇ、ここは……?」
 ピリンが目をパチクリさせてカプセルの中から身体を半分起こすと、カプセルの隣に同じ物が二つあり、カプセルの向かい側の部屋には四角い寝台と様々な見た事のない機械に機械につながる様々な金属製の道具、天井と壁の上半分は綺麗なアイボリー、壁の下半分と床は暗銅色(ダークブロンズ)という対比がはっきりしていた。そしてピリンは身体の汚れがなく、服も白い簡素な植物製のワンピースを着ていた。
「……?」
 すると壁の一部が縦半分に開いて、自分がいる部屋に誰か入ってきた。一人は長身んい長い銀髪にやたらと白い肌の人間型(ヒューマンがた)星人(エイリアン)の若い男なのだが、長い紺色の髪に白い肌に切れ長の紫の目に背に透明銀の長い翅、頭部に水銀を垂らしたような触角の女が現れたのだった。
『おい、アジェンナ。この子、どうやら意識を取り戻したようだぞ』
『ああ、良かった。いつの間にか宇宙船に入っていたんだもの。おまけに泥で汚れていてとても着られたようなものじゃなかったし……』
 男と女はピリンの知らない異星や星域、もしくはピリンも知らないフェリアス星のような言葉で話していた。
(このひとたち、だぁれ……!? ママは……)
 ピリンがきょとんとしていると、男がカプセルの開閉スイッチを入れて、ピrんが入っていたカプセルのふたが上に開いて、ピリンが男と女の顔を見つめる。男は青いフィット型スーツに学者や医者が着るような白衣をはおり、女は紫の光沢生地の長袖トップスに白いスリムパンツの服装であった。
(このひとたちはいったいなにやってんだぉ……)
 すると男と女がピリンの知らない言葉で何か話し合っていると、男が頷いてピリンに顔を向けて、フェリアス星の標準語として使われるエルヴァトス語で話してきたのだった。
「やぁ、私は宇宙の流浪の兵団、ワンダリングスの医術薬学担当のブリックだ。私は人造人間レプリカントだ。君の惑星の言葉も知っている。お嬢ちゃん、君の名前は? 家族や住んでいた処は?」
 ブリックは鮮青の目をピリンに向けて、ピリンは長い事、パリゼット族の方言やパリゼットの女の伴侶の言葉しか話せず、非フェリアス星人と話した事がなかったため、上手く話そうとしても何て答えたらいいかわからなかった。
「あ、えと……」
「アジェンナ、ブリック。患者は助かったのか?」
 ピリン達のいる部屋に見た事もない星人の男が入ってきた。長い触角に背に黒い甲翅と透明の下翅、肩に「<」状の突起に黄色い複眼と下の眼、渋色の衣をまとった星人が現れたのを見て、ピリンはぎょっとした。
「ほわっ」
 ピリンは男を見て怯えてカプセルの中に入っていた枕に顔をうずめた。
「何で顔を隠して……。わしの顔に何かついておったか……」
 男が首をかしげてピリンの様子を見てみると、女が黒くて身体の大きな男に言った。
「か、艦長……。この子、艦長の姿を見てびびってしまったんですよ。フェリアス星の種族って、人間型(ヒューマン)が多いですから」
「おお、そうだったか。怖がらせてすまなかったな。わしはお前さんに害をなさないから、おいで」
 艦長と呼ばれた男はピリンに猫なで声で言った。ピリンはおそるおそる顔をあげて、艦長の顔を見た。
「……?」
 ピリンは銀色の眼を艦長に向けて、三人の姿を見つめる。
「お前さんは何て名だ? わしはグランタス。このウィッシューター号の艦長だ。嬢ちゃん、名前は?」
 グランタス艦長はピリンが怯えないように猫なで声を出し、エルヴァトス語を使ってピリンに話しかける。
「ピ……ピリン……」
 ピリンは返事した。本当は「フィーリン」なのだけれど、舌足らずのためずっとピリンと染みついてしまったようだった。
「ピリンか……。お前さん、いつの間にかウィッシューター号に転がりこんでいて汚れていて傷だらけだったから治療ポッドに入っていたんだぞ。意識が戻って良かった」
 グランタス艦長はピリンに言った。微笑むと親しみのある優しさがピリンに伝わった。
「ねぇ、おじちゃん……。ピリンのママ、ちらない?」
 ピリンが自分の母の事を尋ねてくると、それを聞いてアジェンナとブリックの表情が凍りついた。
