ワンダリングス5-9

 リブサーナ対ベラサピア 


 ワンダリングスは懐から小さな拳大の銀色の球体、物質亜空保管カプセルを出し、上部をひねり回して中に入っていた銀色の胸鎧、手甲、すね当てを出し衣服の上にまとう。胸鎧には各人のシンボルカラーのプリズマイトの飾り石がはめ込まれており、更に手甲やすね当てには各人の能力に合わせて武器が収納されている。但しピリンは小さいので纏えないが。

 ワンダリングスは腰のホルスターに提げていた携帯銃()を手に持ち、エネルギーカートリッジを装てんして引き金を引く。銃口からオレンジ色のエネルギー弾丸が放たれてカミガン人の入った金網を破っていく。

「早く他の場所へ逃げてください!」

 グリジアがカミガン人に他の場所へ逃げるように扇動する。

「あ、ありがとうございます!」

 助かったカミガン人は次々に北町や中央町に逃げていった。

「あ、逃がしおって! 折角ワテの商品を~......」

 グヌヌヌ、と歯を食いしばるキャプトーはワンダリングスを睨みつけてくる。

「さぁ、大人しくお縄にかかってもらうぜ!」

 ドリッドがキャプトーに近づく。だがキャプトーは悔しがる顔から急に口元を歪ませた。

「お前ら、このハントロイドはな、ただの奴隷捕縛ロボットやないんやで。つまり、こういうことが出来るんや!!」

 キャプトーは懐から薄い板のような端末を出してあるスウィッチを入れる。すると、ハントロイドが頭部の中心にある赤い一つ目を点滅させて、次々に集まっていき、両脚、胴体、両腕、頭部と出来上がり、一体のロボットとなり、更に胸部にキャプトーが乗り込む。キャプトーの両腕と両脚、そして頭部にケーブル付きの体操作端末(ボディデバイス)が装着される。

「見たか、巨大ハントロイドやで!! ほんでもって、ワイの体の動きに合わせて動くんやでっ!!」

 キャプトーが右腕を動かすと、グランタス艦長にハントロイドの拳が向けられる。

「艦長、危ない!」

 ドリッドが飛び出してきてグランタス艦長をつかんで避ける。ドガッとハントロイドの拳がグランタス艦長のいた所に当たり、石畳が割れて地面が凹んで煙が出ていた。

「艦長、無事ですか!?」

「ああ、すまないな、ドリッド。しかしあんなに大きな敵だと、どうやって倒したらいいものか......」

 グランタス艦長はハントロイドを見て呟く。単体では二メートルはあったハントロイドが一度に十数体集まって二十メートルはありそうな高さに変貌しているのだから。

「しょんなら、ここはピリンにまかせてぉ! ピリンはおっきいよーじゅーをしょーかんできるもん!」

 ピリンが胸を張って艦長たちに言った。

「おお、そうだったな。あれと同じ大きさの妖獣を召喚してくれ」

「エステ・パロマ・ダ・バオネーシャ!!」

 ピリンが宇宙真珠と紅水晶で出来た花の杖を振ると、扇のような耳に長く反った牙、縄のように長い鼻に八本もある太い脚の妖獣バオネーシャが白い煙と共に出現する。

「みんな、バオちゃんにのって!」

 ピリンの指示でグランタス艦長、ドリッド、ブリック、アジェンナがバオネーシャの背に乗る。

「おお、あれはバオネーシャやないけ! あれ一体でも五〇〇〇万コズムはする代物や。これも捕まえたるで!」

 巨大ハントロイドに乗ったキャプトーがバオネーシャを見て呟く。

 

 その頃、リブサーナはベラサピアと対面し、互いは立ったまま見つめ合っていた。

「あの時は疲れていて万全でなかったけれど、今こそは......」

「まだバトナーチェ星での件を抱えていたの? 結構執念深いのね。いいわ、あなたのやる気、見せてちょうだい!」

 ベラサピアがリブサーナの真剣な眼差しを見て構える。リブサーナは右拳を突き出して前進し、拳をベラサピアの鳩尾に向けてくる。それを見てベラサピアはリブサーナの攻撃を交わしてリブサーナに手刀を向けてくる。それを素早く察してリブサーナはベラサピアの手刀を左手首で受け止める。

