ワンダリングス5-3

 リブサーナ、チャンピオンと対面


 第一試合でアジェンナがチャンピオン・ケストリーノに敗退して間もなくブリック対ヌーメの第二試合が行われた。

 ブリックはリングの東側に上がり、ヌーメはリングの西側に上がる。ヌーメは灰色の体がつるつるの肌に滑りのある粘液に包まれており、頭部や腕脚には黒い半透明のヒレ、弛んだ目は黄色、指の間の水かきも黒い半透明で着ている服はヌーメの種族間で着るものなのか袖なしの前とじの薄茶色の衣には銀の留め金が五つ連なってついており、腕は厚手布の黒い手甲、脚は爪先とかかとが隠れる靴をはいていた。

(うーむ、いきなりこの様な者と対戦とは......。しかし、彼がお尋ね者なのかどうか......)

 ブリックはヌーメを見て口を一文字にして考える。ブリックはワンダリングス共通の鎧と防具の下に紺色のインナーとフィットパンツ、足元は白いブーツを身につけており、インナーとパンツは連合軍の兵士が身につけることの多い硬質繊維の物で主に弾丸や刃物、炎熱や冷気の防護として用いられる。

『今回初出場のブリック選手、所属はワンダリングスで人造人間(レプリカント)、普段は医療と技術の専門ですが槍術も使いこなせるとのことです。

 対するヌーメ選手はイオータ星域にあるスワンプ星の出身です。初出場は前回の五九回でこの時は惜しくも予選で敗退しましたが、今回は本選出場となりました。

 さぁ、第二試合の開始です!!』

 ジムの実況と同時にスタッフの少年が銅鑼を鳴らし、試合が始まる。

 ブリックは背中に収めていた取り出し、矛先をヌーメに向ける。しかし......。

(さぁて、どうやって戦ったらよいものか......)

 沈着冷静とはいえブリックは動きを止めたまま考える。なぜならヌーメの体にはジェル状の粘液が出ているからだ。ブリックはは軟体種族の異星人(エイリアン)と交戦したことはあっても、骨があって体に体液が浮いている敵とはやり合ったことがないからだ。

「ブリック、どうしたのかな?」

 観客席のピリンがリングの上のブリックを見て呟く。

「必勝法を考えているのだろう。あやつは頭脳派だからな」

 グランタス艦長がピリンに言った。するとリング上ではヌーメが懐から一つの武器を出してきた。長鞭である。

「レプリカントのお兄さん、来ないんならこっちから行きますよ」

 ヌーメは震えるような声と訛りの入ったバトナーチェ語でブリックに言うと鞭を右手に持って振り下ろしてきた。

「うおっと!」

 ヌーメの振るう鞭の気配でブリックは正気を取り戻して三又槍(トライデント)の柄でヌーメの鞭を受け止める。

「成程ね、そう来たか。スワンプ星人はみんな体に粘気を持つ者で、普通に攻撃にしたら相手はスワンプ星人の粘気で滑ってしまう......。

 それで武器を持っていたのか」

 ブリックがヌーメに言うと、ヌーメは頷く。

「ご名答です。でもここからは手加減なんかしませんよ!」

 ヌーメは鞭を強く引っ張ってブリックから三又槍を取り上げようとした。ブリックも負けじと槍を両手で引っ張って引かれ引かれつの勝負に出る。

『おおーッ、ヌーメ選手とブリック選手の意外な戦い方の展開です! ヌーメ選手は自分の体質を利用せずに武器を使ってきたのが律儀! ブリック選手も引かれて負けるのを拒んでいます! ヌーメ選手、引っ張った! ブリック選手、踏ん張った! この我慢比べ、どっちが勝つか!』

 控え席にいるリブサーナもブリックとヌーメの勝負にハラハラしていた。

「ブリック、大丈夫かな~。引かれたり引っ張ったりのまんまじゃないの~」

 リブサーナが隣のアジェンナに声をかける。

「ブリックだって流石に同じことしているとは限らないわよ」

 ここでブリックとヌーメの引っ張り合いに変化が起きた。ブリックは三又槍(トライデント)の矛先を強くリングの上に突き刺し、その勢いでヌーメはパチンコの原理で前のめりに倒れたのだった。

「ほーらね、ブリックだってやる時はやるのよ」

 アジェンナがリブサーナに言った。リングの上ではヌーメは急いで起き上がって鞭を振るい、ブリックと武器のぶつけ合いになった。

 ヌーメが鞭を振るえばブリックが槍の柄で防御し、ブリックが槍を振り回そうとすればヌーメが左右に避けるという具合に。ブリックは拉致があかなくなったのか、両手で槍を持ち、ヌーメに矛先を向けてきた。

(こうなったら突進して矛先で相手を叩き落として場外負けに......)

