フューザー5-4

 
ブルーヴ、融合発動(フュージング)!?

 

『グラスゴー選手、四肢の先から金属ワイヤーを出してきて、チャンピオン・フリージルドをがんじがらめにして動きを封じた! と思ったら、チャンピオンが炎の必殺技で反撃した~!』
『今大会の初出場のエルニオ=バディス選手、両拳から竜巻を出して、ティサ選手を押し出した~!』
『同じ深流族の融合獣と融合するヒアルト選手対初出場のトリスティス選手の行方は!?』
 今年の夏に開催された融合闘士格闘大会(フューザーソルジャーコロッセオ)のリアルタイム放送の録画映像を見て、ブルーヴ=エルネスティーネは自身の従姉妹とその仲間たちが出場した場面を見つめ、羨望を抱いていた。
「ジュナもジュナの仲間も出場経験のある融合獣とその適応者を相手してきたんだよな」
 特に決勝まで昇ってチャンピオンのフリージルド=クロムと対決したジュナの強さと融合獣ラグドラグとのコンビネーションに目を向けていた。録画映像はジュナとフリージルドの決勝戦の途中、ここで謎の国家組織ダンケルカイザラントの機械兵に襲われ、大会は中止、今回は勝者なしで終わってしまったとテレビや新聞などの報道で伝えられたのだった。
「ダンケルカイザラント……。ジュナも何度かあの連中と対決してる、って言っていたな。軍隊が出てこないのは、国民まで巻き込まれないようにするのを防ぐため?」
 ブルーヴは以前、ジュナの亡き父の一周忌の時、ジュナと母セイジャとラグドラグがセイジャの実家に泊まりにエルネスティーネ邸に来たのだが、エルネスティーネ家にそのダンケルカイザラントの刺客が潜入していたのには大そう驚いていた。エルネスティーネ家は初代当主が虹色輝石(プリズマイト)の鉱脈を発見したことによってアクサレス公国内のエルサワ諸島の領主となり、八代目の現在に至る。
 ブルーヴはエルネスティーネ子爵の息子だが、兄のアロジーノが後を継ぐと決まっており、ブルーヴの後継権は低かった。
 ブルーヴは見事な装飾の窓から景色を見つめた後に、壁掛けテレビとその真下のオーディオレコーダーの電源を切り、毛織生地の腰掛から立ち上がり、腰を伸ばして銀灰色と瑠璃色の糸を使った絨毯が敷かれていて、立派な作りのタンスや机や椅子や本棚、天がい付きベッドのある自分の部屋を出て、一回り歩くことにした。
「折角晴れているんだもの。出かけなかったら、もったいないよ……」

 ビーザール大陸の最南に位置する国、アクサレス公国。アクサレス本土から海上にあるエルサワ諸島。エルサワ諸島は八つの島からなっており、真っ青な大海の中に緑の斑が浮かび上がっているように見えた。今は秋で島の木々がまだ緑の葉を持つ木もあれば、葉が赤や黄色に染まっている木々もある。
 ブルーヴは家の近くの林まで行き、森林浴を楽しんだ。落葉樹や針葉樹が生える一帯には茶色く湿った地面の上に赤や黄色や茶色の葉が散らばり、葉の形も三角形や楕円、星型やひし形と種類が豊富だった。エルネスティーネ邸はエルサワ諸島の一番大きな島の小高い丘の上にあり、そこから三~四階建ての長屋が多い町や海、晴天ならば碧空の空を見渡すことができるのだ。秋の今は風が冷やかであるが、太陽光の熱によって寒さが和らいでいた。町では小さな子供たちが家の周りや公園で鬼ごっこやボール遊びをする様子が見られ、上級学校に行く子らは親の手伝いとして洗濯干しや庭の草むしり、漁師の父と一緒に漁船に乗って魚をとったり、海水を汲んで塩作りする姿が見られた。ブルーヴも上級学校の五年生で、一週間のうちの七日間は学校のある離島に行って船で通学している。兄や姉はとっくに学校を卒業しているが、兄は両親と一緒に貴族としての務めである他貴族との交流や島民の暮らしの管理、姉はアクサレス公国本土の大学に入学して叔父ゼマンの一周忌の後に本土の大学に戻って外国語学に専攻するかたわら、学友たちとの交流にも勤しんでいるという。
