ワンダリングス5-6

  宇宙盗賊との再会


「リブサーナのお姉さんの婚約者がこのドーンヴィーナス号に乗っていたぁ!?」

 宇宙豪華客船ドーンヴィーナス号内での仕事を終えて宇宙停泊場へ向かう途中、アジェンナはリブサーナの話を聞いて目を丸くする。

「うん......。わたしもさっき知ったばかり」

 廊下では白い制服と制帽の航海士や紺色のエプロン付きワンピース姿の女性従業員や紺色のベストとスラックスと白いカッターシャツ姿の男性従業員がそれぞれの持ち場へ向かう姿が見られた。

「お姉さんの喪が明けるまでに他の女の人との結婚を待とうとしていたのに、親御さんの決めた相手とホジョ星を離れて結婚式兼新婚旅行ねぇ......。お姉さんの元婚約者のご両親だってそんなに急ぐこともなかったのに」

 アジェンナがパルプリコの件を聞いて考える。しかしリブサーナは話を変えて真顔でアジェンナに言った。

「パルプリコさんにドーンヴィーナス号には脱獄犯が乗っていることを告げたら動揺したよ。ハイジャック犯ってのは無関係の人を巻き添えで殺すこともあるからね」

 リブサーナはワンダリングスに入ってからハイジャックされた宇宙船と何度か遭遇したことを思い出し、以前は一回だけ巻き添えの死を目撃していた。水かきと平たい嘴を持つ鳥型異星人(エイリアン)グスワ星人の老紳士で金属の弾丸が天井のシャンデリアに跳弾して胸を貫かれて絶命した。老紳士の妻は当然嘆き、リブサーナはこの時自分は犯人の仕組んだ簡易罠の解除するために三階のバルコニー席にいたのだ。そこから他者の死を目にした。

「でも精神度合(メンタルレベル)ってのがあるからね。流石に精神異常者だったら殺傷許可が出ているけれど、今回のは正常っぽいからね。

 まぁ、ハイジャック犯や脱獄犯が現れたらそん時はそん時よ」

 アジェンナがリブサーナに気にしないようにと言った。

 船内の廊下を歩き、宇宙艇停泊場の接続通路を通ってリブサーナとアジェンナはウィッシューター号の中に入る。四方が白かったドーンヴィーナス号から上半分が象牙色(アイボリー)で下半分が暗銅色(ダークブロンズ)のウィッシューター号を目にしてリブサーナは仕事から私事に切り換えた。

 司令室に入ると連合軍から送られてきた白い耐性合成材の箱が二つ司令席の近くに置かれていた。

「おお、アジェンナ、リブサーナ、帰ってきたか。先ほどニュー星域の連合軍から新しい戦闘服――女用が届いてな。対脱獄犯用に使ってほしいと」

 グランタス艦長がアジェンナとリブサーナに連合軍から送られてきた戦闘服入りの箱を差し出す。

「へぇ~、気が利くじゃない、連合軍。早速部屋に行って試着してみるわ」

 アジェンナは意気揚々と箱を両手で抱えて司令室を出た。

「じゃあ何ならわたしも......。あと他のみんなは?」

 リブサーナがまだ帰ってきていない艇員(クルー)のことを艦長に尋ねる。

「ドリッドとピリンは機関室。ブリックはカメラルームだ」

「わかりました。じゃあ戦闘服の試着しに行ってきます」

 そう言ってリブサーナも箱を持って司令室を出た。

 他星の植物や自然背景の写真やポスターが壁に貼られ、すっきりした雰囲気のリブサーナの部屋。艇員(クルー)の私室は丸窓にカウンター机と床に設置された回転椅子、ロフトベッド、クローゼットは共通で各人に合わせての家具や調度品が置かれているのが部屋の主によって異なっている。リブサーナは箱の蓋を取って開けると、中に入っている物を見て「ええ!?」と叫んだ。

 箱の中に入っていたのは胸元と背中を覆う群青色のレオタードだった。他にも黒いガータータイツ、肘まである黒いグローブ、膝丈のアーミーブーツ、他にも太腿に付けるベルトナイフや銃などを提げるベルトも付属してあった。それから大きめのアイグラスには頭部を保護するためのバリアー発生装置が施されておりいた。

「何か......やらしいな......」

 リブサーナは呟いた。連合軍の女性兵の中にはレオタード型の戦闘服を着ている者もいて、リブサーナは自分には似合わないと思って着用せず、チュニックシャツとハーフパンツの上からワンダリングスの紋章入りの防具をまとっていた。

