一次創作小説メイン、SF大好きな人には必見!

エターニティア・その3

 

 3.人魚のインレット


 緑色と黄色の空は、太陽がだんだん西に傾くにつれて太陽は熟れたトマトのように赤く染まり、空も朱色に変わっていって、風も冷たくなっていきます。
 草原と白い石ころの川辺を歩いていると、村の周囲を堀で固めた村、リーゼレイン村にラセッタとハックルは到着しました。
「すみません、わたしを村に入れてください! 一夜でいいから泊まらせて下さい!」
 ラセッタはそろそろ門を閉めようとした番守に言いました。リーゼレイン村は周りが堀だけでなく、石壁と鉄の柵で守られており、村の出入り口である門は堀を渡る跳ね橋でした。もしあと二、三歩遅れていたら、ラセッタは村の近くのイチイの木で野宿していたでしょう。
 リーゼレイン村はどの家も漆喰の壁に平たい瓦屋根の一軒家で、黒や赤茶や青などの色を使い、煙突のある家や黒檀の窓枠を使った家とその家主独特の個差がありました。
 この村に住む妖精たちは体の小さなブラウニーや体は小さいけれど力強いドワーフ、農作業が得意なカリアッハという女妖精が主に住んでいました。他にも犬顔のコボルドや赤い帽子が種族の証のレプラコーンもいました。どの妖精も今日の作業を終えて、家に帰って炊事をしたり、緑牛や黒毛羊やマダラガチョウを家畜小屋に入れてました。
 ラセッタは今日の門番だったドワーフの青年の案内でリーゼレイン村に一軒しかない宿屋を紹介され、ここで一晩休むことにしました。
 宿屋は村の一軒家と違って三軒分の大きさで、村の一軒家は二階までなのに対して宿屋は三階もありました。一階は宿屋の主と家族の部屋と馬屋と食堂で、二階と三階は客室で二階は八部屋、三階は六部屋あります。
 宿屋の主は赤い帽子をかぶった中年のレプラコーンで本日最後の客がまだ幼いラセッタと知ると、顔をしかめましたがラセッタが一粒を千粒に増やすというファムコーンと知ると、パンやおかゆの材料費を他に回せると思い直して、泊めてあげたのでした。
「お代金はお嬢ちゃんが持っている豆や麦を千粒にした穂で充分。さぁ、野宿は危ないから宿屋にいなさい」
 ラセッタは主人の態度の様子を見て何も言いませんでしたが、気にせずに泊まったのでした。この日はラセッタの他に泊まっている客は猫顔のケットシーの地理学者、山羊角と山羊脚のサテュロスの織物商人、背中にハトの翼を持つペリの娘でその妖精は様々な昔話や伝説を他の妖精に話す語り女でした。
 ラセッタはハックルと共に食堂へ来て、他のお客さんと一緒に夕食をとりました。食堂は大きな長方形のテーブルに八人が座れるもので、ケットシーは魚のスープと牛乳とチーズパン、ペリの語り女はちしゃのサラダとクルミパンとガチョウの腿焼き、サテュロスの男はトウモロコシ入りのパン一斤と焼いたハムを半キロとビールと赤ワインをジョッキに入れて飲食していました。
 ラセッタは末席で一番安い黒パンと数切れのハムとチーズ、エンドウのポタージュを小鉢一杯だけ注文し、テーブルにはハックルを乗せて砕いたパンくずや木のさじに入れたポタージュを与えました。夜になると、何処の家でも油を使ったカンテラやロウソクを中に入れるランタンで灯りをともします。宿屋の食堂から見える家では灯りのついた部屋がふっと消えるのを目にしました。
 ラセッタは食堂を出て、二階の一角を与えられました。三階の部屋は高くて広く、天井から吊るす燭台もあるのです。二階の部屋は物置き部屋ぐらいの広さで、ベッドと机と椅子、そして引き出しが三つだけの小さなチェストだけで色塗りされておらず、木肌のままのニス塗りで枕も布団も木綿と麻の重ね織りで、何度も洗ったかのか薄くなっていました。それでもラセッタは夜露の寒さや危ない野獣に狙われやすい野宿よりはありがたく、マントと帽子とナップザックはチェストの上に置いて、もみ殻入りの枕と綿入りの布団の中で寝入り、ハックルも布団の上に乗って丸まりました。
 外では家々の灯りはすべて消え去り、家畜たちも眠りについています。空は深い青で、大小様々な星が瞬き、銀色の三日月が浮いていました。
 リーゼレイン村の妖精や動物たちは知りませんでしたが、堀に一人の妖精が迷い込んできたのです。その妖精は光沢のある尾ひれで堀の中を泳ぎ、堀に棲むコイやフナやイモリやナマズやヤゴは動かず静止しており、妖精が村の人工池とつながる水門から入ろうとしました。月と星だけがこの様子を見ていました。
 空は深い青から薄い紫、薄紅色に変化していき、太陽が東から顔を出し、村の家の軒下や木々に泊まっていたスズメやツバメやカラやハトがさえずり、赤マダラガチョウもガァガァと鳴いて、新しい朝の始まりを教えてくれました。
 リーゼレイン村の妖精たちは次々に目ざめていき、腹ごしらえをして、仕事場や学校に行きました。
 ラセッタも薄い麻のカーテンがかかっても窓から入り込んでくる日光で目が覚めました。
「ああ、よく寝た……。朝ごはんを食べたら、ご主人にそれぞれの千粒の穀物を出さなくちゃいけないからなぁ……」
 ラセッタはそう呟くと、胴スカートを着て、髪をとかしました。ラセッタのくしは白い花こう岩をくしの形にした物ですが、歯が折れやすい木のくしと違って長持ちします。
 ハックルと共に食堂へ行って、他の客が穀物入りパンやハム入り卵やミルク入りの茶を飲んで食していれば、ラセッタはミルクと砂糖入りの雑穀オートミールと薄切りのハムとチーズだけ食べて、やはり木のさじでオートミールをハックルに与えていました。
 他の宿泊客はお勘定をして、出発しましたがラセッタは現金の代わりとして外に出されて麦や豆などの穀物を千粒分作ることになりました。お母さんが旅の路銀として、バレン銀貨十枚とウィリー銅貨二十枚を持たせてくれましたが、豊穣の妖精(ファムコーン)は麦や豆を一粒から千粒にすることが出来るので海や水辺の妖精、穀物が貴重だったり珍しい妖精は高く買い取ってくれるのです。
 他のリーゼレイン村の妖精が林業や放牧、畑仕事や商いに行く中、ラセッタは村の近くの原っぱに案内されてまず草をむしり、宿屋の主人から借りたスコップで地面を耕して柔らかくすると、ラセッタは穀物袋から麦や豆を一粒ずつ出して地面にまきました。
 

