フューザー5-6

 

 騒音使いとの対決

 

「うーん、一体どうしたらいいものか……」
 ジュナとイグロ、他のコンサート客のいる王族領区の芸術ホールの近くで、ラグドラグは留まっていた。人気歌手エヴァ=ブラウニングのコンサート会場に入れない彼らはどうしたら入れるか考えていた。
「全く最悪のタイミングでダンケルカイザラントから予告状が来たんだからなぁ。ジュナが出ていった後に……」
 ジュナが家を出てから数ノルクロ後、ラグドラグはジュナの自宅コンピューターにダンケルカイザラントからの予告メールを受理しているのを知ると、その内容を目にしたのだった。
『ジュナ=メイヨーよ、お前がエルサワ諸島で手に入れた融合獣強化の秘伝が刻まれた石板を今日の昼、王族領区の芸術ホールに持ってこい。でなければ、コンサート会場に来ている客を無差別に襲う』
 ラグドラグはそのメールを目にして、ジュナの携帯電話にコンピューターからメールの写しを送った。……のだが、この時のジュナは学校でもないのに携帯電話の着信音を出さないマナーモードにしており、更にコンサート中は携帯電話の電源を切らなければならないためオフにしていた。
 ジュナが応答に出ないと知ったラグドラグは急いでエルニオとツァリーナのいる家に飛んでいき、エルニオを通じて羅夢&ジュビルム、トリスティス&ソーダーズもかけつけてきてくれたのだ。
 幸いジュナは王族領区の芸術ホールのある区域に来ており、ラグドラグたちは追いつけることができたがコンサート入場券を持っていないため、警備員によって門前払いされてしまった。それでジュナと合流出来ずにいた。
 ならばと融合獣と融合適応者は融合獣の体についている契合石でつながっており、ラグドラグはジュナの体内の契合石を通じてジュナの精神を通してみるものの――。
「くそっ……。金切り声のような雑音がして、ジュナの様子を確かめることができねぇ……」
 ラグドラグは頭を悩ませた。その時、ジュビルムの長い耳に芸術ホールの中から聞こえてくる音が入ってきた。ジュビルムは耳をピンと立てて、音の出所をつかむ。
「聞こえるです……。ここから西に四十歩、音が聞こえてくるです……」
 そして更に耳を研ぎ澄ませて、手薄な出入り口のありかをつかむ。
「西南へ五十歩行った所に、裏口があるです! そこに警備の人はいないようです!」
「よし、そうか。みんな、行くぜ!」
「おお!!」
 ラグドラグを筆頭にエルニオ&ツァリーナ、羅夢&ジュビルム、トリスティス&ソーダーズは西南に向かって手薄になっている裏口へと向かっていった。

