ワンダリングス5-4

 お尋ね者判明とケストリーノの進路


『さぁ、皆様! これより準決勝を行います! 準決勝は二試合。その戦いで生き残った二名が決勝戦に進出です。

 まず、チャンピオン・ケストリーノの入場です!』

 ジムの実況の中、南のエントランスホールからケストリーノが試合場に入場してくる。それと同時に観客席が盛り上がり、バトナーチェ星人が声援を送る。

「ケストリーノ! ケストリーノ!」

 ケストリーノは客たちに笑みを向けリングの東側に上がる。

『続いてケストリーノ選手と対戦するヌーメ選手です』

 選手の控え室に座っていたヌーメは名を呼ばれると起立し、リングの西側に上がった。

「ヌーメ選手......。ブリック殿を打ち負かした手強い相手ですね。体から粘液を出すスワンプ星人ならケストリーノ選手を倒せそうな気がします......」

 客席のガイディが目を皿にしてヌーメを見つめる。

「チャンピオ~ン、ブリックをうちましたヌーメなんて、やっつけちゃえ~!!」

 ピリンがケストリーノに向かって叫んだが他の観客の声に紛れていたため聞こえてなかった。

「まぁ、落ち着けピリン。ほら、試合が始まったぞ」

 ドリッドがピリンんに言い、試合開始の銅鑼が鳴った。ケストリーノは背に背負っていた大剣を抜き構える。対するヌーメも懐から鞭を取り出して右手にグリップ、左手の鞭の先端以下の部分を持って構える。

(彼は体から粘気を出す異星人(エイリアン)だったな。さて、どうしたらいいものか......)

 ケストリーノはヌーメの体から出てくる透明な粘液を見て攻略方法を考える。その途端にヌーメの鞭が飛んできてケストリーノは咄嗟に気づいて後方に退く。

(しまった。こいつは鞭を持っているから遠くからの攻撃が得意だったんだ)

 ケストリーノはヌーメの攻撃パターンを思い出し、攻略法を考えているうちに倒されてしまう、と悟った。そこで目の前の対象に向かって攻撃するのみの戦法に変えて、剣を振るった。

 ケストリーノは剣を上にあげ一回転させて斬撃を放った。斬撃をヌーメに真っ直ぐ向かってくる。

「そうきましたか。ですが」

 そう言ってヌーメは鞭を素早く振り、それが何匹かの鰻の群れが暴れているように見えた。ヌーメの鞭連打はケストリーノの斬撃を弾いて上空に反らし、斬撃は無人の浮遊岩に当たってその岩は傾いて砂塵と石片がパラパラと崩れた。

『ヌーメ選手、見事な鞭さばき! ケストリーノ選手の斬撃を一打ちで避けてしまった! ケストリーノ選手、どう反撃するのでしょうか!?』

 ジムの実況で客席の者の控え席にいるリブサーナもハラハラしだし、ケストリーノが同反撃するか目を張る。

 ケストリーノはさっきと同じ要領で斬撃を二回出してくるが、ヌーメの鞭さばきで上空の左右に弾き飛ばされてしまった。

 ケストリーノは同じ攻撃パターンは拉致があかないと悟り、大剣を持って軽くダッシュしてヌーメの前に近づいてくると大剣を横に振るって斬撃を放った。それと同時にヌーメも鞭を振り、ヌーメの鞭がケストリーノの左腕に当たった。