「その事なのだが……。君野同胞とおぼしきフェリアス人の遺体が見つかって……、十数人とはいえ、みんな荒れ地に泥に呑まれたり水や土砂が体内に入って窒息死していた。残念な事に……」
「あの中にピリンと似ているフェリアス人もいた。恐らく……」
 ブリックと艦長がピリンに深刻に言うと、ピリンは深い穴に落とされたような衝撃をイケた。
「ママ……、そんなぁ……」

 ピリンは泣き続けた。ただ一人の家族を亡くして……。ピリンはパリゼット族領から遥か東に数キロメートルの荒れ地に流されており、そこにグランタス艦長がエプシロン星域の連合軍からフェリアス星に逃げ込んだ宇宙盗賊を捕縛するために着陸し、嵐の後のパリゼット族領の大惨事に遭遇したのだった。盗賊の捕縛は参謀格のドリッドに任せ、艦長達は流木に挟まって動けなくなったり、濁流によるケガを負ったパリゼット族を助けて、旋風(サイクロン)の事故で亡くなったパリゼット族を見つけて供養にあたっていた。
 生き残ったパリゼット族は家の中に残った泥や石や木片を出したり、ケガ人や老人子供の世話をし、亡くなった者達の弔いをしていた。ピリンも集落近くの草原に埋葬された村人や母の冥福を祈った。墓碑は全てパリゼットミルトを削った十字架で名前も刻まれていた。土を丸く盛った部分には白い小袋に似た花、ファファが供えられていた。
 ここで問題が起きた。ピリンの引き取り先である。ピリン以外にも親兄弟や子供や孫を亡くしたパリゼット族がいて、パリゼット族の長老も洪水に巻き込まれて死亡したため、引き取り問題は難儀になっていた。
 当のピリンは母を亡くしたショックのあまり毎晩うなされており、集落に戻ろうとしたらしたで、自分の住処に災害が訪れた時の心理外傷(トラウマ)で引き返したのだった。
 亡き母に替わってパリゼット族領の長となった長老の娘はグランタス艦長に引き取ってもらった方がいいのでは、と判断してピリンをグランタス艦長に委ねたのだった。
「フィーリンは災害時の恐怖で族領地に住む事を受けつけられなくなったのでしょう。もし、出来ればグランタスさん達かエプシロン星域の連合軍内の孤児院に入れてもらえれば……」
 母親以外に身寄りがなく、災害時の出来事のせいで長年暮らしていた土地に住めなくなったピリンはワンダリングス兵団に引き取られたのだった。

「グランタス艦長、お尋ね者の宇宙盗賊はさっき連合軍の護送部隊に引き渡しました」
 グランタス艦長がピリンを引き取ってから約六時間後に赤褐色の体に長い触角と赤と黒の三白眼、くすんだ緑の軍服、背に赤い斑紋の上翅と薄い下翅の筋肉質の虫型異星人(エイリアン)、グランタス艦長の参謀、ドリッドが帰ってきた。ウィッシューター号の司令室に艦長、ブリック、アジェンナの他、見知らぬ幼女がいる事に気づいたドリッドはピリンを三白眼で見つめる。ピリンはドリッドを見て、アジェンナの後ろに隠れる。
「グランタス艦長、この子はどうしたんですかい?」
 ドリッドがグランタス艦長に尋ねると、ブリックが咳払いをしてピリンを何故引き取ったのか教えたのだった。
「はぁ、成程……。そんな辛ぇ事がこの子の身にねぇ……。だけど、俺達の事は本当の家族だと思ってくれよ、フィーリン」
 ドリッドがピリンの本名の「フィーリン」と呼んだ時、ピリンは「うん」と頷いた。
 ピリンは惑星フェリアスから旅立ち、グランタスらと共に流浪の兵団ワンダリングスをやる事になったのだった。
 ピリンは三〇歳といえどまだ幼女のなので、武器や銀色の鎧手甲すね当てや危なっかしくて重すぎるので使わせず、防御チョッキを着せて常にメンバーの誰かと行動していた。ピリンは母親譲りの妖獣召喚と母の形見である宇宙真珠と紅水晶の花の杖で戦場に参加していた。ピリンは母のおかげでいく匹かの妖獣をフェリアス星から召喚して活躍していたのだった。
 ワンダリングスは戦いのない日は戦闘訓練や宇宙市場(コスモマーケット)や文化文明のある惑星で買い物や狩猟、沐浴などの日課を過ごして、連合軍から依頼された時は連合軍が来れない場所の悪党退治や連合軍加盟惑星の戦争援助、宇宙鉱石などの採取、宇宙奴隷の救出にあたって活動していた。