「なかなかやるわね」

「艦長やドリッドに鍛えられているから」

 リブサーナは右手の指を垂直にしてベラサピアの首筋に突きを入れてこようとしてきた。しかしベラサピアの方がいち早く、リブサーナの腹に膝蹴りを浴びせた。

「くはっ」

 また同じ場所に同じ技を浴びせられた......。リブサーナはよろけるも、左手で家壁を叩いて体を押し上げた。

「皆さん、町の人たちを他の町に避難させました......って、えええ!?」

 グリジアが現場に戻ってきて、二つの戦いを目にして声を上げる。一つは町中で巨大な黒いロボットと大耳長鼻八本脚の巨大生物が力の押し合いをしていた。

「な......なんですか、あの生き物は......」

 グリジアが驚きつつもリブサーナが怪しい女と戦っているのを目にして、こちらはこちらで苦戦しているのだと悟った。

「り、リブサーナさん! 今、お助けします!」

 グリジアはリブサーナが黒づくめの女に苦戦しているのを目にして駆け寄ろうとしたが、ある場面が脳裏に浮かんできて、足を止める。

――来ないで! 彼女はわたしを相手しているんだから!

 真剣な表情のリブサーナに止められる予知をしたのだった。リブサーナがグリジアを見て気づいたが、グリジアは一対一の戦いに手を出してはいけないと悟って巨大ロボ対巨大生物のいる方向へ向かっていった。

「わかってくれたか、グリジアさん......」

 リブサーナはホッとして壁から手を離して、再びベラサピアと対決する。

 一方バオちゃんことバオネーシャはキャプトーが操るハントロイドと戦っていた。突進して牙を向けたり鼻で叩きつけようとしたりと攻撃をするが、ハントロイドはびくともしない。

「バオちゃん、まけりゅな! やるきぜんかいだぉ!!」

 ピリンがバオネーシャに命令を出す。ハントロイドも負けじとバオネーシャの鼻を持ち、右手で額を押す。

「バオオオオッ」

 ハントロイドに鼻を掴まれて痛がるバオネーシャは暴れだして体を家々にぶつけて、建物の窓ガラスが割れ壁にひびが入る。

「うおおおおい、バオネーシャが痛さのあまり暴れてっぞ! ていうか、俺たちまで振り落とされる!」

 必死に暴れるバオネーシャにしがみついているドリッドがピリンに言った。

「みんな、我々の手でハントロイドに銃弾を当てるんだ!」

 グランタス艦長が背中にしがみついている艇員(クルー)に言った。

「わっ、わかりました!」

 グランタス艦長、ドリッド、アジェンナ、ブリックは携帯銃(ハンドライフル)を持ち、ハントロイドに狙いを定めて引き金を引こうとするが、中々狙い定まらない。バオネーシャが暴れ狂ってしまうのも無理はない。

「これで終わりや!」

 ハントロイドに乗るキャプトーがバオネーシャの鼻を手から離して両拳を合わせて叩き潰そうとしてきた。

「今だ! 一斉に撃て!!」

 グランタス艦長がドリッドたちに命じた。ピリンを除く四人は一斉に携帯銃の引き金を引き、四人分のエネルギー弾丸はハントロイドの拳に当たって爆破した。

「しもうた! つい手を離してしもうた!」

 操縦席のキャプトーがハントロイドの手が壊されて配線や基盤がむき出しになったのを目にして引く。

「よ~し、バオちゃん。はんげきだぉ!」

 ピリンがバオネーシャに命令する。バオネーシャは目に熱意を込めてハントロイドに突進して太く長い鼻で叩きのめしたのだった。

「あだーっ!!」

 操縦席のキャプトーにバオネーシャの鼻が当たり、配線ケーブルやら他の機器も傷つけられたためショートしてハントロイドは爆破してその破片は町中に散ったのだった。

「いやったぜ! ハントロイドを倒したぜ!」

 ドリッドが大喜びして右手を上げる。

 その頃、リブサーナはベラサピアと交戦中だった。リブサーナが拳を突き出せばベラサピアが平手で受け止め、リブサーナが相手の脛を目掛けて蹴ろうとすればベラサピアが易々と避けるという具合に。