 その頃ジュナはイグロ生徒会長や歌手エヴァ=ブラウニング、コンサート来訪客一〇〇余人と共にコンサートの最中に起きた謎の音波によって苦しめられていた。融合適応者であるジュナはダンケルカイザラントからの刺客あるいは融合獣を悪用して犯罪を繰り広げる融合暴徒(フューザーリオター)の仕業だと踏んでいた。だが、今の状態では助けを呼びたくても呼べず、またラグドラグもいない状態のため自力で探すしかなかった。
(どこにいるの? 早く、わたしが何とかしないと……)
 来訪客に至っては音撃の強さのあまり、失神する者も続出し、隣にいるイグロや舞台上にいるエヴァも苦しみ出している。そしてジュナはこらえているも次第に目まいをもよおし、意識も途切れそうになったその時だった。
 ガターン!!
 舞台の左近くの扉が勢いよく開いて、翼と蹴爪を持つ翠の融合闘士、長い耳と尾を持つ薄桃色の融合闘士、体に鋭角なヒレや刃を持つ水色の融合闘士、そして白竜(ヴァイセドーリィ)の融合闘士が入ってきたのだ。
「み、みんな……!」
 ジュナは意識をもうろうとさせながらも、ピンチの処に現れてくれたラグドラグたちを目にして喜んだ。ラグドラグたちが会場に入ってきたと同時に謎の音波も途切れ、苦しんでいた人たちも正気になる。
「い、一体何があったんだ……!?」
 来訪客の一人が会場を見まわし、エヴァが融合闘士姿のエルニオたちを目にする。
「な、何なの? ドッキリ映像のつもり!?」
 どうやらエヴァは融合闘士に疎いようだった。
「ジュナ、大丈夫か!?」
「わたしは大丈夫だけど、生徒会長さんや他の人たちが酷いんじゃないかと……」
 ジュナはイグロを支えてラグドラグに言った。その時であった。
「キャーッ!!」
 今度は女の悲鳴が聞こえたので舞台を見てみると、何とエヴァ=ブラウニングが一体の融合闘士によって羽交い絞めにされていたのだ。
 融合闘士は草色に黒い縁取りの体に四枚の緑の翅を背に持ち褐色の複眼を持つ蟲翅族の融合獣と融合していた。夏の演奏家と呼ばれる蝉(セケイド)の融合獣であった。
「わぁーっ、何だこいつは!?」
 来訪客たちは融合闘士を見て扉を破って逃げ出し、イグロに至っては腰を抜かした。
「ジュ、ジュナちゃん、何なんだ!? あいつや君の知り合いとおぼしき人たちは!」
「せせせ、生徒会長さん、それはその……」
 ジュナがイグロに融合獣や融合適応者の存在を話そうとしている時、エルニオがエヴァを羽交い絞めにしている融合闘士に尋ねてくる。
「お前はダンケルカイザラントか!」
「ああ、そうだ。俺はマレゲール様の下僕、セルトーだ。俺と融合している融合獣は蟲翅族のミンゼーラ」
 セルトーは剥き出しの口から太めの中音の声を出して名乗る。
「そ……その人を放してやってください~!」
 羅夢が人質に取られているエヴァを見てセルトーにお願いする。
「この女を返してほしかったら、ラグドラグ……例の物(ブツ)をよこせ! 交換条件だ」
 セルトーはラグドラグに目を向け、ラグドラグは仕方なしに翼の下に隠していた色付きの布の包みを出す。布をはらい、薄紅色の石板をセルトーに向ける。
「ラグドラグ、それ……」
 ジュナはラグドラグが取り出した物を見て思わず手で口を押さえる。ジュナがエルサワ諸島の地下鉱路で見つけた融合ジュ強化の秘伝の石板――または旧アルイヴィーナの予言者が作った新アルイヴィーナの予言書でもあった。
「ジュナ、黙って持ってきてしまってのには悪く思っている。けど、ダンケルカイザラントの予告がお前のいないうちに来てしまって、しかもこの町の芸術ホールに来ている人たちを襲うとしてきたんだ……」
 ラグドラグは申し訳なさそうにジュナに言う。セルトーは褐色の複眼の舌にある同じ色の眼を石板に向ける。
「本物だろうな?」
 セルトーはラグドラグたちに尋ねてきた時、トリスティスが言った。
「いきなり予告が来たのなら、偽物なんて作れる訳ないでしょ! それよりエヴァさんを解放してやって!」
「いや、まだだ。石板をよこせ。人質の解放はそれからだ」
 セルトーはラグドラグたちに要請してきた。それでも疑念がある。
「仕方ないな……」
 ラグドラグは石板を持ち、セルトーの方に歩み寄る。エルニオは残念そうに顔をしかめ、羅夢は胸を手で押さえてハラハラしており、トリスティスも黙ってつっ立っている。ジュナは不本意とはいえ、どうすることも出来ない状況に悔んでいた。だが、
「だめだ。渡しちゃだめだ」
 その声に遮られてラグドラグは足を止める。叫んだのはイグロだった。
「何だよ、お前。お前は全く関係だろう。勝手に挟んでくるなよな」
 セルトーがイグロに視線を寄せる。イグロは立ちあがって、セルトーに向かって言う。
「確かに僕はあんたやここにいる融合闘士(フューザーソルジャー)とは関係ない。……だけれど、これだけはわかる。卑怯な手を使ってまで、欲しいものを手に入れたいというのか!」
「生徒会長さん……!」
 確かにジュナたちやダンケルカイザラントとは無関係とはいえ、イグロは自分としての正しい意見と理論をセルトーに向かって訴える。ジュナはそんなイグロの姿を見て、学校にいる時や独りで過ごしている時のイグロとは違うと思いつつ、共感した。
「フン、口だけは達者すぎる坊ちゃんめ。お前は静かにしているんだ!」
 そう言うなりセルトーは顔にある口と腹部にある口を開いて、超音波を発してきた。
 ギィィィン
「うわっ!」
「きゃあっ!」
 セルトーが発してきた超音波でその場にいたエルニオたちも驚き、耳のいいジュビルムと融合している羅夢は両手で耳を塞いでも、耳鳴りがするという具合だった。
「うぁっ!」
 セルトーの発した超音波でイグロとエヴァは失神して、ラグドラグは石板を落としてしまう。ラグドラグの手から石板が離れると、セルトーは人質にしているエヴァを放して、石板に手を伸ばす。


