一次創作小説メイン、SF大好きな人には必見!

エターニティア・その2

 

 2.キノコ森

 ラセッタとハックルはリーゼレイン村へ向かうため、キノコ森へ入っていきました。ハックルは最初ラセッタに抱かれていましたが、村を出て半分の辺りで自分で歩きたがっていたので、ラセッタの前を歩いて行きました。
 キノコ森はその名の通り、ラセッタの小指ほどもある小さなキノコから二、三メートルは軽く超える巨大なキノコがもっさりと生えていました。巨大キノコの広い笠は雨よけや日よけにもなるすぐれものです。
「うわぁ、前来た時よりも増えているような」
 ラセッタはお父さんとお母さんに連れられて、キノコ森には何度か来たことがありました。食べられるキノコを採ったり、日干しにして煎じ薬にするキノコを採りにお母さんはラセッタにキノコの種類や効果、毒の有無などを教えたのでした。
「いくつかいただこうかと。ええっと、これはシメジで食べられて、これはテングダケだから毒っと……」
 キノコ森のキノコは赤や白や茶色や黄色、斑点があったり模様があったりと何百種もありました。シメジ、エノキ、マイタケ、エリンギ、テングダケ、ツキヨタケ、イッポンシメジ……。ラセッタが生まれるずっと前はキノコ森ではなく、クヌギやブナなどの樹が自生する森でした。しかし長続きの日でりと豪雨による洪水で木々は倒れていき、木からキノコの胞子がとりついて、赤や白や黄色、毒ありや苦味といった様々なキノコが生えていき、長い年月をかけて成長したキノコは樹程の大きさにもなったのです。
 ラセッタは幸いお母さんからキノコの知識を教わっていたので毒入りとの分け方や薬にする方法をいくつか覚えていました。ラセッタはシメジやエノキ、マイタケやシイタケをいくつかもいでナップザックの中に入れました。
「よしっ、これだけあれば大丈夫」
 ラセッタはナップザックを背負い直すと、ハックルを連れて前進しました。幸い道はキノコ森にもあり、それが一つの曲がりくねった道で遠回りでしたが、リーゼレイン村とつながってしました。
 ラセッタとハックルは再び歩き出し、先端が赤いホウキダケは掌ほどもあるものは見てればおいしそうに見えますが、三メートルもあるものは赤い枝と葉の白い大樹か陸に棲みついた紅白サンゴのようでした。白い大網のようなキヌガサタケの大きなものは紅白の樹のように美しいけれど、苦い匂いもしました。
 ここでラセッタとハックルに思いがけないことが起きました。ラセッタとハックルがキノコ森に入って間もない頃、キノコ森の周囲がだんだんと黄色くなっていくのを目にしました。それは黄色いもやだったものが、次第に薄霧に変化してハックルはチクション、とくしゃみをしました。しかもくしゃみは一回や二回ではなく、連続で出てくるのです。ラセッタも霧に入ると、目がしょぼしょぼし、コホコホとむせるようになりました。
(一体何だろう、この霧は? 森の真ん中に入ってからきっつい……)
 ラセッタは涙をこぼし、咳を出しつつも早くキノコ森を出ようとしました。しかし先に進めば進むほど、霧は濃くなり周囲のキノコはさっきいた場所の二倍はあるキノコで、黄色い霧の中で不気味さを増させました。
(もう、こんなとこ早く出よう!)
 ラセッタはハックルを抱き上げて進もうとしました。しかし、次第に足取りが遅くなり、呼吸も辛くなり、目も全開させれば粉が入ったように感じました。ラセッタは目まいをもよおし、手足がしびれていくのを感じました。
(今思い出した。ずっと前にキノコ森へ来た時、お母さんがキノコ森ではキノコたちが胞子をまくことがあるから気をつけろ、って。
 うかつだった。毒キノコさえ食べたり手を出さなければいいと思っていた……)
 手足がしびれて指一本も動かせず、まぶたを閉ざし息も苦しくなる中、ラセッタはお母さんから聞いたキノコ森での注意を思い出しました。動くことが出来なかったら、ラセッタもハックルもそのまま息が詰まって命を失い、空から飛んでくる大ガラスやハゲタカ、屍に群がってくる虫に食べられていたでしょう。ラセッタがもうダメかと思った時でした。
 大キノコの陰から小さな動物を思わせる影がいくつか出てくるのをラセッタは細く開いた目で見ました。しかも十何います。そしてそれらはラセッタの元へかけ寄ってきました。よく見てみると、それは身の丈三、四〇センチの妖精で老若男女ともに干しプラムのようにしわくちゃ顔で、シャツやズボンやスカートといった服をまとい、キノコ型の帽子をかぶっています。それはキノコ森やキノコのある所に住む妖精、オークマンでした。
 灰色の髪に長いひげを垂らしたオークマンはラセッタとハックルを見ると、長老はオークマンにしか伝わらない言葉で他のオークマンに言いました。そして他のオークマンは長老オークマンの言葉を聞いて、うなずき合いました。
「ピチャピチャリン、ザブザブリン、シートシットット!!」
 長老が呪文を唱えると雨がサーと降り、胞子の霧は薄まりラセッタとハックルの体についた胞子も流れていき、ラセッタとハックルは目が見えるようになり、呼吸も楽になりました。
「大丈夫か、旅のお方。キノコ森ではキノコの胞子が漂ってキノコ森に入ってきた妖精や動物を苦しめる。今わしが雨降らしの術で胞子の霧を洗い流した。少しは楽になったろう?」
 オークマンの長老がラセッタにわかる言葉で話しました。長老の声はくぐもった甲高い声で、ラセッタはオークマンが自分たちを助けてくれたことを知ると礼を言いました。
「あ……ありがとうございます。わたしとハックルは今日旅を始めたばかりで、キノコ森の注意を見落としてしまいました。
 わたしはウィーニル村から来たラセッタといいます」
「ほう……。世界巡りの旅か。大妖精は一人とお供動物と一緒に旅をすることが多いからな。わしらのような小妖精なんかは旅をする時は必ず三~六人でするというのにな」
 オークマンの長老はラセッタのような妖精と自分たちのような小さな妖精との旅の仕方を教えました。
「そうなんですか……。でもそういうのって何か、寂しくなさそうですね。そうだ、助けてくれたお礼をしないと……。オークマンさんたちの村ってどこですか?」
「ついてこい」
 オークマンたちは長老を先頭に一列に並んで歩きだし、ラセッタも胞子のしびれから解放された足を動かし、オークマンたちのあとをついていきました。
 オークマンはキノコの多い場所を通り抜けるのは容易いことでしたが、ラセッタはくぐり抜けたりまたいだりと一苦労でした。
 オークマンの村は湿った土とわずかな草が生えた土地で、住民は土で固めた丸く盛った家に住み、隣り合わせだったり二段や三段に重ねた家もありました。ラセッタは村の広めの地面の土を村人たちに掘って耕すようにして、オークマンの男たちは小さなシャベルや鋤や鍬で地面を耕しました。ラセッタはナップザックから小さな皮袋に包んだ穀物を出しました。穀物は小麦や大麦の粒、細かくしたトウモロコシに豆も大豆やエンドウ豆やひよこ豆やリンズ豆が入っていました。ラセッタは穀物を一つずつ地面に埋めると、呪文を唱えました。

