ワンダリングス3-9

 

 宇宙温泉湯けむり殺人(解決編)

 

 クシー星域の衛星上に造られた宇宙温泉宿『カミロの湯』で殺人事件が起きた。グランタス艦長は宇宙連合軍が来るまでの間、大広間『麗蘭の間』に他の客と宿の主人と従業員レプリカントを集めて、事情徴収を取り調べたのだった――。

 

 全員の事情徴収と現場の調査が終わると、『麗蘭の間』でひとかたまりに集まっている宿の主人と従業員、他の客が座っていると、ひょろ長の植物系エイリアンのバチルデ星人の学生、キシリスが腕を組みながら考えていると、温泉宿の経営主であるポッカ・ユッケ・ムーリン氏をチラッと見て呟いた。
「なぁ、もしかしてあの社長さんを殺したのはもしかしてあんたじゃないのか? 一度起きて水を飲みに厨房に行ったのは、殺した後にやったからのアリバイじゃないのか?」
「ええっ!?」
ポッカ氏と従業員のレプリカント3人はキシリスの発言を聞いて驚く。
「いや、ご主人だけでなく、従業員も怪しいっていえば怪しいんじゃないの? レプリカントは三日に一度は寝なくても平気だし、絞殺したりすればワイン風呂に放り込む事も可能だしね。特にそこの女の子が第一発見者でありながら、ワイン風呂に居たなんて充分怪しいじゃないか」
「ひっ、酷い! 最初に亡くなった人を見つけたからなんて、私を犯人扱いするなんて……」
 キシリスに疑われて従業員のフィーユは傷ついて泣き出した。
「おい、レプリカントは眠りが少ないからって、しかもフィーユが最初に事件現場にいたからなんて、その言い方はないだろ!?」
 調理担当のレプリカント、カルルスがフィーユを庇ってキシリスに怒りを向ける。
「君や他の学生も充分怪しいと思うけどね。特にここの主人と俺らを疑った君も早く寝て、仲間の知らないうちに殺したんじゃないのか? 俺らとすれ違っていたとはいえ」
 カルルスがキシリスを睨みつける。
「その言いがかりはないんじゃないかい、君? 擁護かどうか知らないけれど、一緒に寝ていた秘書さんも怪しいと思うけどね。あの秘書のお姉さんが薬を隠して病気を悪化させて殺したかもしれないし」
 アマゾリア星人の学生、フワルーがカルルスを睨みつけ、その後に被害者ザンゴー=オルガンの社長秘書のエガーテをジト目で見つめる。
「そんなっ……。いくら私が社長と一緒にいたとはいえ、そんな事を言うなんて……!」
 ただでさえ上司が亡くなって犯人と疑われたザンゴーの秘書、エガーテは泣きはしなかったが傷ついた。すると、大口大柄のフローシュ星人の学生、ゲッゲーロが鳥型星人の夫婦、ホロロ=ケンケと妻キキリを出目でちら見して尋ねる。
「あんた達はあの親父とは関係ないんだよね?」
 ゲッゲーロの不作法な態度にホロロ=ケンケは頭にきて言い返した。
「当たり前だ! 私達はザンゴー=オルガン氏の事で知っているのは情報ぐらいで、最近ここの宿で会ったばかりだ!」
「……じゃあ、あんた達の部屋は何の間?」
「あの三人のお嬢さん達の向かい側に向かって左の『御影(みかげ)菊(ぎく)の間』よ。私的に怪しいと思うのは、風呂清掃の人だと思うけど? 力もありそうだし、風呂場によく出入りしているから殺人現場なんて作れるでしょうに」
 キキリ=ケンケは風呂清掃のサッツに目を向ける。
「確かにあの死体を浴槽から出したのは私です。誰にも言われただけでなく、自分の判断で出してあげたのは、流石に不快だと思って……」
 大広間では誰もかれもが疑ったり罵倒し合って、やかましくなっていた。
「やれやれ、みんな疑いの押し合いか……」
 グランタス艦長が事件の容疑者達の言い合いを見て頭を抱えた。
「死体や物体の記憶を読み取れるサイコメトラーでもない限り、難儀ですよ艦長」
 ドリッドが大広間の様子を見て溜息を吐く。現場不在証明(アリバイ)に証拠時間、死者の伝言(ダイイングメッセージ)もない限り、この醜い疑り合いは治まりそうになかった。その時、ピリンが宿主人の羽織を引っ張っておねだりをした。
「ねぇねぇ、ピリンのどがかわいたぉ。あまいのがのみたいぉ」
 ピリンの言葉で疑り合っていた者達はハッとなって、ポッカ氏はピリンの方へ振り向いた。
「あ、ああ……。すみませんでしたね……。私とした事が温泉宿の経営主としての役目をすっかり……」
 そして立ちあがって調理担当のカルルスに声をかけた。
「おい、お客様達に差し出すお茶とお飲み物と甘い物を出しに行くぞ」
「あ、はい……」
 ポッカ氏はカルルスを連れて大広間を出て、厨房へ向かった。
「あー……。ピリンちゃんが止めてくれなきゃこのギスギスした空気を吸わなくちゃならないとどう思っていたか」 
 リブサーナが安堵すると、他の客や従業員も大人しくなって互いの顔を見合わせる。
「でも、まだわからんぞ。誰がボロを出すか見ていないと……」
 ホロロ=ケンケが言うと、妻キキリをはじめとする者はみんな沈黙したのだった。