「うっ!!」

 鞭に当たった痛みでケストリーノは腕が痛んだものの、ケストリーノが放った斬撃はヌーメに当たりヌーメは斬撃に押し出されてその勢いで試合場の壁にめり込んだ。

「じょ......場外負け! チャンピオン・ケストリーノ、準決勝に進出!!」

 観客がケストリーノの勝利を見て歓声を上げ、会場にまた熱気が入る。

「ケストリーノ!! ケストリーノ!!」

 観客の声援ぷりを見て客席のグランタス艦長たちはもう慣れたのか一息ついた。

「次はリブサーナでしたね。試合相手はブトールでしたね」

 ブリックが艦長たちに次の試合内容を伝えると、ピリンがそれに反応する。

「しょーだったね、ちゅぎはサァーナがあのおじさんとたたかうんだった......」

 リングでは初戦でドリッドを打ち負かした恐竜型異星人(エイリアン)の男ブトールがリングの東側に立ち、西側にはリブサーナが立つ。

『準決勝第二試合はブトール選手対リブサーナ選手! リブサーナ選手は今回初出場とはいえ、準決勝に上がってきましたがこの試合はどうなるんでしょうね、ガロさん』

『はい、これから見ものになりますから我々も両者の戦いを見守っておきましょう』

 ガロの解説が終わると試合開始の銅鑼が鳴り、ブトールは拳をゴキリと鳴らし、リブサーナハすね当てから短刀を抜いて構える。

(いくらドリッドを打ち負かした相手とはいえ油断ならない......。さっきの試合での腕っ節の強さ......。もしかしてこの人がお尋ね者なのかも......)

 リブサーナはブトールの力強さと強面を見て思った。さっきリブサーナと試合したボロンはお尋ね者ではなかったし、先ほどケストリーノに倒されたヌーメもお尋ね者でないと悟ったからだった。だがどう見ても剛力のあるブトールと鍛えられているとはいえ華奢なリブサーナではスペックにも外見にも差がある。

「なぁ、どっちを応援する?」

 客席の一角で一般のバトナーチェ星人の青年が友人に話しかけていた。

「俺はリブサーナって子を応援するよ。弱い奴ほど応援したくなる、っていうし」

「そうだな。頑張れー、リブサーナ!」

 バトナーチェ星人の青年の声援を聞いてリブサーナはハッとなった。

「リブサーナ、がんばって~」

 他の客席では六、七歳くらいのバトナーチェ星人の女の子がリブサーナに声援を送っていた。そして少しずつだがリブサーナを応援する者の声が増えてくる。人々の応援を聞いてリブサーナはやる気が満々になったような気がした。リブサーナは短刀を両手に持って構える。

「おい、ネーちゃん。俺ぁ、女子供でも容赦しねぇ野蛮人じゃねぇからな。さっきは男だったから堂々とやれた訳だ!」

 そう言ってブトールは大きな足を上げて力強くドシン! と踏み鳴らした。その衝撃でリブサーナは体勢を崩してリングの上で尻餅をつく。

『おおっ、ブトール選手さっきとは違った戦い方でリブサーナ選手を攻めてきた! 足踏みによる地ならし攻撃で倒そうとする戦法だ!』

『要はブトール選手はあれでもフェミニストだったという訳ですな』

 ジムの実況とガロの解説の中でリブサーナは何度もブトールの地ならしによる震動で立とうとすれば地ならしでよろけ、地ならし攻撃を受けるたびにリブサーナの立ち位置はリング端にずれていっている。

「ああ~、サァーナがおちちゃうよ!」

 客席のピリンがリブサーナの様子を見てうろたえた。

「クソッ、ブトールめ。リブサーナが女だからって拳や蹴りを使わない代わりに間接攻撃を使って場外負けにしようなんて、拳でぶつけ合っていた俺よりも頭にくるぜ」

 ドリッドがリブサーナとブトールの大戦を見て唸る。

(リブサーナ、折角準決勝までこれたというのに、ここであっさり負けるのかい? 君はまだやれるはずだ)

 控え席のケストリーノがリブサーナの様子を見つめる。だが先ほどのヌーメとの試合で受けた左腕の痛みはひくどころか、かえって痛み出していった。

(!? 何だ? 急にめまいが......)

 もうすぐ決勝戦なのに、と体がふらついたケストリーノは上半身を崩した。どこも体調は悪くないの筈なのに、どうして体がぐらついていたのかもわからずに何とか起き上がった。

 リブサーナはブトールの地ならし攻撃を受けてあと三〇センチでリングから落とされると気づき、何とかしなければと考えた。

(あの攻撃にはどこか隙があるはずだ。隙を狙えば......)