「いただき……」
 セルトーが人質を解放して、石板に手を伸ばしたその時だった。羅夢が腹部の契合石から武器であるツルの鞭を出して振るってきた。ツルの鞭はセルトーの手に当たり、石板が大きく弧を描いて、トリスティスが飛び出して石板をキャッチしたのだった。
「あだーっ!!」
 羅夢の出してきた鞭でセルトーは左手で右手首を押さえてわめいた。更に羅夢の鞭はエヴァの体に巻きつけて、羅夢は思いっきり鞭を引っ張り、人質の体は大きくしなりエルニオがエヴァを受けとめたのだった。
「お前らぁ、何をするんだ!」
 突然の行動を起こしたエルニオたちを見て、セルトーは叫んだ。羅夢はイグロをおぶさり、トリスティスはエヴァの体を抱きかかえる。
「石板は渡さないし、人質も返してもらうよ!」
 トリスティスがジュナに石板を渡し、羅夢は後の行いをジュナにバトンタッチする。
「ジュナさん、ダンケルカイザラントの相手をお願いできますか?」
「うん、羅夢ちゃんとトリスさんは生徒会長さんとエヴァさんをお願いします」
「わかった」
 トリスティスと羅夢は無関係のイグロとエヴァを連れて会場から出る。ジュナの傍らにラグドラグが立つ。
「ジュナ、行こうぜ。ダンケルカイザラントに一泡吹かせてやろうや!」
「OK。融合発動(フュージング)!!」
 ラグドラグとジュナの中の契合石が共鳴して、両者は白い光に包まれ、光が弾けると竜頭・竜翼・竜尾・竜爪をまとったジュナが姿を現した。
「よし、行くぞ!」
 エルニオも体勢を整えて、セルトーに立ち向かう。
「ダンケルカイザラントには向かう生意気なガキどもめ! このセルトー様とミンゼーラの音撃に耐えられるかってんだ!」
「ああ、調和音声(ハーモナイズ)だ!」
 セルトーと融合しているミンゼーラが言った。ミンゼーラの声はセルトーと違い中温らしき男の声であった。セルトーの口と胴体の口が開いて、超音波による攻撃を発した。
「アアアアアア!!」
 キーンという音がジュナとエルニオとラグドラグとツァリーナの聴覚を刺激した。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
 二人は思わず耳を塞ぐが、耳を塞いでも超音波の攻撃が入ってしまうのだ。
「うう、うるせぇ。耳がつぶれちまう~」
「何とかしなきゃ……」
 ラグドラグが文句を言い、ジュナが考えようとするが超音波のため思考が不安定になっていてどうにもならない。
「頭が割れそうだ……」
「何て迷惑すぎる融合闘士なの……」
 エルニオとツァリーナも苦しみ、立っていられずひざまずく。苦しむジュナとエルニオの様子を目にしていたセルトーが声を出すのをやめて、翅をはばたかせてエルニオに突撃し、エルニオに強い蹴りを浴びせてエルニオは後方の壁に飛ばされる。
「うわぁ!」
「エルニオ!」
 エルニオがセルトーの攻撃を受けたのを目にしたジュナは耳を押さえたままエルニオを助けようとしたが、エルニオはセルトーに翼を掴まれ、鳩尾に膝蹴りを喰らわされる。
「ぐぅっ!!」
 セルトーは超音波を受けているため反撃したくても反撃できないエルニオに殴ったり蹴ったりとボコボコにしていた。
「エルニオを……助けなきゃ……」
 ジュナは耳を押さえて立ちあがり、頭がガンガンしつつも反撃しようとした。ジュナは偶然だが舞台上の金属と耐熱ガラスでできたスポットライトが次第にひびが入っていくのを目にした。超音波による震動で亀裂が入っていったのだ。
(そうだ、あれを利用して……)
 ジュナは一つの賭けに出た。左手で耳を押さえながら右手から結晶弾、竜晶星落速(クリスタルスターダスト)を出し、白い半透明の結晶弾はスポットライトの一つに当たり、スポットライトは落下して激しい音を立てる。
 ガッシャーン、という音でセルトーと融合獣ミンゼーラの超音波攻撃で相手を苦しみながら素手で殴るコンボ技が打ち破られた。
「な、何だ!?」
 セルトーはその音で驚いてエルニオへの攻撃が止まり、ミンゼーラも自身の超音波がスポットライトの落下音で遮られたことに集中が途切れた。
 更にスポットライトの落下で電熱が舞台上の幕に触れて、火が燃えだしたのだった。その上、火事の警報機が鳴って天井のスプリンクラーから水が出てきて舞台についた火を消した。
「エルニオ、大丈夫!?」
 ジュナは咄嗟にエルニオに駆けより、彼の安否を確かめる。
「あ、ああ、大丈夫だ……。それより奴は……」
 ジュナとエルニオがセルトーに視線を向けると、ミンゼーラとの調和音撃(ハーモナイズ)を出そうとしてきたが、スプリンクラーの水で音を出そうとしても口が水に入るため出来なかった。
「よーし、止めといくか! 竜巻昇拳・双(ダブルテンぺスターブロークン)!!」
「昇竜天星閃(ティンクルスターパクル)!!」
 エルニオが両手に翠の風の力を込めて拳をセルトーに向けて二本の竜巻を飛ばし、ジュナは左手でを高く上げて流星の如く白竜が上昇して上空で五方の光に散り、光はセルトーに放たれた。
「うわああああ!!」
 セルトーはジュナとエルニオの攻撃を受けて舞台の床に強く叩きつけられ、その衝撃で人間と融合獣の姿に解除された。セルトーは金褐色の曲がった短髪に浅黒い肌に中肉中背の暖方人種(バルカロイド)の青年で上下とも古代紫の服をまとっていた。蟲翅族の融合獣ミンゼーラも仰向けに倒れて目を回していた。ミンゼーラはくすんだ緑に黒い縁取りの蝉(セケード)の姿をしていた。
「な、何とかなった……」
 ジュナもエルニオも水気と硝煙のただようホールの中で、ダンケルカイザラントの四角に打ち勝ったことに肩をなで下ろした。