人造人間(レプリカント)従業員カルルスの持ち場である温泉宿の厨房は食器棚も流し台も冷蔵庫も調理台も全て防水合金材で天井は格子状の電灯で、床や壁は防水合成材であった。銀色の設備品とは対照的に天井は白、床と壁は磨かれた黒い鉱石であった。ポッカ氏が棚から人数分の湯のみと客の好みに合わせて異なる茶葉と急須を三つだし、冷蔵庫からジュースの瓶を二つ出す。カルルスは金属製の薬缶に湯をかけて電熱コンロで沸かした。厨房は湯や汁物を温める電熱コンロと肉や野菜を焼くための竈があった。
「お茶菓子も出さないとなー……。ああ、カルルス。念のため昼食も作っておいてくれ。まだ朝食の焼き魚を作った時の灰もまだ片付けていなかっただろう。そこんとこ、頼むよ」
 やかんの湯がわくと、ポッカ氏は三つの急須に茶場と湯を入れて、食事をお持ちする時の食膳に乗せて、『麗蘭の間』に運んでいった。カルルスは竈の灰をかたすために灰の取り出し口を引っ張ると、灰の中に黒く焦げた紙の破片と茶色く焦げた小さな白い数個の粒が入っていたのを目にした。
「これってもしかして、被害者の常備薬……!?」

 