 一方、ブルーヴの家の近くのがけ下では以前ダンケルカイザラントからの刺客とジュナの戦いで壊された地下鉱脈跡を改修工事をしており、両親と兄が作業員と共に、エルサワ博物館の建設に勤しんでいた。小型のショベルカーやブルドーザーや掘削機などが岩壁を整えて、支柱となり強合金の杭を立てていた。
「はぁ~あ、僕には勉強と学校と融合以外に今の生活に呑みこめるのが何があるんだろうか?」
 ブルーヴは六年前、偶然テレビで融合闘士格闘大会(フューザーソルジャーコロッセオ)を観て、様々な姿や属性の融合獣と一体化して対戦し合う選手らの場面を目にして、融合闘士(フューザーソルジャー)に憧れるようになった。……だが、融合獣は人工生命体で人間より数が少ないのは当然で、融合適応者になれる人間も、そんなに居ないことに悟ったが、生涯で数年でもいいから融合闘士(フューザーソルジャー)になっていつか融合闘士格闘大会に出場したいと思うようになった。ただ、長いこと会っていなかった従姉妹   のジュナが融合闘士(フューザーソルジャー)になっていたのが意外だったが。
「はぁーあ」
 ブルーヴは溜息をつくと、近くにあった枯れ葉の山に寄りかかって転がった。
「いだっ!!」
 ブルーヴはその声に驚いて辺りを見回して、自分以外にもこの林にいるのかと確かめる。
「だっ、誰!?」
 ふとブルーヴの尻に何か踏んづけていることに気づき、そろりと離れて枯れ葉の山の中にいると感づいて、この葉を払った。
「これは……!」
 ブルーヴは目を丸くした。銀灰色の体に節のある六本の脚、背中の甲翅は藍色で、甲翅の下には透明は下翅があり、背中の中心に半透明の赤紫の契合石があり、眼も赤紫色だった。虫と同じ蟲翅族の融合獣で、大きさは十二ジルク(一二〇センチ)はありそうだった。元となった虫はローヴィト(翅隠し)であろう。
「君は……融合獣!?」
 ブルーヴは融合獣に尋ねる。
「そうよ。私はハイディニアっていうのよ。あんたはここに住んでいる人間なの?」
「う、うん。エルサワ諸島領主、エルネスティーネ子爵の次男、ブルーヴ……。初めまして……」
 融合獣は小高い声を出してブルーヴに話しかけてきた。声からして、この融合獣は女性のようだ。
「君は……、どうしてここにいるの? そうだ、融合獣なら適応者がいる筈だ。いるんでしょ? 近くに」
 するとハイディニアはさっと答えた。
「適応者? いないわよ。私は融合獣として生きて三回も適応者と融合したけれど、最後の三番目は四年前に亡くなったわよ」
「え……、そうだったの……。ごめん、悪気があって言った訳じゃ……」
 ブルーヴがハイディニアに謝罪した。
「いいのよ。私だって“あいつ”に追われていたところ、この島に逃げて隠れていたのよ」
「え……」
 ブルーヴはそれを聞いて、ハイディニアは融合獣や世界各地の珍しい動植物を闇市場に売り渡す融合暴徒(フューザーリオター)や珍生物専門狩人に狙われているのかと悟った。
「君を狙っている奴って……」
 ブルーヴがハイディニアに尋ねようとした時だった。
「ぼっちゃん、ぼっちゃーん」
 ブルーヴを呼ぶ声が林の中から聞こえてきて、ブルーヴはここで止めた。
「どうやら僕が中々帰ってこないのに気づいて、屋敷の使用人たちが探しに来たようだ。
 ハイディニア、君を狙う奴らが現れたら僕が助けにきてあげる。それまでは林の中にいて」
 ブルーヴは踵を返してハイディニアを林の中に残して、屋敷に戻っていった。

 