 一粒よ千粒になれ

 呪文を唱えると、穀物から芽が出て茎となりました。あと半時間もすれば花が咲いて実をつけるでしょう。
(この子のおかげで近所の農家から麦や豆を買いとらなくて済むぞ。千粒もあれば二、三週間は充分だ。その浮いた穀物代でどんな肉を買おうか……)
 宿屋の主人がラセッタが生み出した麦や豆でパンの材料費をどうしようか考えていると、リーゼレイン村でおかしなことが起きていました。
「おい、聞いたか。村の人工池とつながる堀の水門が一つ動かなくなったって」
 一度村へ戻ろうとするドワーフの二人組が言っていたのを聞いたラセッタと宿屋の主人は何のことかと思いました。
 ラセッタが宿屋の主人のために育てた麦や豆や米は一時間で大きな穂となり、ラセッタは草刈り用の鎌で刈り取って脱穀せずに枡の中に入れて村内の宿屋まで運んでいきました。
 村に戻った時はもうすぐお昼に近づく頃で、村の東の水門が動かないという騒ぎになっていました。村の中心には白い大理石でできた四角い人工池があり、池の中心には雨の女神リーゼレインの像が立っています。人工池には東西南北の四方の水門とつながっており、堀での大雨が人工池に入ってきてあふれでないようでするための水門があるのです。今は雨の多い時期でもないのに東の水門が閉まっているのです。
 村の妖精たちは水門を調べようとしましたが、堀はけっこう深く一歩足を踏み外したら水棲の妖精でない限り溺れてしまいそうでした。更に堀は地下水脈とつながっていました。
 その時でした。閉ざされている水門がゴトゴトと動き出し、リーゼレイン村の妖精たちは何事か、と怯みました。
「も、もしかして巨大な大食いワニが水脈をつたってリーゼレイン村に来たのかもしれない」
 もし巨大で獰猛なワニが様々な妖精や家畜がいる村の中に入ったら大変な騒動です。しかしドワーフたちは鉄などの金属を鍛える金槌を
持ち、ブラウニーも鋤や鍬を持ち、他の妖精も棍棒や鎌を持って構えました。
 リーゼレインの村民たちは水門から出ようとする何かに襲われる前にと、堀を見つめます。そろそろ引きあげたかったラセッタも見つめてました。
 ガタン、と水門が開くと堀の中に入ってきたのは一人の妖精でした。
「えっ!!」
 村民たちは驚き、ラセッタも目をぱちくりさせました。なぜならその妖精はラセッタと同世代で、腰から下が尾ひれになっている人魚だったからです。
「な、何でこんなにたくさんの妖精がいるの? 一体わたしが何をしたっていうの?」
 人魚は堀の外にいる金槌や鋤を持った妖精を見て驚いていました。
「な、何で人魚がこんな所にいるんだ!?」
 コボルトの番兵が人魚に尋ねてきました。人魚はコボルトの威圧にびくつきながらも答えました。
「え、えーと地下水脈を泳いでいたら、この村に来ちゃって、村の中に入ろうとしたら眠くなっちゃって、流されないように板を閉めていたのです。決していたずらじゃないのです……」
 人魚がはっきりと答えると、リーゼレインの妖精たちは安堵と呆れを交えて家や持ち場へ戻っていきました。
「何だよ、さわがせて」
「でも巨大ワニじゃなくて良かったな」
「さ、戻ろう」
 しかしラセッタだけは人魚のことが放っておけませんでした。何故なら自分と年代が近そうで、親しみやすそうな感じだったからです。
「ねえ、ちょっと待っててくれない? また戻ってくるから」
 そう言ってラセッタは穀物の穂が入った枡を抱えて宿屋に戻っていきました。