「何だって!? 被害者の常備薬が見つかっただとぅ!?」
 グランタス艦長はカルルスが厨房の竈からオルガン社長の常備薬が見つかった事を聞くと、ホロロ=ケンケがカルルスを睨みつけてきた。
「そんな事を言って、本当は君が殺ったんじゃないのか? こっそり盗んで焼き魚を作る時に燃やして……。でなけりゃ主人が竈に薬を捨てたって事も考えられるしな。水を飲む時に、共同洗面所でなくわざわざ厨房に行ったのはそのため……」
「あなた、もうこれ以上、他人(ひと)を疑って決めつけるのはやめて下さいな」
キキリ=ケンケが疑いまくる夫をなだめた。
「そういうあんたこそ、疑いまくっていて充分怪しく思えるけど。よく言うだろ、疑り深い奴が犯人だって」
 フワルーがホロロに言うと、ホロロはフワルーを睨みつけて怒鳴った。
「何だとぅ、この若僧が!」
「あなた、もう……」
 フワルーに疑われて切れる夫を妻キキリが止める。その頃、ワイン風呂の脱衣所ではブリックが死体を調べていると、ザンゴー=オルガンのうなじに黒いあざを発見した。いや、あざではくほくろのような小さな針で刺した傷跡で、ザンゴーの種族は血が黒いのが特徴的であった。そして脱衣所の清掃時間を現す掲示板には何時何分に清掃したかの時間が表示されていた。清掃されたワイン風呂の時間が〈4:05~4:15〉であった。そしてブリックはフィーユに今来ている客の名簿リストを見せてほしいと頼んだ。そしてポッカ氏の端末を調べてみると、犯人と被害者の来訪時間を見て、犯人が誰なのかわかったのだった。
 ブリックは大広間に戻ってくると、艦長達に犯人が誰なのかわかった事を伝えたのだった。
 被害者以外は全員集まっている『麗蘭の間』でワンダリングスの犯人解明時間が始まり、全員正座していた。
「あー、皆さん。この温泉宿『カミロの湯』でザンゴー=オルガン社長が急な発作に見せかけられて殺された件についてですが……、うちの知略参謀兼医療学者のブリックの調査のおかげで犯人がわかりました」
 グランタス艦長が一同に言うと、ホロロ=ケンケが起こって立ち上がる。
「じらさないで早く教えてくれ! 折角妻との楽しい思い出が台無しに……」
「あなた、大人しくしてください」
 キキリが夫に注意して、グランタス艦長は咳払いをしてから説明に入る。
「この事件はいきなり起こった衝動殺人ではなく、計画殺人であった事。エガーテ女史、ザンゴー=オルガン氏と一緒に温泉宿に来たのは?」
「ええと、三日前の〈10:00〉です。その時は従業員さん達とご主人、私達と入れ替わりに帰っていったクシー星域の、虫型星人の親子連れだけでした」
 エガーテ女史はこの時にはすっかり落ち着きを取り戻し、三日前に来た時の出来事を思い出していた。
「次に犯人は随分と昔に『カミロの湯』に来ており、ここの施設設計、温泉の種類の把握、従業員の仕事内容とその活動時間を調べておいていた事。早くてもつい数ヶ月前。オルガン社長は自分と同じ日に来る事を前もって調べていて、そして何より大広間以外の空室には鍵がかけられてない事を利用して」
 グランタス艦長は犯人の行動を推理すると、ゲッゲーロが尋ねてくる。
「何で社長の事を調べておいたんだよ? 確かオルガンコーポーレーションの公式サイトは会社情報と所在先、商品紹介とあと……」
「社長が公式とは別に個人で作成しているウェブログだよ。公式サイトのリンク先の一つにウェブログのバナーで閲覧できるようになっている」
 キシリスが答えると、エガーテ女史が「そうです」と答える。
「社長のブログは、社長のプライベートや休日の出来事を載せていて、公式サイトとは全く無縁の情報を載せています。温泉宿で過ごした情報も掲載されていて、社長個人のブログのおかげで無名の宿も一カ月に数人の来訪が半年後には一〇〇人訪れるようになっていた、と」
 エガーテ女史がオルガン社長のウェブログのおかげで知名度が知られていた事を話すと、リブサーナが何かに気づいて言った。
「犯人はオルガンさんの個人ブログを呼んで、別の名前でコメントを入れていて、犯人のコメントに誘惑されて『カミロの。
湯』にやって来た、と……!?」
「でも、そのコメントは削除されていてもうないのですが、確かの子供の事に両親と一緒に温泉宿に来ていて、『クシー星域の温泉宿』とよく書かれていて……」
 エガーテが言うと、ポッカ氏が腕を組んで過去の記憶を思い出す。
「といっても、フィーユ達が来たのはもう二〇年も前の事で、客も毎年入れ替わっているし、そういう記憶は……」
「まぁ、その犯人て奴が、ここをオルガン社長の死に場所にしたって訳でしょ、艦長?」
 ドリッドが尋ねると、グランタス艦長が頷く
「でもどうやって社長を殺して……」
 エガーテが尋ねると、グランタス艦長が答える。
「社長は薬を燃やされて持病の悪化でなくなったのでなく、死体のうなじの傷が致命傷だった。針状の凶器に死に至る毒を塗り、殺した。そして新調したワイン風呂の湯の中へ放りこみ、従業員達が持ち場から離れたところを見計らって『紅梧の間(べにご ま)』へ行って死体から奪ったカードキーで入り込み、薬を盗んで竈の中へ入れて燃やした。従業員は何も知らずに朝食の魚を焼くために火を使ったからな」
「だけど殺した場所は? ワイン風呂でも『紅梧』でもないとすると……」
 アジェンナがそれを思うと、グランタス艦長がフィーユに尋ねる。
「空いている部屋は大広間の『香竹(こうちく)』、『千桂(せんけい)』、未使用の部屋は私達と旦那様の部屋を除いて、『雪柑(せつかん)』、『宝桃(ほうとう)』、『鎌栗(かまぐり)』……。あっ! 『鎌栗』の隣の部屋が『紅梧』で、『鎌栗』の反対隣りが『火桜(ほざくら)』だわ!」
 フィーユが思いだして叫ぶと、ピリンが『火桜』に泊っていた三人の学生を見つめる。
「てぇことはぁ……、おにーしゃんたちのどれか?」
「お、俺は知らないよ、そんな事」
「僕もだよ! だってその時は早めに寝ていて……」
 ゲッゲーロとキシリスが疑われると、首を振った。その時、ブリックが言った。
「『鎌栗』で酒を買いに行ったオルガン社長を拉致して毒針で刺して殺して、湯帷子やタオルを入れるクローゼットの中に隠して、犯人は他の客や主人が寝ていてレプリカントの従業員が『鎌栗』と『月笹』と『紅梧』を素通りした後に『紅梧』のカードキーで部屋の中に入って薬を探し、殺した後に酒瓶の中身は死体に飲ませた。そしてオルガン社長を殺し、ワイン風呂の湯に静めたのは……君だ!!」
 ブリックの視線の先にはヒューマン型星人アマゾリア星人の学生、フワルーであった。