 リブサーナはブトールが片足を大きく上げてから勢いよく踏みつける瞬間を狙ってジャンプをし、ブトールに勢いよく踏みつける瞬間を狙ってジャンプをし、ブトールに勢いよく角度の斜め蹴りを発したのだった。

「何!?」

 ブトールが気づいた時にはリブサーナのキックがブトールの胴体に入り、そのキックの衝撃でブトールは後方に押し出されてリングから落ちたのだった。

「勝者、リブサーナ選手!」

 レフェリーがブトールの場外負けを確認し、赤旗を上げる。ワァァァッ、と客席が盛り上がり、客席のピリンたちも大喜びする。

「やったぜリブサーナ! これで決勝戦だ!」

「待て。我々の目的は宇宙犯罪者探しだ。武闘大会の優勝じゃない」

「おお、そうだったな......」

 ブリックに悟られてドリッドは本来の目的を思い出す。リングではリブサーナがブトールに近寄って尋ねてくる。

「さっ、試合が終わったから大人しく連行されてください」

「連行? 何のことだ?」

「えっ!? あなたお尋ね者じゃないの!?」

 リブサーナはブトールがお尋ね者だと思っていたが、ブトールは何も知らなさそうに答えたため、勘違いだったことに気づいた。

「お尋ね者? 何言ってんだ。俺は故郷の星ではフリーの用心棒なんだ。悪ぃことなんざしてねぇよ。俺ぁ、もう行くぜ。じゃあな」

 そう言ってブトールはリングから落ちた時の体をふらつかせながらエントランスホールに入っていった。

(あっ、そうだったな。次は決勝戦でケストリーノさんと試合......)

 リブサーナは次の相手がチャンピオンだったことに思い出して控え席のケストリーノに視線を移した。だがケストリーノは顔色が土気色に悪くなっており息も荒くなっていた。

「ど、どうしたんですか!? ケストリーノさん?」

 レフェリーがケストリーノの様子を見て呼びかける。

『? ケストリーノ選手、どうしたんでしょうか?』

 ジムがマイクを持ったままケストリーノの様子を伺うと、レフェリーが叫んだ。

「大変だ! ケストリーノさんは毒に侵されている! 医者だ、医者を呼んでくれ!」

(えっ、毒!?)

 ケストリーノが毒に侵されていると聞いてリブサーナは立ち尽くし、客席もざわついた。

「チャンピオン・ケストリーノが毒にやられた?」

「どういうこと?」

「おい、これからどうなるんだよ」

 リング上ではスタッフの青年二人が担架を運んできてケストリーノを乗せて医務室へ連れて行った。

『み、皆様、ケストリーノ選手が倒れたため、今回の大会は中止です。どうか静粛に......』

 解説のガロが客席の者に伝えた。バトナーチェ星人は不安げになったりケストリーノの身も心配したが、観客の中にはわざわざ遠くの星から来たのに怒る者もいた。

「折角何日もかかってバトナーチェ星まで来たというのに、ふざくんな!」

「入場料返せ!」

 闘技場内の大騒ぎを見てグランタス艦長もこの時にお尋ね者を探した方がいいと判断して、闘技場の中へ入っていった。

 リングの上のリブサーナは今までの試合を思い出していく中で、お尋ね者が誰なのか気づいて、エントランスホールの中へ入って駆け出していったのだった。

(あの人だ、ケストリーノさんに毒を仕込ませたのは......)