 ラセッタは宿屋に戻ると、宿屋の主人から脱穀してそれぞれの保存箱の中に入れておくように言われ、小麦が終わると大麦、大麦の次は粟というように分けて入れました。それは一時間で終わって、腐ったり虫に喰われないように唐辛子の網袋を入れておきました。
「それではご主人、わたしはもう行きますね」
「ああ、よく働いてくれたね。君が作ってくれた穀物が宿代と食事代だ。それでは行っておいで。君の旅がいいものであるように」
 ラセッタは宿屋を出て、東の水門のある堀へ駆け足で向かっていきました。
 水門近くの堀で待っていてくれた人魚はラセッタとハックルを見ると、尋ねてきました。
「どうして待って、って言ったの?」
「ねぇ、良かったらわたしと一緒に旅をしようよ。ハリネズミのハックルとだけじゃ心細いんだ」
 ラセッタは人魚に言いました。
「うん、いいよ」
 そう言って人魚は大きくジャンプして、水しぶきをあげてラセッタのいる足場へ着きました。
 人魚は深緑の短いカールした髪に卵に目鼻で垂れ目のパールグレイの瞳、肌は石英のように白く、両手は白魚のようで指先は鋭角で腰から下は光沢のある鱗に覆われ、尾びれの先とヒレが琥珀のような黄色で、鱗は明るい青で腹部からの真下が白銀でした。
 また青い胴巻きで胸を覆い、腰には長めの巻きスカート、首には青サンゴのネックレス、右手首には白波貝が連なったブレスレット、髪の毛には白い巻貝を髪飾りにしていました。
「わたしはこのリーゼレイン村の近くにあるウィーニル村からやって来た豊穣の妖精(ファムコーン)のラセッタ。この子はハックル」
 ラセッタは人魚に自分とハリネズミのハックルを紹介しました。
「お供の動物……。あなたも世界巡りの旅に出たのね? わたしはインレット。南の方にあるバブリェック村からやって来たの。お供動物はイトマキエイのラップよ」
 インレットは自分の腰の裏にはりついているお供動物に声をかけました。ラップは台形状の体に長い鞭のような尻尾、平べったい胴体にはつぶらな茶色の眼に横長の口、体は淡い青です。よく見てみるとインレットは背中にパールブルーのはっ水布で出来たリュックサックを背負っています。
「ねぇ、ラセッタ。リーゼレイン村を出たら、どこに行くの?」
 インレットが尋ねてきたので、ラセッタは気づきました。宿屋の主人に払う宿代として穀物を作っていたのと、村の水門にワニが潜んでいるのではないかのにとらわれていたからです。
「リーゼレイン村に近いのは、南のマッキオ村と西南のパッツィ村の二つなのよね。マッキオ村は近いけど、石ころと雑草だらけの荒地を通らなくちゃいけないし、パッツィ村は花畑を通るけど、遠回りだし……」
 ラセッタは地図を広げてうーんとうなりました。近くて険しい道かゆるやかで遠い道かで悩みました。
「ねぇ、ラセッタ。わたし、花畑の道がいいわ。海辺の花って種類が少ないから、わたしは遠くても花畑の道がいいわ」
 インレットがそう言ってきたので、ラセッタは悩みが抜けました。
「それでいいの?」
「ええ。だから、行きましょ、ラセッタ」
「そうするよ……。でも、花畑の道を通るには川辺からけっこう離れているよ。その尾ひれじゃ、わたしと歩みは同じでも同じとこは歩けないわよ?」
 ラセッタがインレットの尾ひれを見て言いましたが、インレットは何でもないように手で尾ひれをさすりました。
「大丈夫よ、見てて」
 インレットはラセッタに自分の尾ひれを見ているように言いました。するとインレットの白と青の鱗に覆われていたが尾ひれが次第に変色して、細かい網目のような鱗は消えていって陸の妖精と同じように二本の脚の姿になり、魚のような足にはビスチェやスカートと同じ色の靴をはいていました。足首からひざは青いリボンが巻かれていて、靴が脱げないようになっていました。
「これならラセッタと一緒に歩けるでしょ。わたしたち人魚は地上に出る時は陸の妖精と同じように二本の脚になるのよ」
「へー……、人魚って地上に出ても尾ひれのままかと思っていたよ。
 よし、行こうか。パッツィ村へ。花畑を見ながら」
 こうしてラセッタはバブリェック村出身の人魚、インレットとお供動物の。
ラップと共に次の場所へ歩き出しました。