 しかしどちらも能力が似ているのか汗だくになり息を切らしている。

「なかなかやるわね。根性だけは褒めてやってもいわ」

 ベラサピアがリブサーナに言った。

「わたしは......、まだやれます!」

 リブサーナが体勢を整えて構える。リブサーナが疲労していなけれなスタミナと根性の続く戦士だと知ったベラサピアは自分の方に限界が来ていることに気づいた。

(あ~、このまま続けていたら、私の方がもたないかも。そもそも私、頭脳派だし。ここはアレを使うか......)

 そう悟ったベラサピアは、エナメルグローブの下に隠されているブレスレット型装置にスイッチを入れた。

「わっ」

 ベラサピアがブレスレット型装置のスイッチを入れた時、彼女の手首から銀灰色の光が発せられ、リブサーナはその眩しさに目をつむるも、まぶたを再び開けた時には目の前に変化したベラサピアの姿を見て仰天した。

 変化したベラサピアはマゼンタ色の装甲に覆われていたからだ。頭部は黄色いバイザーと複眼型センサーとレーザーが装備され、胸と腰にも装甲、背中は甲翅と薄翅型の装甲に覆われ、光を発する虫、蛍を思わせる風貌だった。首から下は紫色のアンダーに覆われていた。

「兵器商人リークスダラーから仕入れたマイティスーツよ。硬度軽金属、耐電耐炎耐水アンダー、そして何より軽磁気による攻撃力の強化よ!」

 ベラサピアが自身がまとっているマイティスーツの説明を終えた時、リブサーナに上段回し蹴りを仕掛けてきた。リブサーナは急いでよけ、ベラサピアの蹴りが地面に叩きつけられ、石畳が砕けて地面の上が拳ほどに凹んだ。リブサーナはベラサピアがマイティスーツによる強化といえどその威力に引く。

(まともに喰らったら危ない......!)

「反撃しないのなら、こっちから行くよ!」

 ベラサピアがリブサーナに攻撃を仕掛けてくる。

「うぐぐ......、くそ......」

 操縦席から放り出されたキャプトーは所々ススだらけになり服も焦げ這っていると、妖獣バオネーシャをピリンの故郷フェリアス星に帰して地上に足を着けたグランタス艦長たちが前に立ちふさがる。

「ヒ、ヒエッ! ワンダリングス!?」

 キャプトーが顔を上げて起き上がって逃げようとしたところ、ドリッドが素早くキャプトーの右手首をつかんで手錠をかけた。

「宇宙奴隷商人キャプトー、異星人捕獲罪及び人身売買法違反で逮捕する!」

 こうしてワンダリングスは超能力種族の多いブラッド星で非超能力者を捕まえて奴隷にしようとしていたキャプトーを逮捕するミッションを完了した。

「あっ、そうだ。リブサーナは!?」

 奴隷商人との戦いに夢中でリブサーナのことを置いてしまたアジェンナが思い出した。

 リブサーナは苦戦していた。マイティスーツを身につけたベラサピアは手強く、押され押されつつの状態になっていた。スーツによるパンチやキックを受けたらたまったものではないと避けまくりであった。

「肉弾戦じゃ歯が立たない。こうなったら武器で装甲を引っ掻くしか......」

 リブサーナはそう判断してすね当ての中に収められた短刀を取り出して構える。ベラサピアが回し蹴りを仕掛けてきたのでリブサーナは右手の刃を真上に走らせて斬りつけようとしてきた。

 しかし、そうはならなかった。

 ベラサピアのカカトに短刀の刃が触れて短刀が折れてしまったのだ。

(そんな!!)