 白い壁に赤い屋根、真上から見ると半円の端に長方形をくっつけたような形をしており、煙突が三つもある邸宅、エルネスティーネ邸。ブルーヴは林から戻ってきた後、すぐ両親と祖父母と兄と共に今日の夕飯をとり、その後は入浴に行った。エルネスティーネ家の浴場は広く、四畳はあり天井も壁も床も磨かれた大理石で、天井と壁は白地に黒い線、床と浴場は黒地に白線という対比である。一度に四人は入れる浴槽には芳しい薬草のバスソルトが入れられ、瑞々しくってさわやかなレンバンの成分入りであった。ブルーヴは落ち着かなかった。家に帰ってからも、食事をしている時も、今ここに湯船につかっている時も。ハイディニアは他所の地からやって来て、見ず知らずの土地であるエルサワ諸島の、ブルーブ自身が言っておいてそれも夜はうんと冷えて暗い林の中にいるのでは、と良心が疼いた。
(あの融合獣、辛くないのかな……)
 いくら融合獣が急速再生組織や強化骨格といった人工生体パーツの塊とはいえ、流石に寒すぎたり暑すぎたりは耐えられないのではないか、と。

 翌朝、ハイディニアは一晩中エルネスティーネ家近くの林で木の葉を集めて寝床にし、自分の体を包み込んで過ごしていた。食べるものは木の根元に落ちているラチカ(からたち)の木の実やウォーナ(クルミ)の木の実、石の根に生えたわずかな山菜くらいで、飲み水は木の葉についた朝露だけであった。
 ハイディニアは晩秋の気候による寒さと木の葉の砕ける音で目が覚めた。誰だと思って木の葉の山から出ると、そこに薄藍の髪に金の眼、色白の肌にシャツと仕立てのいいズボンとジャケットを着た人間の少年、ブルーヴが両手に何かを抱えて立っていたのだ。
「あんたは……」
 ブルーヴは両手に抱えていた薄茶色の紙袋を置いた。
「これ、良かったら食べてよ。うちの冷蔵庫から気づかれないように持ってきた」
 ブルーヴはハイディニアに言った。
「じゃ、僕は学校があるから……」
 ブルーヴはそう言ってハイディニアのいる林から駆け足で去っていった。
 エルサワ諸島の学校は初級学校は一つの島に一校ずつあるが、上級学校は二番目に大きい島に一校しかない。そこで各島のエルサワ上級学校に所属している者は毎朝、定期船に乗って学校に通学している。ブルーヴも通学用の黒いメヒーブ革の三通りバッグを肩に下げて、エルネスティーネ家のある丘から港町、港の定期船乗り場に行って、一時間に一本だけの中型定期船に乗る。
 定期船の客席は十一歳から十七歳までの少年少女が左右に二列に並んだ座席に座り、家で食べ損ねた朝食を食べていたり、鞄を膝に置いて座っていたり、家で寝足りなかった分を船の中で寝ていたりする様子が見られた。
「おはよー、ブルーヴくん」
「おーっす、ブルーヴ」
 初級学校からの幼馴染の上級学校の少年たちが話しかける。
「ああ、おはよう」
 ブルーヴも空いている席に座り、定刻を迎えると、船は汽笛を鳴らして出発する。
 ポーッ
 窓から見える空は雲が全くないといいほどの碧空が見える晴天で、波の揺れはこの日は穏やかで、波の白い線と海の深い青のコントラストであった。船に乗っている学校生たちは幼少の頃から船に乗り慣れており、船酔いすることはなかった。ただ親の転勤などでエルサワ上級学校を船で通うことになった新入生や転校生には慣れない習慣のため困ったが。
 船は十五ノルクロ(十五分)で上級学校のある島へと到着し、学校生たちは次々に船に降りていき、全員の下船が終わると次の定期船の邪魔にならないように出航する。