「でも折角連合軍の人が送ってくれたしな......」

 もったいないと思ってリブサーナはドーンヴィーナス号のエプロン付きワンピースを脱いで連合軍から送られてきた戦闘服を着てみた。サイズは適合していた。そして思っていたより似合っていたことに驚いた。

 アジェンナも戦闘服を試着していて、彼女は深紅の戦闘服だった。

 リブサーナたちワンダリングスがドーンヴィーナス号に潜入してから一二八時間が経過した。リブサーナとアジェンナが船内のホールの仕事に出ている時、ウィッシューター号にクシー星域の宇宙監獄ステーションの脱獄犯の情報が連合軍から送られてきた。

「こっ、これは......!?」

 まだ仕事が入っていなかったグランタス艦長、ドリッド、ブリックは脱獄犯の記録と写真を見て言葉を失う。三人の脱獄犯は全身青緑の鱗に覆われていれ金色の鋭い瞳と三日月型の瞳孔、長い尾に鋭く細かい歯の爬虫類型異星人(エイリアン)のザーダ星人だった。それぞれがガタイのある体型、二人目がひょろ長、三人目が波打った金髪であった。

「何ということだ......。まさかリブサーナの村を滅ぼした奴らが脱獄犯だったなんて......」

 ドリッドは三人のザーダ星人の顔を見て呟く。どこか見覚えのある顔ぶれかと思いきや、艦長たちが以前連合軍に差し出した宇宙盗賊でリブサーナの村を滅ぼし、彼女の父母姉兄、他のエヴィニー村民を殺した者たちであった。

「艦長、どうしましょう......。もしリブサーナがこのことを知ったら......」

「気のいいあの子のことだ。ザーダ星人たちを見たら、日頃の穏やかさを失って憎しみのあまりザーダ星人を手にかけるかも知れない......」

 ドリッドとブリックが顔を見合わせて顔を曇らせる。まさかリブサーナの因縁の相手がドーンヴィーナス号に転がり込んでいたのは艦長たちにとっても想定外だった。

「......リブサーナには伝えるでないぞ。あの子の温情が失われる可能性が高い」

 グランタス艦長はドリッドとブリックに念を押した。

 その頃リブサーナはパルプリコに雇われて、彼の専属メイドになっていたのだ。リブサーナはパルプリコに何故雇ったのが自分なのかと尋ねてくると、リブサーナたちがドーンヴィーナス号に来てからパルプリコは何者かにここ二、三日狙われているというのだ。それはパルプリコの寝る枕に針が仕込まれていたり、冷蔵庫の中の飲み物に毒が入っていてそれらは微毒だったがパルプリコは数時間マヒにかられたり、クローゼットを開けたら銃が発砲してパルプリコはすねにかすり傷を負ったという出来事だった。

「......パルプリコさん、誰かに怨まれるようなこと、しましたか?」

 パルプリコに雇われたリブサーナは彼に尋ねる。イタズラにしては悪質すぎるし、もしかしたら金持ち目当てのハイジャック犯の仕業にしては手が込みすぎているし、これは怨恨だと踏んだ。

「......いや、全く思いつかない。それにドーン号に乗っているのは僕と別室にいる両親とフィアンセぐらいで......。他は初めて会う異星人(エイリアン)ぐらいだし」

 パルプリコは右人差し指を口元に当てて考えるが首を振るばかりだった。息子が何度も狙われていると聞いて駆けつけたパルプリコの両親は父は禿頭で黒縁メガネに仕立ての良い羊毛スーツの中老の恰幅のよい男性で、母は夫より背が高く細長い顔と細身の女性で刺繍入りの黒いドレスを着ていた。

「もし息子が殺されてしまったら......、ああどうしましょう」

「そうだな。おい、君。確かリブサーナといったな。君は雇われ兵団の一員で息子の前の婚約者の妹だったというではないか。頼む、息子の護衛をやってくれないか? でないと息子は本当に命を奪われるかもしれない......」

 パルプリコの父に頼まれてリブサーナは彼の護衛を務めることになったのだ。

 リブサーナは台所のシンクを磨きながらパルプリコに尋ねてくる。

「監視カメラにはパルプリコさんの部屋の前に侵入した人、映っていなかったんですか?」

「いや、映っていなかった。というか僕の部屋の近くの監視カメラには細工がされていて、無人通路の写真が貼られていた。写真に使った機器は他の客のポラロイドカメラだった。本体は無事見つかったけれどフィルムが空っぽになっていた。デジタルカメラと違ってすぐ結果がわかるからな」