 それがブリックの計算だった。ブリックは槍を持って突進しヌーメに向かってきた。だが、腕から出した粘気でブリックの槍を滑り抜けて鞭の先端でブリックを巻きつけ、ブリックを投げ飛ばして場外負けにしたのだった。

「しょ、勝負あり! ヌーメ選手の勝利!!」

 レフェリーがブリックの場外を目にすると、左手の白旗を上げた。ワァァァァッ、と客席が歓声を上げ、控え席のリブサーナはアジェンナに続いてブリックも敗退したことに肩を落とす。

「そんな~」

「ブリックも完璧にやろうとしたけど、そうでなかったのもあった、ってことね」

 アジェンナがつぶやくと、控え席にブリックが戻ってくる。ブリックは髪こそはもつれていたがそれ以外は普通だった。

「スワンプ星人は思っていたより手ごわかった」

 そう言ってブリックはベンチに座る。第二試合終了後は闘技場スタッフの少年たちがモップを持ってリングを清掃し、三ロム(五分)後には第三試合が開始した。

 リブサーナたちと同じ控え席にいた恐竜型異星人(エイリアン)の男ブトールが立ち上がってドシドシと足音を立てながらリングに上がる。

「そーいや、この人ドリッドの本選最初の相手なんだっけ......」

 ブトールの様子を見てリブサーナがアジェンナとブリックに言った。

「でも腕っ節の強い者同士の対決だから、リブサーナは彼と当たらなくって良かったんじゃない?」

「それもそうだな」

 アジェンナは軽く笑い返しブリックもアジェンナの意見に頷く。でもリブサーナは気にかかって仕方がなかった。

「もしかしてあの人がお尋ね者かも......。恐竜型異星人(エイリアン)だし、強面だし、力強そうだし、何か何人でも殺していそうな......」

「バカねぇ。そんな訳ないじゃないの。あっ、ほら。ドリッドもリングに上がったわよ」

 アジェンナがリブサーナに促す。リングの上では西にドリッド、東にブトールが対面し、観客たちは二人のパワーファイターの対面を見て楽しませてもらうように見つめている。

「ドリッド、がんばれぇ~、まけりゅな~」

 客席では同じ所属のアジェンナとブリックが初戦で敗退したのを理由にピリンは興奮していた。

「ちゃんと座らんか」

 グランタス艦長が客席に立つピリンに注意する。ここでジムの実況が入る。

『今回初出場のドリッド選手は先ほどのアジェンナ選手とブリック選手と同じワンダリングスの所属で、ジーザズ星出身の元兵士で、ワンダリングスに入る前に将校候補とされていたようです。

 一方、対するブトール選手はオミクロン星域にあるファングス星出身で今大会では三度目の出場で、前回は準決勝で敗退。どのような戦い方を見せてくれるのでしょうか。

 それでは試合開始!!』

 ジムの実況と共に銅鑼が鳴り、ドリッドとブトールはその場で構える。ドリッドはワンダリングスの鎧の下は軍着を着ており、ブトールはダメージ加工のシャツとズボン、手には革のバングル、脚は編上げサンダルという野蛮種族の出で立ちという感じだった。

 ブトールが右手を上げて拳にしてきたのを目にしたドリッドは向かってくると察し、自身の右拳を出してブトールに向ける。案の定、ブトールは突撃してドリッドに拳を向け、ドリッドも突撃して互の拳がぶつかり合った衝撃で後退し、二人は右拳を左手で押さえる。

「やるな、おんし......」

「お前もな。だが負けないぜ!」

 ブトールとドリッドは拳でつき合うという戦いを始め、ブトールが拳を突き出せばドリッドは頭を横に逸らし、ドリッドが拳をブトールに向ければブトールは空いた方の手でドリッドの手を受け止める。

『おおっ、熱い拳と拳のぶつかり合い! 両者ともパンチの切れがいい! この戦いをどう思いますか、ガロさん?』

『ええ、よほど鍛えられているんでしょうね。パンチにはスピードも大事といいますから』

 しかし何ロムも殴り合いを続けていれば流石にドリッドもブトールも疲れてくる。そこでドリッドはパンチと見せかけて肘鉄でブトールを狙うという寸法に出た。しかし......。