 初級学校は港町の住宅街の中心にあったが上級学校は港町より少し離れた台地にあり、白い漆喰と赤レンガの壁、暗灰色の瓦屋根の大きなL字型の建物が地方立エルサワ上級学校であった。ただ広い土地の上級学校と違い、学科が普通科・水産科・農業科・商業科・林業科と五つしかなく、ブルーヴはそこの普通科の五年生として在学していた。
 また教室もそれ程広くないため、教壇と学習用スクリーン、机と椅子が一組で十五あり、スクリーンに映し出された公式や文書、授業の項目を生徒たちはミニコンピューターに供えられたスライド式タブレットで書き写していて入力していた。授業が終わると、生徒は次の授業のために用足しに行ったり予習復習をしていた。
「ふーむ」
 ブルーヴは次の授業まである化学の教科書やデータディスクを机から出して、ハイディニアのことを考えていた。
(ハイディニア、今頃どうしているのかな。ハイディニアを探している奴に遭ってなきゃいいけど……)
 外からは学校の敷地内で飼育されている牛(カウモ)や豚(ピゲン)、羊(メトマ)と豚を合わせた新家畜メヒーブの鳴き声が聞こえてくる。農業科は語学や数学といった教科の他、家畜の世話をする実習や畑の作物を育てる実技も行っている。エルサワ諸島では人間が住むようになってから、野生の牛(カウモ)や猪(ノッケン)や鳥を品種改良して臭味の少ない肉に作り続けてきて、今でも家畜の飼育が続けられている。水産科も食用魚の養殖や宝飾品にもなる貝の開発に勤しんでいるそうだが、ブルーヴは農業も水産にも興味がなかった。今の彼の心内は融合獣ハイディニアのことだけである。
 二時間目、昼休み、三時間目、四時間目と過ぎていき、エルサワ上級学校に通う学校生たちは定期船の時間に合わせてクラブ活動に励んだり、図書館や視聴覚室で読書や映像ヴィデオを見て待機していた。
 ブルーヴもクラブ活動に参加しており、彼は花道部に入部していた。花道部は一年生の教室を使用し、いくつかの花や木の枝を使って花を活けたり花束(ブーケ)や花輪(リース)を作って活動していた。花束(ブーケ)や花輪(リース)はしおれないように薬品でプリザーブドする。
 第一諸島行きの定期船の時間になると、ブルーヴは作った花輪(リース)を持って船に乗り、火が西の方へ傾く空と穏やかに波打つ海を見つめながら、邸宅のある第一諸島へ帰っていく。
 第一諸島に着くと、漁業を終えたばかりの漁師たちが魚の入ったクーラーボックスを持って漁船から降りたり、外地からやってきた商人が客船に乗って他の地へ行こうとしたり、港町に住む幼い子供たちは友達の家や公園から帰るところで、商店には今日の晩食と明日の朝食を買いに来た主婦や老人、一人暮らしの若者が肉や魚やモグッフ(パン)や果物を買いに来ていた。
「あー、ブルーヴ坊ちゃん、今お帰りですか?」
 ベーカリーのおかみがブルーヴに目をやって声をかけてきた。
「あ、ああ……」
「ぼっちゃん、また花を持って帰ってきたんですか? 私の親戚の娘が結婚することになったからそのお祝いに花輪(リース)を持っていこうと思っていたら用意できなくなって……。若し良かったら、売れ残りのモグッフと交換してくれますか?」
 ベーカリーのおかみが取引を持ちかけてきたので、ブルーヴは承知して自分の作った白い雛菊(ジディ)と淡ピンクの撫子(デュナ)とオレンジ色の花をつけたラチカの枝と葉で出来た花輪(リース)を売れ残りのモグッフの紙袋と換えて、坂道を上ってエルネスティーネ家のに帰宅する前に近くの林へ行き、ハイディニアを探しだした。
「おーい、ハイディニア。僕だよ、ブルーヴだよ」
 すると一ヶ所の木の上からハイディニアが出てきた。
「今度は何?」
「ああ。モグッフを持ってきたんだよ。売れ残りのやつだけど」