 小麦や大麦はパン トウモロコシは明るく太く 
 豆たちはスープになって 米はご飯やお餅になって
 ヒエ・アワ・キビは普段の食べ物に! 一粒よ千粒になれ

 ラセッタが呪文を唱えると、地面に埋めた穀物の粒から芽が出てきて、苗となって葉や茎が伸びて、小さな花の群れを咲かせ、花は黄色い穂や緑のさや、トウモロコシは明るい黄色で太くなりました。
「おおっ、一粒の穀物が千粒になった! お前さんはファムコーンだな?」
 長老はラセッタが豊穣の妖精だと知ると、ラセッタの能力を見て驚きました。
「はい、わたしを助けてくれたお礼です。みんなで分け合って食べてください」
 ラセッタはナップザックから折りたたみのナイフを取り出すと、穀物を刈り取り、各オークマンの家から穀物を入れる布を持ってこさせ、これは麦でこれは豆でこれはトウモロコシと分けて配ったのでした。
「これだけあればいいでしょう。では、わたしはキノコ森を出て次へ行きますとしますか」
「ああ、気をつけてな」
「ありがとう、ラセッタ」
 オークマンたちは千粒になった穀物を助けてくれたお返しをしてくれたラセッタを見送りました。
 ラセッタとハックルは再びキノコを抜けたりまたいだりして、リーゼレイン村への道へと戻りました。ラセッタとハックルが元きた道へ戻ると雨は止んでおり、キノコの胞子も舞ってませんでした。
 道を歩き続けていると、周りのキノコはだんだんと小さくなり、ラセッタとハックルは再び晴天の空と草の生えた平原にたどりつきました。そして平原の中の道標の木板には「この先七〇〇メートルにリーゼレイン村」という文字がこげ茶色の板に白いペンキで書かれていました。よく見ると、太陽は西の方へ傾いています。
 ラセッタは夕暮れになる前に、リーゼレイン村に向かって歩いて行きました。