「そうなんですか......」

 リブサーナはパルプリコの話を聞いて呟く。その時、リブサーナは手を止めた。パルプリコと出会ってから彼の両親を目にしたけれど婚約者はまだ一度も目にしていない。理由でもあるんだろうか、とリブサーナは思ったが、パルプリコの花嫁はきっと病弱でしょっちゅう寝たきりか車椅子がないと動けない体つきなのだろうと思って尋ねるのをやめた。

(もしパルプリコさんが狙われても、わたしにはワンダリングスで鍛えた武術と連合軍から送られてきた戦闘服を着ているから大丈夫だし)

 リブサーナは白いフリル付きエプロンと紺色のワンピースの下に連合軍から支給された群青色のレオタード型戦闘服を着ていた。この戦闘服は耐熱耐電耐水耐撃性の特殊合成繊維で出来ており、刃物も銃弾も通さないすぐれ物だった。

「リブサーナちゃん」

「なんですかー?」

 リブサーナは冷蔵庫を開けてパルプリコに食べてもらう食事を作ろうと食材を探っていると、パルプリコがこんなことを言ってきたのだ。

「リブサーナちゃんに好きな人っている?」

「ええっ!? ななな......何ですの、ききき急に......」

 リブサーナはそれを聞いて体がよろけそうになるが身を持ち直してパルプリコの方へ振り向く。

「いや、君って結構可愛いからさぁ、旅先ではモテて彼氏の一人くらいいると思って......」

「い......いませんよ、彼氏なんて......。何せ宇宙各所を回っていますし......」

 リブサーナは確かに任務先や潜入先の惑星や宇宙施設ではモテているのだが、恋をしている暇なんてなかった。いや恋をする余裕がないというより、まだ見つかっていないのが正しい言い方だろう。

「でも、お姉ちゃんは残念でした。年明けの冬にはもうすぐパルプリコさんと結婚できたというのに、宇宙盗賊のせいで......」

 リブサーナは思い出して震える。なぜ宇宙盗賊は自分の村を襲って滅ぼしたのか。悪党だから当たり前なのか、それともわけありで襲ったのか分からずじまいだった。

(もしかしたらベラサピアって(ヒト)が言っていたあのお方の手先なのかもしれない。それなら理由も少しわかるかもしれない)

 そして冷蔵庫の中身を確かめると立ち上がってパルプリコに言った。

「パルプリコさん、具材が少ないので厨房に行って分けてもらいますね」

「ああ、すまないな」

 リブサーナはパルプリコの部屋を出て、厨房へ向かっていった。

 リブサーナは厨房で食材で分けてもらうと耐水ボール紙の箱に入れてパルプリコの泊まる四〇一号室へと向かっていった。

「キャーッ、誰かーっ!!」

 どこからか女性の悲鳴が聞こえてきてリブサーナは驚いてい思わずボール紙箱を落としそうになったが、気を取り直して真っ直ぐ立つ。

「どうしましたか!?」

 航海士と従業員が悲鳴のあった部屋の方へ駆けつける。すると二メートル越えの背に背中に甲羅を持つ爬虫類型異星人(エイリアン)の夫婦がうろたえており妻の方は泣き喚いていた。

「あ......怪しい奴が息子を連れ去ったんです! 体が青緑のウロコに覆われていて白と黒の横縞の服を着ていた三人組でして......」

 婦人は航海士たちに息子を連れ去った者の特徴を教えた。リブサーナもそれを聞いて婦人の言う「白と黒の横縞の服」は脱獄犯なのだろうと悟った。

「こうしちゃいられない! みんなに伝えなきゃ!」

 リブサーナは懐からワンダリングスの使う携帯端末を出して画面のパネルを叩いてグランタス艦長たちに知らせる。

「こちらリブサーナ。ワンダリングス、応答願います。脱獄犯の情報をつかみました。トートイ星人の子供を連れ去って船内を逃走中」

 リブサーナの連絡を受けて、それぞれ巡回、機関室、監視カメラ室、ホールで作業していたワンダリングスの面々が承諾する。

「了解! ただちに向かう」

 リブサーナも脱獄犯探しに精を出し、トートイ星人の子を連れ去った者を探しに追跡する。航海士や従業員は各室や遊技場や店に逃げ込んだ脱獄犯が隠れていたり先客に紛れ込んでいないか確かめる。