 そしてその二年後に、ピリン達は惑星ホジョで宇宙盗賊に家族や友人、村人をザーダ星人の宇宙盗賊に滅ぼされたリブサーナと出会ったのだった。

 ピリンは寝ぼけまなこをこすり、フェリアス星にいた頃の夢から今のウィッシューター号の自身の個室にいるのを自覚すると、ベッドに備え付けられたタラップを降りて、ネグリジェを脱いで、クローゼットの戸を開けて今日の服を選んだ。ピリンの服は皆戦闘には向いていない刺繍やレースやフリルやリボンの付いたワンピースやツーピースばかりだ。ピリンは十数着あるうちの長袖のパフスリーブのシルバーグレイの生地に白や青の糸で刺繍の入ったワンピースを選び、靴も白い幼児用の網あげ靴である。
 ピリンは扉の開閉スイッチを押して廊下に出た。ウィッシューター号内の部屋はどこも天井と上壁がアイボリー、下壁と床が暗銅色(ダークブロンズ)の配色である。
 ウィッシューター号をはじめとする宇宙艇はどの機体にも地上と同じように活動できるように重力固定装置、機内を一日二十四時間に設定した方が過ごしやすいと造られている。ピリンは廊下を歩き、食堂にやってくる。食堂には食卓と椅子が床に設置されており、食卓の上には今日の食事当番であるリブサーナが作ってくれた朝食が並べられていた。
 リブサーナはピリンがワンダリングスに入ってから二年後に入団したホジョ星の一角の村の生き残りで、ホジョ星でいうところの一六歳で、卵型の顔にうねりのある糖蜜色のセミロングの髪、大きな深緑の眼に一六〇センチの背丈と太めでも細めでもない体型に中間肌の少女である。
「おはよー、ピリンちゃん。今出来上がったとところよ」
 リブサーナはエプロンを外して自分の膝上に置き、そして次々にグランタス艦長、ドリッド、アジェンナ、ブリックも入ってくる。
「おはよう」
「うーっす」
「おはようさん」
「おはよう」
 一同は次々に空いている席に座り、リブサーナが作ってくれた今日の朝食にありつく。
 リブサーナ手製のベーコン、プラネットマトやプルータスなどの野菜のサラダ、黄色と緑の粒が特徴の2色モロコシ入りのパン、岩石イチゴとサンダーバナナのヨーグルトである。
 リブサーナはグランタス艦長やドリッドやアジェンナに鍛えられたおかげで戦闘技術を身につけたけれど、生まれ育ったホジョ星での料理や掃除や洗濯、農家の娘のためベーコンなどの保存食作りや服飾の方が得意だった。
「そういえば、艦長。食糧庫を調べてみたら肉とか魚や種子類や野菜類や果物といった食料が底をつきそうなんです」
「そうか。宇宙市場(コスモマーケット)までは一番近いところでも一一〇時間かかるしな……」
 リブサーナが艦長に伝えると、ブリックが横から入り込んできた。
「艦長、ここから近い惑星だと、ミスティアーノ辺りですよ。人類はいませんが、清浄な大気と水質優良な水、植物や生物も過多で困りませんよ」
「おお、そうか。よし、そしたらミスティアーノに入る準備をせんとはな」
 ワンダリングスは食糧補充のため、ミスティアーノ星に入る事にした。

オミクロン星域の辺境の一つ、ミスティアーノ星。そこの星はもやから濃霧までの現象が起きる事が有名で、宇宙から見ると星は白いがそれは霧に包まれているだけで、着陸してみると、空は淡い紫色で芝や草木に覆われた大地に澄みきった水、色のついた翅のある蝶やハチやバッタなどの虫や大小の様々な羽毛の鳥、一目見たら宝石のような鱗を持つ魚などの生物がたくさん居たのだった。
 ウィッシューター号は生物があまり住んでいなさそうな平原に着陸させ、ミスティアーノ星の細菌や病原菌に侵されないようにブリックが調合した予防薬の注射をし、通信用の端末と携帯食糧、護身用の携帯銃や武器、ソーイングセットや救急キットを所持して地に降りたった。
「わしとドリッドは手ごろな鳥や獣を探しに行く。アジェンナとリブサーナは革や水辺に行って魚を。ブリックとピリンは木の実やキノコや菜類を頼む」
「了解」
 ワンダリングスは三組に分かれて、ミスティアーノ星での食糧採取に出かけたのだった。
――ミスティアーノ星には恐ろしい存在が潜んでいるとも知らずに。