 

「はっ……! 僕があの男を殺した、だと? そんなの勝手な決め付けじゃないか! 連合軍の一員でもないくせに、指紋や毛髪の遺伝子鑑定、この温泉宿には監視カメラも少ない……。どうしてそんな事が言えるんだ!!」
 フワルーはワンダリングスから犯人扱いされて切れて叫んだ。確かに指紋採取や遺伝子鑑定はしておらず、監視カメラもそんなにない。だがブリックとグランタス艦長はフワルーがオルガン社長を殺した犯人だと断定した。
「アリバイだってあるし、ずっとゲッゲーロやキシリスと一緒に居たし、〈22:00〉代で花風呂に入っていった後に『火桜』に戻っていたんだ1 それに厨房に行って、薬を燃やしたのなら、主人と調理係と対面している筈だ……」
 するとポッカ氏が水を飲みに行った時の事を明確に答えた。
「確かに私は〈4:45〉に水を飲みに行った。でも、『厨房で』とは言っていない。そうだろう、カルルス?」
 するとカルルスもポッカ氏と顔を見合わせて言った。
「確かに私も旦那様が『水を飲みに来た』とは言いましたが、『厨房で飲んでいた』とは答えてません」
「……!? どういう事だ……?」
 フワルーが首をかしげると、カルルスが答える。
「だって、旦那様は自室近くの露天風呂のボイラーの修理に出ていて、私が厨房を出て水を届けに来たのですから……」
「!」
 カルルスの発言でフワルーは凍りついた。
「あとそれと、『鎌栗の間』でフィーユがおろし立ての湯帷子が赤紫色に汚れていたと、ワイン風呂の浴場に行く前に主人に伝えていたそうだ……」
 ブリックがフィーユに名簿を見せてもらった時に教えてもらった事を言うと、フワルーはますます黙りこくった。
「自分の湯帷子がワイン風呂の湯で汚れたから、空室の湯帷子と取り替えたわけか……。時間と従業員の行動を利用したと思っていたら、こんな落とし穴が……」
 ドリッドが呟くと、フワルーはもう言い逃れができなくなっていた。顔は死人のように青ざめて、武者ぶるいしていた。するとホロロがフワルーに尋ねる。
「もしかして君は、オルガンコーポーレションの社長に会社を乗っ取られたという、先代社長の関連人物なのか!?」
「そうだよ」
 フワルーは呟いて、動機と『麗蘭の間』に居る者達に語った。