 するとハイディニアが木の上から降りてきてブルーヴの前にやって来る。中を開けると、干し果物入りや種子類入り、香草(ハーブ)入りや杏子(アプコズ)の甘露入りなどが十個入っており、どれも固かったり歪んでいたり小さかったり割れていたりと商品にならない物ばかりだった。
「ブルーヴ……。私とあんたは昨日初めて会ったばかりなのに、どうして親切にするの?」
 ハイディニアがモグッフの紙袋を受け取ると、ブルーヴに尋ねてくる。
「君が何か……、放っておけなくって。居場所がないのなら尚更……」
 町の広場の大時計が夕方十時を知らせる音を鳴り響かせて、ブルーヴはその音で聞いて帰ることにした。
「ご、ごめんね。変なことを言って……。僕は家に帰らなくちゃ行けないから……」
 ブルーヴはハイディニアにそう言うと、家族の待つ邸宅へと戻っていった。

 

 その晩、ブルーヴは二日の間にハイディニアを狙う者がハイディニアを捕らえようとする悪夢にうなされていた。目を覚ますと、カーテンで閉ざされた窓から風の吹く音と木の枝がこすれる音が響き、この夜は雲に覆われて月が見えないのであった。
 ブルーヴは一旦目を覚ましてから、ハイディニアを狙う者も気になっていたがm祖父母も両親も兄姉もかつて家にダンケルカイザラントの刺客であるヘリネラとその融合獣が潜り込んでいて、エルネスティーネ家の中にあると云われていた融合獣強化の秘伝を探していたということから、融合獣に対する恐れを持っていた。これもブルーヴの悩みの一つであった。
(やっぱしハイディニアを放っておけない。そうだ。屋根裏の一ヶ所に何も置いていないスペースがあったから、そこにハイディニアを置こう)
 ブルーヴは起き上がってベッドから出ると、ニット服とハイネックシャツと厚手のパンツに着替えて半絹半綿(キルコット)材のダウンジャケットを羽織って、こっそりと屋敷を抜けてハイディニアのいる林へと向かった。
 ハイディニアは林の中の大きな木を見つけて洞の中へ入って、枯れ葉や苔を中に入れて過ごしていた。夜の寒さで震えつつも寝静まっていると、眩しい何かが照らされて目を覚ました。
「!?」
「ハイディニア、僕だよ。ブルーヴだ。君を迎えに来た」
 ハイディニアは顔をのぞかせると、自分の木のいる前に電熱ランタンを持ったブルーヴを見つける。ブルーヴはハイディニアに言ってきた。
「やっぱり君のことを放っておけなかった。君のことは屋敷の空いている屋根裏部屋に置いてあげるよ」
「ブルーヴ、あんたって……」
 その時、二人は怪しい気配を感じ取った。ブルーヴは電熱ランタンを持って背後にいる存在を照らして振り向く。
「見つけたぜぇ、ここに隠れていたとはなぁ」
 そこにいたのは長身に金髪を逆立てて光沢のある赤銅色のジャケットとパンツをまとい、黒いベルト付きブーツの白い肌の寒方人種の男が立っていたのだ。恐らく外見からして二〇代そこそこで眼は淡い緑。アクサレスとその周辺に通じる言語を話しているようだが、語尾を伸ばす訛りが入っている。一緒にいるのは体が十五ジルク(一五〇センチ)もある蟲翅族の融合獣で、半円のような体つきの団子虫(ピルロル)で戦車のキャタピラのような体は青紫色で眼の色は褐色、契合石は触角の間にあり褐色である。
「あんたは……」
「も、もしかして、お、お兄さんがハイディニアを狙っているという……」
 ハイディニアとブルーヴがほぼ同時に男に言ってきた。
「ああ、俺はダンケルカイザラントの融合獣捕獲班のドミトロ。一緒にいるのはガルヴェリア様から与えられた融合獣、ダムロ」
「ダンケルカイザラント……、融合獣捕獲……。もしかしてあんたはこの前、僕の家に潜り込んでいた女中の……」