「生徒会長さん、生徒会長さん……」
 誰かが自分を呼ぶ声が聞こえてくる。イグロはまぶたを開け、横たわっていた体を起こそうとする。芸術ホールの中にいた筈なのに、いつの間にか芸術ホール近くの灰色ブロックのベンチのある広場にいたのだから。目の前には金の双眸に明褐色の髪の少女が座っていた。
「ジュナ……ちゃんか……。僕は一体……」
 意識をもうろうとさせながら、イグロは辺りを見回す。そこは黄色や赤に染まった葉が生い茂る木々のある憩い場であった。冷たい空気の中に小鳥の声や葉のこすれる穏やかな音がイグロの耳に入る。ジュナの後ろには融合を解除したエルニオ・羅夢・トリスティス、彼らの融合獣たちが立っていた。近くのベンチにもエヴァ=ブラウニングがまぶたを閉ざして横たわっていた。
「ジュナちゃんと……後ろにいる友達が助けてくれたのか、礼を言うよ。ありがとう……」
「生徒会長さんや他の人たちが無事なら、お礼なんていいんですよ。ただ……」
 ジュナはここで口をつぐんだ。関係のない学校の生徒会長をダンケルカイザラントとの戦いに巻き込んで危ない目に遭わせてしまったことに罪悪を感じていた。その様子を見て、イグロが言った。
「ジュナちゃん。君たちは会場に現れた奴とややこしい関係を持っている、というのは僕にもわかる。誰にも巻き込んでもらいたくない気持ちもね。今日のことは……」
「生徒会長さん……」

 それからしてイグロとエヴァ=ブラウニングは警察に保護されて事情徴収を受けてから家に帰されることになった。一方でセルトーと融合獣ミンゼーラも会場荒らしによる罪で逮捕された。ジュナたちは筒間列車で自分たちの家に帰り、ジュナは家に着くとラグドラグが持ってきた石板を再び布に包んで机の上の引き出しに閉まった。
「今回は他の人たちも石板も無事だったけれど……。ダンケルカイザラントは絶対に石板を手に入れにまた刺客を送ったりしてくるだろう……」
「うん、石板がダンケルカイザラントに奪われなくって良かったよ。だけど……」
 ジュナはラグドラグに言う。
「もし石板がダンケルカイザラントの手に渡ったら……、この石板を壊す」
「ジュナ……!」
 ジュナによる石板破壊宣言を聞いて、ラグドラグは目をひん剥く。
「壊す、って……。ダンケルカイザラントでなくても、俺たちがつよくなれるかもしれないという、強化の秘伝を?」
「だけど、ダンケルカイザラントの手に渡るより、失くしてしまった方がいいよ。……失くしてほしくないものがありすぎるわたしが言うのも何だかね」
 この石板はエリヌセウス国、いや世界の運命を決めるのかもしれないのだから。