 フワルーの両親は製薬会社『ブラウムカンパニー』の社長であった。フワルーの両親はブラウムカンパニーで香水や花を使った化粧品や石鹸などを製造と商いする会社であった。フワルーはそこの社長子息であった。幼少の頃には、三、四度『カミロの湯』に両親と共に訪れていた事があった。
「そういえば、何度か来ていた夫婦の幼い息子があなただったとは……」
 ポッカ氏が呟くと、フワルーはまだ話を続ける。
「今から二十二年前、新人社員としてザンゴー=オルガンが入って来て、新入社員から一ヶ月ごとに出世していって、たったの一年で重役になったんだ。ここまでは良かった。だけど、あいつは……。ザンゴー=オルガンは父さん達をはめたんだ! 汚い手を使ってね!」
「それってもしかして……。まさか新商品の『緑成分の肌クリーム』の事か?」
 ホロロ=ケンケがザンゴーがフワルーの親の会社の乗っ取りの理由が安全な筈の新商品に有害成分が入っていて、それが数人ではなく千人も被害が及んでいた事を訊いた。
「そうだよ。『緑成分の肌クリーム』は父さんと母さんが自ら開発部門のリーダーを務めて、実験は何も問題なかった。初回限定で正規の半額で千人が買い取ってくれた商品には、血管が入っていた。肌が赤く荒れたり傷口に入って内部炎症を起したりするという事故が起きてね! 買い手やその身内達は父さんと母さんを糾弾し、父さん達は損害賠償をたくさん払う事になって我が家は破産して、会社はザンゴー=オルガンに乗っ取られた! ザンゴーは発送前の肌クリームの中に有害成分を入
れて、父さん達を破滅に追い込んだんだ! 卑怯な手段を使って会社を乗っ取り、社員達の信用も何もかも壊して……」
フワルーがザンゴー=オルガンに両親の会社を奪われた事を話すと、次は自身のその後を語った。
「そして父さん達は絶望して毒を飲んで自殺して、僕は遠縁の人に引き取られたけど、千人の被害を出した社長夫婦の息子として肩身の狭い思いをしてきたんだ。ある時親戚の元から逃げ出して、孤児院の寄付金で薬学部のある大学の特待生として生活してきたよ。
 でも僕の憎しみは消えない……。そして、ザンゴーの会社のサイトを見つけて、やつの個人ブログで情報収集し、『カミロの湯』に行く予定を見つけて、ゲッゲーロとキシリスを課題旅行の宿泊先として誘ったんだよ。この時にしか、復讐するしかない、ってね!」
 フワルーはつらつらと語ると、疲れたように黙りこくった。そして涙を粒のように零してすすり泣いた。

 そして、事件解決から二、三時間後にクシー星域の連合軍の宇宙艇が来て、ザンゴー死体とフワルーを殺人罪で逮捕して、回収していった。
 連合軍が去った後の『カミロの湯』のポッカ氏は一五〇年前から続けてきた宇宙温泉宿で殺人事件が起きたのならば、もう客は来なくなって破産するだろう、と落ち込んだ。
 しかし――、祖父母の代から贔屓にしている者、常連の客からは「温泉宿をやめないでほしい」というメールが何通も届いて、ポッカ氏は三人のレプリカント従業員と共に続けていく事を決めたのだった。ワンダリングスも『カミロの湯』を去り、ウィッシューター号は星の海を駆けていった。
「ねぇ、サァーナ」
 ウィッシューター号のキッチンでピリンがパンケーキに飾るフルーツを型抜きで刻んでいると、ケーキ種の生地を練っているリブサーナに尋ねてきた。
「どぉしてホロロしゃんはフワリューしゃんのパパとママのかいしゃのクリームのことをしっていたのかなぁ?」
「ああ、アレね」
 リブサーナは生地をヘラで混ぜていると、ホロロ=ケンケの事を話した。
「ホロロさんは昔、ルポルタージュ記者でブラウムカンパニーの事件の真相を探ろうとしたんだけど、オルガンさんの方が早く、ホロロさんの上司にでっち上げの罪を話して、ホロロさんが勤めていた電子網情報社(スペースネットデータ)を首になっていたんだって。艦長はホロロさんも怪しいって言っていたし」
「しょーだったんだ……」
「でも、フワルーさんもご両親の無念を晴らして、憎しみを抱いたまま何もしないで生きるより、報いを与えられて良かった、って顔をしていたし……」
 リブサーナは連合軍に連れて行かれた時のフワルーを見て、あの時の彼の顔は安らかに笑っていたのを目にしたのだった。
 リブサーナもフワルーと同じ境遇にあり、もしいつか自分も自身の親兄弟や友人や村人の命を奪った者達とどこかの星域で出会ったら、赦すのか報いるのかわからなかった。
 でもリブサーナには仲間も居場所もある。リブサーナが私怨を晴らそうとした時が来たのならば、きっと誰かが止めてくれると信じていると感じていたのだった。

〈第三弾・完〉