 闘技場内の廊下。廊下にはリングを見渡すための窓がいくつもあり、風雨の時や客席に座れなかった観客はここから闘技場内の試合を見渡すことできた。今は宇宙戦士武闘大会(スペースウォーリアバトル)のため観客は皆客席にいるが、リングの東側の廊下には彼女しかいなかった。

 背丈は一七〇センチ近くでスレンダー、肌は透き通るように白く前髪を一束垂らしたストレートロングヘアは赤紫で切れ長の褐色の瞳、衣服は黒いエナメルボレロに赤いベルテッドのビスチェに肘まである黒いエナメルグローブに黒いエナメルのマイクロミニスカートにガーターベルト付きタイツと黒いエナメルブーツという人間(ヒューマン)異星人(エイリアン)で一年単位年齢でいうとこの二〇歳くらいだろう。

 彼女はやたらと薄い下敷きほどの銀色の開閉式端末を持っており、決勝戦でチャンピオンが試合前に毒に侵された様子を窓から見つめていた。関心なさそうな顔つきをして。

「待っててくれましたか。ベラサピア」

 ベラサピアと呼ばれて、彼女は声の主に振り向く。

「ようやく来ましたか。まぁ、待ち合わせの時間よりも二分一五秒早く来たので良しとしましょう。それで、連合軍をまけたのでしょうね?」

 バトナーチェ語でもワンダリングスの故郷の言語でもない言語を発し、ベラサピアは相手の人物に尋ねる。

「はい。あの毒は遅効性ですが命に別状はありません。しかし三日間は高熱にうなされ、炎症痕が残るでしょう」

「仕方ないわよね。あなたお尋ね者だもの。あのお方の配下に就くしか生きる道がないものね」

 ベラサピアはケストリーノに毒をつけた人物に言った。

「もうそろそろここで行きましょう。連合軍の他にもワンダリングスが......」

 その時だった。天井と通路が長い廊下で甲高い靴音が鳴り響き、二人が振り向くと息を切らしながらお尋ね者を探していた糖蜜色の髪に深緑の眼、黄色がかった肌に銀の胸鎧と緑色の衣服をまとった人間(ヒューマン)異星人(エイリアン)の少女が駆けつけてきたのだ。

「あなたは......」

 ベラサピアは少女を見て呟く。

「おや、あなたはリブサーナさん。残念でしたね、決勝戦でチャンピオンが大変なことになって......」

 リブサーナはベラサピアノの近くにいる人物に顔を上げて強い眼差しを向ける。

「何を言っているの、ケストリーノさんに毒をつけたあなたでしょ! スワンプ星人ヌーメ!!」

 リブサーナは全身から粘気を出す魚型異星人(エイリアン)の男に向かって叫んだ。

「あなたがケストリーノさんに毒をつけたのはあの鞭さばき! すぐにはつけられないけど、毒を塗った鞭を連打すればどこか一ヶ所でも相手の体に触れることができる。

 ようやく気づいたのよ。今ここで大人しく連行されなさい!」

 リブサーナはハァハァ言いながらヌーメに向かって言った。しかしベラサピアがリブサーナの前に現れて下目づかいで返事をする。

「悪いけど、そういう訳にはいかないのよっ」

 そう言いながらベラサピアは疲労しているリブサーナの鳩尾にスネ蹴りを飛ばしてきた。

「ぐっ!!」

 ベラサピアの蹴りを受けてリブサーナは膝まづく。

「う、うう......」

「悪いけどもうそろそろお時間だから退散させてもらうわ。私の名前はベラサピア。あのお方に仕える秘書よ」

 ベラサピアはリブサーナにわかる言語を発しながら撤退したのだった。

(逃げられた......)

 お尋ね者を捕まえられなかっただけでなく、〈あのお方〉と名乗る秘書に一発でやられたとはいえ、リブサーナは廊下でうずくまっていた。

「あっ、サァーナ、みちゅけた!」

 リブサーナの後ろからピリンの声が飛んできて、ピリン、グランタス艦長、ブリック、ドリッド、アジェンナ、ガイディが駆けつけてきたが、ヌーメはもう逃げた後だった。


 第六〇回宇宙戦士武闘大会(スペースウォーリアバトル)はチャンピオン・ケストリーノのアクシデントで中止となり、大会を見に来た異星人(エイリアン)たちはバトナーチェ星を去っていった。