 ブルーヴは目をひん剥かせてドミトロがダンケルカイザラントの出身で、ヘレン=ダンと名乗っていたヘリネラと融合獣ニドラボルグの同属だと脳内で処理した。
「だが失敗した者はもう切り捨てて、新しい者を補充しているんでね、ダンケルカイザラントは。ハイディニア、お前には適応者がいない。ダンケルカイザラントに来れば……」
 ドミトロがハイディニアに差し伸べようとした時、ハイディニアは拒絶した。
「あ、あそこには行かないわよ! あんたたちが身寄りのない人間や融合獣を利用しているのには……」
 ハイディニアの台詞を聞いて、ブルーヴはダンケルカイザラントが詳細不明とはいえ、何か怪しいことをしているのには理解した。
「じゃあ、契合石はいただいていくぜぇ。ダムロ!!」
「おう!」
 ドミトロがダムロは融合のフレーズを発する。
「融合発動(フュージング)!!」
 ドミトロとダムロは土煙に包まれ、土煙がなくなると、両拳両爪先に団子虫と同じ装甲をまとい、胴体にも節のある青紫の装甲、頭部は団子虫の頭部に額に契合石が煌めく融合闘士になったドミトロが姿を現した。
「力づくでもハイディニアは連れて行くぜ!!」
 ドミトロは地面を強く叩き、ドスンという音と同時に地面が丸く凹み、ブルーヴはダムロと融合したドミトロの強さに屈して腰を抜かした。
 だが、ハイディニアが木のうろから出て、ブルーヴの前に立った。
「ハイディニア、どけっ! そいつを庇うのかぁ!?」
 ドミトロがハイディニアに問うと、ハイディニアは答える。
「私はダンケルカイザラントには行かない! いいえ、たとえ一人でもあんたたちと戦うわ!」
「ハイディニア、君って……」
 ブルーヴがハイディニアに尋ねようとした時、ハイディニアがブルーヴに言ってくる。
「私は今ここで気づいたようなの。私のことを思ってくれる子がちゃんといた、って……。
 ねぇ、ブルーヴ。私と融合してくれる?」
 ブルーヴはそれを聞いて、戸惑いもためらいもなく答えた。
「もちろんだとも」
 ブルーヴはハイディニアの背に自身の右掌を向け、赤紫の光が発して、契合石の一部がブルーヴの中に入り、ブルーヴは融合適応者となった。
「融合発動(フュージング)!!」
 ブルーヴとハイディニアが叫び、両者は銀色の波動に包まれ、波動が消え飛ぶとハイディニアと融合したブルーヴが姿を現したのだった。
 赤紫の複眼と眼と触角のある頭部、背中に赤紫の契合石と藍色透明の二種の翅を持ち、上腕と大腿部が黒く、四肢は銀灰色、胸と腰が藍色と銀灰色の装甲に覆われた姿に変化したのだった。
「僕もジュナと同じく融合闘士(フューザーソルジャー)になれた! それから力がみなぎってくる」
 だがドミトロは鼻で笑い、融合闘士になったばかりのブルーヴに襲いかかってきた。
「お前なんか倒してやるよ!」
 ドミトロは丸い装甲を付けた右拳をブルーヴに向けてきた。ブルーヴは咄嗟に身の危険を感じて自分も拳を相手に向けてきて、ぶつかり合った。だがドミトロの方が融合期間と訓練経験が上のため、ブルーヴは押し返されて真後ろの木の幹にぶつかった。ガサ、と木の葉の潰れる音が鳴る。
「うう……」
「何だ、やっぱしデビュー戦は敗北か? そりゃあそうだもんなぁ、憧れと羨望だけじゃ融合闘士にはなれないもんなぁ」
 ドミトロが起き上ろうとするブルーヴに見下しながら言った。ブルーヴが立とうとした時、ドミトロが近くの古木を引き抜いてメリメリと音を立てて苔と土砂に覆われた古木を放り投げると、ドミトロは跳躍して爪先で古木をへし折って古木は真っ二つに折れてブルーヴに向けられてくる。
「や、やばい!!」