「何っ!?」

 ブトールの方が読みが深かったのか、ブトールはドリッドの後ろに回り込み、ドリッドの左腕を押さえて、ドリッドを床に伏したのだった。

「あだだだだ!」

 ドリッドはブトールの腕っ節の強さに悶え、右手がリングの外に出てしまった。レフェリーがそれを見て、左手の白旗を上げる。

「ドリッド選手、場外負け! ブトール選手の勝ち!」

 アジェンナ・ブリック・ドリッドは初戦で敗退してしまい、残るはリブサーナだけとなった。

「ええ~、ドリッドも負けちゃったのぉ~!? しんじらんな~い!!」

 ピリンはむくれてブーイングする。

(残るはわたしだけになっちゃった......。もしわたしまで負けちゃったら、お尋ね者がチャンピオンとわたしたち以外の誰だがわからないままになってしまう......)

 自分より戦歴のある三人が敗退したのを目にして、リブサーナは沈黙し、全身に緊張が走る。自分の番になった時、リブサーナはリングの方向へ行こうとするが、極度の緊張のため、手と足が同時に出て動きもギクシャクになっている。

「あーあ、あんなに固まって......」

「先輩である我々が三人とも初戦で敗退したからか、重圧感(プレッシャー)かかっているんだな」

 控え席のアジェンナとブリックもリブサーナの様子を見て呟く。チャンピオン=ケストリーノもリブサーナを見て呆れる。

(あんなになってちゃ、負けは確実だぞ......)

 客席のピリンたちもリブサーナを見て不安げになる。

「だ、大丈夫でしょうかね......」

「いやぁ、リブサーナはやれば出来る子で......」

 ガイディと艦長が顔を見合わせる。

「サァ~ナァ~、しっかり~」

 ピリンが大声でリブサーナを元気づけようとするも、緊張状態のリブサーナにはピリンの声は聞こえていなかった。

 その時、リブサーナの頭に軽く何かが当たった。その時でリブサーナは緊張状態から解けて、辺りを見回すと足元に何かが落ちているのを目にする。小さな白い紙に包まれた小さい物らしい。リブサーナはそれを拾って紙を広げる。中には薄緑と白の半透明の飴玉が二つ入っていた。そしてメモ用紙には黒く細い字でこう書かれていた。リブサーナにとって懐かしい綴り――。ホジョ語であった。

『これを食べて元気を出せ』

 リブサーナは後ろを振り向くと、ドリッドたちの誰かがよこしてくれたと思って控え席を見てみた。しかし、アジェンナ・ブリック・ドリッドの姿はなく、リブサーナは首をかしげる。リブサーナは飴玉を二つとも口に放り込んで舐めた。甘酸っぱさとスーとした辛さが混じり合って目が覚めた。

(誰がくれたのかは知らないけれど......、元気が出た!)

 リブサーナは顔を上げて前進し、リングに上がる。リングの対にはボロンが立っている。ボロンは両手両足にバンテージを巻き、黒いタンクトップ、腰は紫のハーフラインパンツをまとっている。リブサーナはワンダリングスの鎧の下はブリックのインナーと同じ素材の深緑のハーフトップとスパッツ、足元はハーフアーミーブーツである。

『さぁ、第四試合は今大会初出場のリブサーナ選手対ボロン選手です!

 ボロン選手はクシー星域のステップ星出身の二十四歳の青年で、四年前から八大会連続出場してますが、前大会はベスト3という結果に留まりました。

 一方、リブサーナ選手は初陣で流浪の兵団、ワンダリングスに所属していますが、経歴によるとラムダ星域にある農業で有名な惑星ホジョの出身のようで、ご家族を人災で一度に亡くしたことによってワンダリングスに入隊したという情報です。

 新星の如く現れたリブサーナ選手はどんな活躍を見せてくれるのでしょうか? 解説のガロさん?』

『彼女は荒削りの原石のようですが、この先磨き上げることで立派になれると思いますよ』

 試合開始の銅鑼が鳴り、第四試合が始まった。

(絶対に負けたりしない!)