 一方リブサーナはヌーメが連合軍が探しているお尋ね者で、しかもベラサピアという女と一緒に逃げていったことを艦長たちに伝えた。

「〈あのお方〉の秘書、ベラサピアですか。その女はそう名乗ったのですね?」

 ウィッシューター号の司令室でリブサーナはガイディの尋問を受けて答えた。ウィッシューター号はバトナーチェ星の宇宙艇停泊場に残っており、ワンダリングスは大会が終わっても少しとはいえ滞在していた。

「ご協力どうもありがとうございます。これでわたくしめも連合軍部署に報告することが出来ます。では、ここで失礼」

 そう言ってガイディは司令室を出て自分が宿泊している浮遊岩都市の宿屋へ行って仕事をまとめにいった。

「リブサーナ、お尋ね者を逃しちまったのはお前の責任じゃねぇよ。そんなに気にするな......」

 ドリッドがリブサーナに気遣って言った。

「ベラサピアって子が言っていた〈あのお方〉って、ティリオの星を攻めていたりピアエンテ星の大臣を誑かしていた同一人物と一緒なんでしょ? しかも秘書って」

 アジェンナがベラサピアについての情報を今までの任務先での経験や出来事の発端させた人物と同じ所属だということに考える。

「つまりベラサピアが言っていた〈あのお方〉は着々と部下を増やしているということか......。今までの戦場よりも過酷になりそうだな」

 ブリックも呟く。

「どんなやちゅがこよーとも、ワンダリングシュはまけないもん! しょーだよね、みんな!」

 ピリンが他の艇員(クルー)に言った。

「そうだ、そしていずれは決戦の時が来たら、力の限り戦うんだ。いいな、みんな!?」

「ハイ!!」 

 グランタス艦長の台詞でリブサーナたちは誓った。ベラサピアが言っていた〈あのお方〉と戦う時まで――。そしてリブサーナは今度こそはベラサピアと一対一の勝負で戦ってみせるぞ、と。

「そうだ、リブサーナ。後で行かないか?」

 グランタス艦長がリブサーナに尋ねてきた。

「ケストリーノ殿のことだが今は熱にうなされているとはいえ、命に別状はないとのことだ。

 三日経てば峠を越えて治まるから見舞いに行かないか?」


 宇宙戦士武闘大会(スペースウォーリアバトル)が終わってから四日目の昼、リブサーナはグランタス艦長に勧められて、巨大浮遊岩年の南東にある首都第二病院にやってきており、アジェンナとピリンもついてきた。巨大浮遊岩都市には艮巽坤乾の四ヵ所に病院が建てられており、第二病院は巽にあった。病院は一階が内科や外科などの診察場で二階が手術室などの患者の治療を施すエリアで三・四階が入院室であった。入院室は四人一組の団体部屋と個室があり、ケストリーノは著名人のため個室に入院していた。病院の床も壁も白く滑らかに研磨され、カウンターもベッドも診察台も岩を削ったものでベッドには羽毛や野綿を詰めた敷布団と枕と掛け布団がかかっていた。

 医者も看護師も白い服で患者は簡素な衣で男は水色、女はピンクの入院着を着ていた。

 リブサーナたちは受け付けて面会手続きをし、四階のケストリーノの部屋へ向かった。二階以上へ行くには階段、もしくは建物の中央の小さな浮遊岩をマス状にしたエレベーターで行き来、エレベーターは主に急患や体の弱い人や老人用だった。リブサーナたちは階段を使って歩き、四階の片隅にあるケストリーノの部屋へ入った。

「うわっ」

 扉を開けるとケストリーノの周りには赤や白や黄色の花束、色付きや柄入りの包装紙でラッピングされたプレゼント箱がたくさんあるのを見て驚いた。どうやらファンからの見舞いの品のようだった。