 ブルーヴは途端によけて、二つの古木の破片がブルーヴとぶつかった木に当たり、気が折れた。その時に木に泊まっていた鳥が逃げ出して羽ばたき、島民を始めたばかりの虫も散らばった。
「何て攻撃力だ……」
 ブルーヴはドミトロの攻撃力を見て引く。
「お願いよ、しっかり戦ってちょうだい」
「そんなこと言われても……」
 ブルーヴは呼びかけてきたハイディニアにせかされ、焦りが出そうになった。
「じゃあ、ブルーヴの家族や島の人たちに迷惑がかかるよ」
 ハイディニアに言われて、ブルーヴは悟る。目の前にいる融合闘士とやり合えるのは自分だけ。自分以外にエルサワ諸島には融合闘士はいないのだから。
「そうだね。融合闘士になったら、危険性(リスク)もあるんだもんね。来い、ダンケルカイザラントめ! 僕がダンケルカイザラントの邪魔をさせない!」
 ブルーヴは立ちあがり、ドミトロに立ち向かう。
「いいだろう、また後悔させてやるよぉ!」
 ドミトロは両腕を×字状にさせ、青紫色の波動をまとい、球状のエネルギー弾をブルーヴに向けて放つ。
「球気弾転速(ローリィスピナス)!!」
 エネルギー弾はいくつも発射され、またカーブしてきたりバウンドしてきたりして迫ってくる。だがブルーヴは一体化しているハイディニアの指示を受け、木の幹を蹴って交差にはねて移動する。エネルギー弾は近くの岩や木に当たって弾け、エネルギー弾同士がぶつかると、勢いよく弾けて吹っ飛んだ。
「うお……」
 ドミトロはエネルギー弾のぶつかり合いで転がって堅木の根元にぶつかる。ブルーヴが地に降りてきた時、ドミトロはダムロの力で青紫の大きな球体になって転がってきた。
「わわっ!」
 ブルーヴは転がってくるドミトロが自分に向かってくるのを見て、思わず逃げ木の上に避難するも、ドミトロの転撃で木はへし折れブルーヴは木から木へと飛び移って逃げるばかりであった。
「ブルーヴ、あんたさっきの威勢はどうしたのよ!?」
「こ、こんな攻撃をしてきたんじゃ、流石に反撃は無理……」
 ハイディニアに叱られた時、ブルーヴはこのまま進めば林を出て海の見える岩壁に出ると気づき、このまま逃げ続けることにした。球体状のドミトロは木をへり倒して進んでいき、ブルーヴが林の外である岩壁に出た時だった。
 ブルーヴは近くのぶら下がっている太い枝を掴んでドミトロの攻撃を避けて、ドミトロはそのまま転がり続けていたために、崖から飛び出てそのまま真下の海に落下してしまったのだった。
「え!? わああああ……」
 ドミトロは融合したままダムロともども海の中に落ち、夜明けで暗い青の表面に白い飛沫が浮かんで消えた。
「あーあ、まさかこんな方法でやっつけるなんて……。まぁ、ブルーヴが地元民だったから島の地形や地理を利用したから退けられたんだろうけど」
 ブルーヴと一体化の最中とはいえ、ダンケルカイザラントの刺客が間抜けかつ悲惨な負け方を見たハイディニアが呟いた。
「大丈夫かな……。今の海はすごく冷たいし」
「融合闘士なら大丈夫よ。そのうち助かるでしょ」
 ブルーヴがドミトロの様子を見て気になったが、ハイディニアが融合闘士の耐久性の高さを教えてくれたから安堵した。
「陸に着いたとしても、いずれ融合暴徒(フューザーリオター)として捕まるだろうし……」
 ブルーヴが少し間を空けて、ハイディニアに言ってきた。
「あの、さ。君のことは父さんたちに話すよ。もう僕はハイディニアと融合することになっちゃったし、そしたら君と一生付き添わないといけないからね」
「そうだったわね……」
 しかしブルーヴはハイディニアと融合したことには悔いてはいなかった。ハイディニアをダンケルカイザラントに渡さなかったのと、彼女の新しい場所を見つけられたのだから。