 リブサーナもボロンも同じ気持ちだったが、戦い方は異なっていた。ボロンは拳だけでなく足も使って戦うキックボクサーだった。

 リブサーナは両すね当てに装備されている短刀を両手に持って構える。ザッ、とボロンが駆け出し、キレのある拳をリブサーナに向ける。

(来た!)

 リブサーナはその場で制止したままでボロンのパンチが来るのを待ち、上半身を反らして避け、その次は左手で体を衝撃から守って片足を伸ばしてしゃがむ。

「やるなぁ、君。でも何度も大会に出場している俺のスピードには勝てないはずだ!」

 ボロンはリブサーナに訛りのあるバトナーチェ語で言うと、また駆け出してリブサーナにパンチを向ける。しかし今度は連続パンチで一秒間に三回のパンチを繰り出してきたのだ。リブサーナは短刀を持ったまま両手をクロスさせて、ボロンのパンチを防ぐ。

『出ました! ボロン選手お得意の連続パンチ! 物理攻撃力そのものは低いけれど、何度も打撃を与えていくことて、相手を少しずつ押し出していく! リブサーナ選手はどうやって回避するか!?』

『リング場内にいる間の反撃パターンってのは少ないですからねぇ』

 ジムの実況、ガロの解説を聞いて客席のピリンはハラハラしだす。

「サァーナーッ、がんばって~!! まけりゅな~!!」

 ピリンだけでなくグランタス艦長、ガイディ、初戦で敗退したため客席に移ったドリッド、アジェンナ、ブリックもリブサーナの戦いを見守る。

(防御ばっかしていちゃ、いずれリングから落とされてしまう。どうしたら......)

 リブサーナはボロンの連続パンチを受け続けていくうちにズリズリと押されていくこと気づき、落とされる前にリング上で反撃しなければと考えていた。そしてボロンのパンチが向かってくるのを見切ったリブサーナは体を下にかがませ、更にボロンの左すねに蹴りを入れた。

「んなっ......」

 リブサーナの機知の反撃により、ボロンは前のめりに倒れリブサーナはボロンの背後に回った。

『リブサーナ選手、ボロン選手の攻撃から脱することが出来た! ボロン選手、左すねを抑えながら起き上がる! 戦いはこれからか!?』

 ジムの実況で客席は一気に沈黙し、リブサーナとボロンの試合を見つめる。リングの上ではボロンがリブサーナに尋ねてきた。

「ねぇ、君。ステップ星の住人の尻尾が長い理由わかるかい?」

「え?」

 するとボロンは自身の尾で立ち上がってそれを体の支えにしてきたのだ。左脚はすねを痛めているためフラフラしているが、尻尾が左脚の代わりに体を支えているのだ。

「つまりこういうことさ」

 ボロンはほくそ笑むとリブサーナに攻撃してきた。まず素早くパンチを入れ、次に尻尾で体を支えて右足でキックを仕掛けてくる。

『ボロン選手、左脚の代わりに尻尾を杖にしてリブサーナ選手に返擊を向けてきた! どうするどうなる、この戦い!?』

 ジムの実況を聞いて客席のバトナーチェ星人や他の異星人(エイリアン)も沈黙してリブサーナ対ボロンの戦いを見つめる。どっちが勝ちそうなのか誰も予想がつかない。リブサーナはボロンのキックやパンチを防ぐばかりだったが、ボロンの攻撃に一ヶ所だけ隙があったのを目にして、リブサーナは右に回り込んでボロンの体をつかんで背負投げた。

「ぐあっ!!」

 リブサーナの背負い投げを受けたボロンは体に衝撃が走り、そのまま伸びてしまう。

『ここで一〇カウントです。一〇カウント内にボロン選手が立ち上がらなければ、リブサーナ選手の勝ちです。

 一〇、九、八、七、六、五、四、三、二、、一......』

 ジムの解説と同時に一〇カウントが入ったが、ボロンは体を起こそうとしたが力が入らず仰向けの姿勢に終わる。

「第四試合、リブサーナ選手の勝ち!」

 試合終了を告げる銅鑼が鳴り、レフェリーが右手の赤旗を上げる。ワァァァッ、と客席が声援を上げ、ピリンは思わずまた立ち上がって叫んだ。

「やった~、サァーナがかったぉ~!」

 試合が終わったところでボロンはようやく起き上がれるようになり、悔しがっていた。

「今度こそチャンピオンのところまで行こうとしたのに......」

 するとリブサーナが手を差し伸べる。

「あなたも結構強かったわ」

 ボロンはリブサーナの手を持って立ち上がってリングを去ったのだった。控え席からリブサーナの戦いを見つめていたケストリーノは好奇の目を向けていた。


「あーあ、喉が渇いちゃったな」

 リブサーナは次の試合までに一休みすることにして、闘技場内の食堂に来ていた。試合中の闘技場食堂は数人しか来ておらず、茶や甘味飲料を飲んでいるバトナーチェ星人や異星人(エイリアン)観客の姿が見られた。