「来たんだね、リブサーナ」

 ベッドで寝ているケストリーノがリブサーナとアジェンナとピリンを見た。ベッドの他には窓が一つあるだけで空気が入る網戸にしておりカーテンがフワフワ舞う。

「お......思っていたより元気そうですね、ケストリーノさん。あ、これお見舞いの品です......」

 そう言ってリブサーナはお土産の箱を渡した。青いリボンに黄色い星柄の包装紙のマッチ箱大の箱には透明なビーズと青い小石のビーズで出来たブレスレットが入っていた。

「えっと......、回復祈願のお守りです......。わたしが作ったんです......」

 リブサーナはモジモジしながら言った。

「へぇ~、手作りなんだ、ありがとう」

 そう言ってケストリーノは右手首にビーズブレスをつけた。

「はじめまして、ケストリーノしゃん。あたし、ピリン。これでもワンダリングスのメンバーだぉ。はやくげんきになって、しあいにでられりゅといいね」

 ピリンとあいさつと回復願の言葉を述べると、ケストリーノは苦笑いする。

「ああ、試合ね。残念だけれど、もう出られないんだ」

「え?」

 リブサーナとピリンがそれを聞いてわからないという顔をすると、アジェンナが尋ねてくる。

「もしかして毒で体が......」

「そうだよ。治療で僕の体の毒は抜けたけど、その後遺症で盛大に動き回ったら命を縮める体になっちゃって......。武闘大会のチャンピオン・ケストリーノはもういない。今の僕はホジョ星人のケストリーノさ」

「しょんな......」

「ホジョ星人......。リブサーナと同じ星の生まれだったの......。もう戦えないって......」

 ピリンもアジェンナもケストリーノの引退を聞いて、しかもホジョ星人だったことに意外さを感じた。その時、リブサーナが言ってきた。

「ケストリーノさん、連合軍の人たちに頼んでホジョ星に帰りませんか? バトナーチェ星で武闘士の立場を失って何も出来ないくらいなら、故郷であるホジョ星で暮らした方がよっぽどいいと思います」

「リブサーナ!?」

 アジェンナはリブサーナの台詞を聞いてまた驚く。

「ケストリーノしゃんをホジョしぇいにかえしゅことなんてできりゅの?」

 ピリンが尋ねてくると、リブサーナは言う。

「わたしがホジョ星の王様に嘆願書を出してケストリーノさんに持たせて、連合軍の人たちにケストリーノさんをホジョ星に送ってもらうよ。......無理を承知だけど」

 リブサーナの思案を聞いて、アジェンナとピリンは何も言えなくなる。

「ホジョ星に帰る......か。僕は浮遊能力もないし、肉体労働も出来ないからだだし、ホジョ星に帰って頭脳労働に就いた方がいい、ということか......」

 ケストリーノが呟いた。


 そしてその三日後、リブサーナはガイディにお願いして退院したケストリーノを連合軍部に経由でホジョ星に送って欲しいと頼み、ケストリーノには彼がホジョ星で暮らせるようにとホジョ星王宛の嘆願書を持たせた。

「ガイディさん、ケストリーノさんをよろしくお願いします」

「ああ、私たち連合軍が責任を持ってケストリーノ殿をホジョ星に送り届けるよ」

「さようなら、リブサーナ、ワンダリングスの皆さん」

 リブサーナはケストリーノに手を振り、ワンダリングスの艇員(クルー)はウィッシューター号に乗り込み、エンジンを起動させて宇宙艇の後部から青白い放物線を出しながらウィッシューター号はバトナーチェ星を飛び出していった。

「またいつか会おう......」

 ケストリーノは晴れ渡る空へと向かっていくウィッシューター号を見て呟いた。

 ウィッシューター号が宇宙空間に入ると、リブサーナは自室に戻って円状の窓から見えるバトナーチェ星を見つめていた。

 自分と似たような境遇のホジョ星人と出会ったリブサーナは、戦えなくなったケストリーノには平和なホジョ星で暮らして欲しいと願って決断したのだった。

 お尋ね者を連れて逃げたベラサピアの主である〈あのお方〉との戦いに巻き込みたくないから、と。

 そして更にリブサーナの中に生まれたもの。ライバルである。初対面の時は一撃で倒されてしまったけれど、次に会った時は正攻法で戦ってみせると、リブサーナは誓った。