 翌日のエリヌセウス上級学院。ジュナたちがいつものように学校に着くと、昨日の王族領区の芸術ホールの事件で大騒ぎになっていた。
「コンサート会場荒らしなんて、物騒だよなぁ」
「でも犯人は捕まって、会場に来ていた人たちはみんな無事だったって、報道でやっていたわよ」
 四年普通科の教室のジュナは気まずいと思いながらも、席の一つに着いた。と、その時ダイナとラヴィエがジュナの前に現れる。
「ねぇ、ジュナ。昨日の王族領区の芸術ホールで会場荒らしが起きたんだって」
「会場はスポットライトの落下で火事になりかけたけど、スプリンクラーで水浸しになったから大沙汰にならなっかたんだって。会場荒らし、一体何やらかしてこうなったんだろうね?」
「そうなんだ……」
と、ジュナは曖昧に返事した。だけど昨日、現場の芸術ホールに自分も居たことは一言も言わなかった
 と、ここで授業開始のチャイムが鳴って、みんなは席に着き、担任のマードック=ケイン先生が入ってきてHRが始まった。
 一時間目、二時間目、昼休みと時間が経過し、ジュナは食堂でエルニオたちとの昼食を済ませて教室に戻ろうと廊下を歩いていると、十数人の少女たちに捉まった。純白のダダに萌黄色のウェーブヘアの少女、メディアナ=パルミエーラを筆頭にしたイグロ親衛隊である。
「あ、あの……何です……か?」
 メディアナはいつもより目をつり上げ、ジュナを睨みつける。
「メイヨーさん。あなた昨日ずっとイグロ様と一緒にいた、って本当!?」
 メディアナがズイッとジュナに顔を寄せてきて、ジュナを尋問する。
「え、あの、それは生徒会長さんが逃げ遅れたうえに失神してしまって……」
「ぬぁんですってぇ!? イグロ様と図々しく特席に居ただけでなく、介抱もしたなんて……。ファンクラブ会員〇〇一の私を押しのけて、イグロ様と一緒にいたとは……。
 きぃぃぃぃぃ~!!」
 メディアナはヒステリックになり、他のファンクラブの女子もジュナを取り囲んだ。ジュナはダンケルカイザラントとは違ったメディアナの気迫に押されてビビっていた。
「そ、そんなこと言われましても~!!」
 ジュナが絶体絶命と思っていたその時だった。
「おい、やめないか」
 小高い男の声がしたので、メディアナたちが振り向くと、そこにはイグロが立っていたのだ。メディアナはイグロを見て、急激に態度を変えた。
「別にこの子をいじめていた訳じゃないのよ。ただイグロくんはみんなのものだと教えていただけで……」
「メディアナ、言っておくがジュナちゃんは本当に昨日の騒ぎで気を失った僕を助けてくれたんだ。ひがみや嫉妬はよさないか」
 イグロが真剣な眼差しでメディアナやファンクラブの女の子たちを見つめたので、メディアナたちはおじげついて去っていった。
「あ、ありがとうございます生徒会長さん。わたしは、その……」
 ジュナがイグロにお礼を言うと、イグロは首を横に振った。
「いいんだよ。気にしなくても。メディアナたちは君や君の友達の頑張りぶりを知らないのも仕方ないんだから……」
 イグロは一たん呼吸してから付け加える。
「君のおかげで、僕は父と向き合うことにしたよ。ジュナちゃんのおかげでやる気が増してきたような気がするんだ……。
 今までは父に従ってきた僕だけど、時には父の言う通りでもなくてもいいようにしなくてもいいんだって。僕は父と家や将来のことを話し合って、自分がどうしたらいいかと考えられる様になったから。それじゃあね」
 そう言ってイグロはジュナと別れて、自分の教室へと行った。ジュナも自分の教室へ戻っていく中、イグロがどういう人物だったのかわかったような気持ちが浮かび上がってきた。
(イグロさん、て何かお兄ちゃんみたいな感じがしたんだ。恋なのかなと思っていたけど、そうじゃなかったんだな……)
 廊下から見える窓の景色の積乱雲の白と混じって明るい緑になっている秋空を見て、ジュナは八年間行方知れずの兄が見つかるように、と願ってはいられなかった。