「ケペパジュース一つ下さーい」

 リブサーナは厨房の窓口に向かって注文ケペパというのはバトナーチェ星の密林の赤紫の果実で表皮には花の雄しべのような突起が付いていて、果肉は強めの酸味とわずかな甘味が入っているのだ。

 ケペパジュースがリブサーナは受け取り、代金と二〇バトゥ分の銀貨と銅貨を出す。紙コップにはとろりとした赤紫の液体が入り、リブサーナはストローでケペパジュースを飲んで喉を潤した。ジュースを半分位飲んだその時だった。リブサーナは昼食の時にも察した気配を感じ取って立ち上がった。

「やあ」

「あなたは......」

 リブサーナの目の前にはチャンピオン・ケストリーノが立っていたのだ。

(そうか。昼食の時に感じたのはこの人からだったんだ......)

 リブサーナはケストリーノを見つめる。

(もしかしたら、この人がお尋ね者だったりして......)

 その時、ケストリーノはリブサーナに向かってこう言ってきたのだ。

「そんなに睨みつけるなよ。僕が君に何をした、って言うんだい」

 何とケストリーノはリブサーナの故郷の言語、ホジョ星の標準語を言い放ってきたのだ。訛りも発音の高低もない流暢なホジョ語であった。

「あなた、どうしてホジョ語を話せるの......」

「僕はね、ホジョ星人なんだよ」

「えええ!?」

 リブサーナがケストリーノはホジョ星人だったことに驚いて叫んだことで、他の人たちが思わず振り向いた。

「ここじゃまずいね、別の場所へ行こう」

 ケストリーノはリブサーナを連れて食堂を出て、リングへ向かう途中の廊下で自身の生い立ちを語る。

「僕は十一歳まではホジョ星の南にあるガザ村に住んでいた。家族は父と母と兄との四人で、シュガーレモンを育てて暮らしていた」

「シュガーレモン......。糖度が高いことで半年は保てる果物......。それで、どうしてバトナーチェ星に?」

 リブサーナはケストリーノにせかすように尋ねる。ケストリーノが九歳の時、ガザ村に毒ツノゼミの体液からなる伝染病、ゾットが流行し、最初に老人や赤ん坊、幼児児童、妊婦がゾットに感染して亡くなり、ケストリーノの父母、兄もゾットにかかって亡くなり、生き残った者は親族に引き取られたり、救貧院に入れられた。

 ケストリーノは母の兄の伯父一家に引き取られたが、伯父一家が地主だったためケストリーノはまともに勉強も働きもせず昼寝や遊んでいたりと過ごしてきていた、伯父伯母従兄姉たちはケストリーノに勉学と勤労に励むように、と説教したが、馬の耳に念仏だった。

 ケストリーノの家族から二年後、甥のぐうたらさに我慢できなくなった伯父はケストリーノを宇宙奴隷商人に売り飛ばし、その後ケストリーノはバトナーチェ星のある公爵に買われ、小間使いとして暮らすが公爵の金銭食糧のケチさに耐えかねて一年後に逃げ出してしまい、勉学も真面目に働きもしなかったケストリーノはどうやって生きていこうかと考えた末、偶然目にした宇宙戦士武闘大会(スペースウォーリアバトル)に出場して、初出場で優勝して賞金を手にし、まず家を手に入れてその後は大会闘士として生きてきたのだった。

「バトナーチェ星に来た時は学も社会経験もなくて苦労したよ。でもさ、バトナーチェ星に売られたことで今に至るんだからな。

 僕と同じホジョ星人が流浪の兵団に入っていたなんてね」

「わたしも家族を亡くしているから......」

 リブサーナは自分と生い立ちが似ているケストリーノに苦笑いする。ただケストリーノは自身の怠慢からでリブサーナは突然の出来事で天涯孤独になってしまったが。

「じゃあ僕は準決勝に出るよ。それじゃ」

 そう言ってケストリーノはリングに通じるエントランスへ向かった。