 リブサーナが脱獄犯を探していると、ホールの一つである〈星菊の間〉から悲鳴が聞こえてきた。

「うわーっ!」

「キャーッ!!」

 リブサーナがそれを聞いて〈星菊の間〉へ向かうと、脱獄犯に気づかれないように半開きの扉からホールの奥に座り込む人間(ヒューマン)型や鳥型の異星人(エイリアン)たちが怯えていて入口の近くに三人の体が青緑の鱗に覆われて体格の異なる白と黒の横縞の囚人服を着た男たちが立っているのを目にしたのだった。金髪の男は左手にトートイ星人の男の子の首に手を回しており、トートイ星人の男の子は黙って涙を流している。

「お前ら、命が惜しかったら金目の物とここにある食い物をよこせ! そして中型宇宙艇を持っている奴は俺たちによこせ!」

 主犯格らしいガタイのある男がホールの船客や従業員たちに向かって叫ぶ。船客たちは恐れのあまり財布からコズム紙幣や硬貨、時間表示がダイヤモンドでベルトが一八金の腕時計や紫真珠のネックレス、純銀やプラチナのアクセサリーや懐中時計を脱獄犯の前に置き、ひょろ長の男がテーブルクロスを一枚抜いて風呂敷にして焼肉や魚のパン粉ロースト、果物や菓子パンなどを無造作に詰め込んだ。ガタイのある男が船客や従業員の差し出した金品を広い集める。

「おい、宇宙艇は?  誰か持っていないのか! 出さなかったらこのガキがどうなるかわかってんだろうな!?」

金髪の男が叫ぶと、一人のヒゲを生やしたイブニング姿の人間(ヒューマン)異星人(エイリアン)の紳士が叫んだ。

「う......宇宙艇なら私のをやる! ほら鍵と暗証番号の入った手帳だ。さぁ、この子を離しておくれ」

 紳士が叫ぶと脱獄犯は紳士からカードキーと手帳をひったくる。扉の近くのリブサーナはほかのメンバーが来てくれるか待つもホールの中の様子を伺う。扉は廊下側から無理にこじ開けたようになっていて、三分の一ほど視界に入る。人質の少年は解放されて他の船客に支えられる。

「坊や、大丈夫かい?」

「う、うん......」

 トートイ星人の少年は二メートル近い背丈だが年齢は一〇歳近くで体の割には幼いのだ。

「よし、ジジイ。お前の宇宙艇を教えろ。どれが誰のかわからないからな」

 脱獄犯はカードキーの持ち主の紳士に要求する。他の先客が見つめる中、紳士は脱獄犯の前に出て、脱獄犯は紳士とともに出入り口に行こうとした時、食べ物を担いだひょろ長が扉の近くにいる人物に気づく。

「おい、そこにいるのは誰だ!?」

(バ、バレた。でも、ここはやるしか......)

 そう思ってリブサーナは白いエプロンと紺のワンピースを脱いで群青色のレオタードの姿になり、携帯銃(ハンドライフル)を構えてホールの中に入る。

「ワンダリングスだ、クシー星域監獄ステーションからの脱獄犯を逮捕しに参上

 姿を現したリブサーナを見て船客たちは恐怖と不安が和らいで安堵に包まれる。

(良かった、救いの手が来てくれたんだ!)

 船客たちはリブサーナの登場に喜ぶがリブサーナは脱獄犯三人の顔を見て何かに気づく。

「ん!?」

 脱獄犯の顔を見つめている間にリブサーナのある記憶が脳裏に映し出される。

 青緑の鱗の体、金色の眼、三日月型の瞳孔、口から出ている二又の舌――。

(まさかこの人たちは!!)

 リブサーナは思い出した。この三人はリブサーナの村を襲い滅ぼし、リブサーナの家族や友人の命を奪ったザーダ星人の宇宙盗賊だったのだ。リブサーナは兄シグワールから逃げるように促されて、その後荒地で転んで気を失い、目覚めたのが随分後のため宇宙盗賊を捕らえに来たグランタス艦長たちからリブサーナ以外のエヴィニー村の住民は絶命したことを聞かされた。帰る家も待っていてくれる家族も質素ながらも平穏な暮らしをわずか一日で奪った宇宙盗賊が目の前にいるのを......。

 脱獄犯の方もリブサーナの顔を見て、ガタイのいい男が小さく叫んでから語る。

「ああ、思い出した。お前はホジョ星で出会った村の小娘か。家も家族も喪ったお前がまさか連合軍の使っぱをやっていたとはなぁ」

 ザーダ星人は大きな訛りがありながらもホジョ語でリブサーナに言ってきた。

 リブサーナは揺らいでいた。家族や友人を容赦なく奪っていった宇宙盗賊への憎しみと何故自分たちの村を襲ったのか問いただしたい平静さが入り混じっていた。