 リブサーナは自分の持っていた短刀がたったの一瞬で折れてしまったのを目にして静止してしまう。

「隙あり」

 ベラサピアの拳がリブサーナの胸鎧に触れ、リブサーナはその衝撃で押され飛ばされ、地面に当たった時、中心に亀裂が入った胸鎧が砕けてリブサーナは仰向けに倒れる。

「り、リブサーナ!」

「サ、サァーナ!」

 リブサーナの様子を目にしたアジェンナとピリンが思わず叫んでしまった。リブサーナは生きていたが起き上がれず左手で胸を押さえていた。

「......っ!!」

 ベラサピアが足を止め、舌打ちをする。そして銀灰色の光に包まれたかと思うと、黒いエナメル服の姿に戻る。

「運が良かったわね。このマイティスーツ、試験段階なのよ。今んとこ五分が限界。五分以上使っていたら私の身が危ないからね」

 ベラサピアがリブサーナにマイティスーツの性能を教えると大きく跳躍して建物の屋根をつたって去っていった。

「また負けた......」

 リブサーナは悔しがったが、どうにもならなかった。

 

 それから数時間後に丸みを帯びた青と白の機体の宇宙連合軍の宇宙艇がやって来て、婚の軍服と軍帽姿の軍人たちがキャプトーを連行した。ワンダリングスの前に長く垂れた耳に白い体毛のオミクロン星域のババウ星人中将ポーティが敬礼する。

「今回もありがとうございます、グランタス殿。お忙しい中ご苦労様です」

「いいえ、それには及びません。ですが、この頃宇宙各星域で犯罪率が高くなっているらしいじゃないですか」

 グランタス艦長がポーティ中将に言う。

「ええ、まぁ......。逮捕した者の中には"あのお方"に仕えていると調査が思ってたよりありました」

"あのお方"......。ベラサピアもそう言っていたのを思い出す。

「ワンダリングスのみなさーん!」

 グリジアがやってくる。グリジアは建物や道が壊れていたりハントロイドの残骸を見てから、ワンダリングスに伝える。

「西町のカミガン人は全員無事です。あと町の修繕はブレドリー帝国復興支援部隊が担うことになりましたから安心してください」

「ああ、すまないな......。だけど......」

 グランタス艦長は口をつぐむ。グリジアはリブサーナを見て彼女の様子が暗いことに気づく。

「何があったんですか?」

「いや、今は何も言わないでくれ」

 ブリックがグリジアに言った。ブリックの手には壊れたリブサーナの鎧が収められていた。

 そしてワンダリングスはブラッド星を去り、紫紺の地に銀粉や色石を散りばめたような宇宙空間に入る。ウィッシューター号内の装備保管室でブリックが壊れたリブサーナの鎧を見て呟く。装備保管室は各人の鎧を収めておくロッカー、壁には剣や槍が掛けられ、小さな長方形の台は武器を磨いたり手入れしたりするものであり、棚にはサビ止めの油や砥石などの道具が収納されている。

「オーロリウムをはじめ、純鉄や鉛も入ったこの丈夫な鎧を砕くなんて、マイティスーツはそんなに強いのか?」

「うん。でもベラサピアが試験段階だって言っていた」

 リブサーナが答える。

「破片は全部集めたから、これを宇宙製鉄所に持っていけば修理できるだろう。リブサーナも骨や内臓は無事なようだし」

「うん。艦長やドリッドに鍛えられていたおかげかな......」

「それにしても、ベラサピアという娘が身につけていたマイティスーツのことだが、改良が進めば進むほど、戦闘時間が長く装着者の体にも負担がかからない性能になれば厄介だな。

 そのような輩がマイティスーツを持てば犯罪や暴動が増加するに決まっている。

 もしかしたら我々や連合軍にも装備品の強化を求めるだろう。いつまでも昔と同じってわけにはいかないだろう」

 ブリックが今後の予想を語った、ベラサピアやキャプトーなどの犯罪者を統べるという"あのお方"はどんな者かわからないけれど、戦いはますます厳しくなる。

 宇宙には戦争もテロリズムもない星もあれば、戦争やテロリズムが当たり前の星もある。暴れる者もいれば制する者もいる。それが武器なのか言葉なのか、それとも別の何かなのか個々次第である。

 戦いの終わりには平和が訪れる。それは誰もが信じていること。

 リブサーナはいずれ自分とベラサピアとの勝負に決着をつけてみせると心に決めていた。

 

〈第五弾・完〉